【指導参考事項】
根室地方の採草地における牧草生産力の実態とその規制要因の解明 ならびにそれに基づく技術的収量改善指針 北海道立根釧農業試験場 |
目的
(1)根室地方の採草地の牧草生産力を広く実態調査する。
(2)牧草生産力の規制要因を明らかにする。
(3)牧草生産力向上のための技術的改善指針を示す。
調査方法
調査時期:1979年6月18〜21日(収量、植生、土壌採取)。
調査対象地点:758カ所の採草地。
対象草地を所有する農家数:751戸(全農家数の28%)
調査項目:収量(生草、乾物)、草地の植生(冠部被度、一部は重量割合も調査)、土壌(0〜5㎝、代表地点は0〜20㎝もあわせて採取)の化学性、聴取および書類調査項目(経営、草地の維持管理などに関する項目)。全部で182項目。
調査結果
(1)根室地方の採草地における牧草収量、植生、土壌の化学性、草地造成時の土壌改良資材の施用量、維持段階における施肥管理、さらに対象草地を所有する農家の経営概況が明らかにされた。その結果、次のようなことが問題点として認められた。
1)根室地方でも、草地の集約利用が指向されているが、そのための草地造成、維持管理技術が伴っていない。
2)草地の植生では、赤クローバ(Rc)がほとんどの草地で存在しない。ケンタッキーブルーグラス(Kb)やレッドトップ(Rt)、ラジノクローバ(Lc)、白クローバー(Wc)などは、その割合が多いか少ないかに偏在している。
3)造成時の土壌改良資材では、リン酸資材が少ない。
4)草地の維持段階では、K20施肥量が少ない。
5)土壌(0〜5㎝)の化学性では、土壌のP205、K20含量が大部分の草地で土壌診断基準値を下まわり、MgO含量についても基準値未満の草地が多い。
(2)生草収量に及ぼす要因(植生、施肥管理、土壌の化学性、農家の経営的要因)について、相互関係を検討し、次のようなことが明らかとなった。
1)土壌の化学性が悪化すると、Kb・Rt割合が増加し、低収化傾向が強まる。
2)土壌の化学性は、施肥管理と密接に関連し、さらに作土構成火山灰の性質にも大きく影響をうける。
3)経営的ないくつかの要因は、それぞれ施肥管理や草地の利用管理に影響を及ぼし、その結果として、植生や土壌の化学性に関係し、生草収量に影響を及ぼす。
(3)生草収量に影響を及ぼす各要因を、収量に対する影響程度で評価することを試み、土壌の化学性と、造成後の経過年数によって収量規制要因が異なることを明らかにした。あわせて、収量規制要因の収量に対する影響程度が明らかとなった。
(4)実態調査で明らかとなった問題点、さらに、土壌の化学性と造成後経過年数による区分ごとに明らかとなった収量規制要因に対する改善指針を示し、牧草生産力向上のための技術指針とした。
主要成果の具体的数字
分 類 |
土壌の化学性 | 不 良 | 普 通 | 良 | 重相 関係 数の 平均 増加幅 |
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造成後の経過年数 | 5年以内 | 6〜9年 | 10年以上 | 5年以内 | 6〜9年 | 10年以上 | 5年以内 | 6〜9年 | 10年以上 | ||
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▲裸地割合 | ・Ti被度 | 〜 0.5 〜 0.4 〜 0.3 〜 0.2 〜 |
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・ha当肥料費 ・土壌のMgO含量 |
▲裸地割合 | ・N施肥量 | ・年間施肥量 | ・K2O施肥量 ▲裸地割合 |
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・ha当肥料費 ▲広葉雑草被度 |
・Ti被度 | ・Ti被度 | ・土壌のK2O含量 ▲Kb・Rt被度 ・土壌のP2O5 | ▲MgO施肥量 | ▲土壌のCaO含量 ▲広葉雑草被度 ・Ti被度 ▲裸地割合 ・土壌のPH(H2O) |
・N施肥量 ・年間施肥量 |
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・MgO施肥量 ▲裸地割合 ▲イネ科雑草被度*1 ・土壌のCaOの含量 ▲Kb・Rt被度 ・N施肥量 |
▲Kb・Rt被度 ・K2O施肥量 ・N施肥肥料 ・経過年数 |
▲裸地割合 ・土壌のPH(H2O) |
▲土壌のCaO含量 ▲裸地割合 ・K2O施肥量 ▲Kb・Rt被度 ・P2O5施肥量 |
▲裸地割合 ・Or被度 ▲イネ科雑草被度 |
・土壌のPH(H2O) ・Lc・Wc被度 |
・Ti被度 | ・土壌のMgO含量 ・年間施肥量 |
・Or被度 ▲Mf被度 |
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・Or被度 | ▲イネ科雑草被度 ・MgO施肥量 |
・Or被度 ・MgO施肥量 ・Mf被度 |
▲Mf被度 ▲イネ科雑草被度 ・土壌のP2O5含量 ・Lc・Wc被度 |
・土壌のCaO含量 ・K2O施肥量 |
・K2O施肥量 ・Or被度 ・N施肥量 |
・土壌のP2O5含量 ・N施肥量 |
・経過年数 | ・P2O5施肥量 ・K2O施肥量 ▲裸地割合 |
指導参考上の注意
土壌の化学性の判定は、土壌診断を完全に実施した上で総合的に判断すること。