【指導参考事項】
畑作物の生産性に関与する土壌pH、石灰飽和度の相互関係
(昭55〜57年)

道立北見農試・土壌肥料科
道立十勝農試・土壌肥料科
道立中央農試・土壌改良第2科

目  的
 畑作物の生育、収量と土壌pH、石灰飽和度との関係を明らかにし、土壌診断基準確立の基礎資料とする。

試験方法
1.北見農試(湿性黒色火山性土供試)……供試作物:ばれいしょ、てん菜、秋小麦ほか4作物
 1)硫黄用量試験(バット試験、S57)
 2)炭カル用量試験(輪作畑、S55〜57)
 3)炭カル・石こう用量試験(輪作畑、S55〜57)
 4)炭カル・石こう施用試験(牧草転換畑、S57)
 5)その他各種ポット試験
2.十勝農試(褐色火山性土、湿性厚層黒色火山性土供試)……供試作物:てん菜、豆類、小麦、ばれいしょ
 1)酸性改良試験(S54〜57…炭カル、石こう使用によるほ場試験、S47〜51…炭カル使用によるほ場試験)
 2)炭カル施用量の算定試験(主要4土壌型における現地枠試験)
3.中央農試(放出物未熟土、褐色火山性土、疑似グライ土供試)…供試作物:てん菜、大豆、えん麦土壌pH水準3(高=6.5以上、中=6前後、低=5前後)×石灰水準3(多=石灰飽和度の90%前後、中=60%前後、低=30%前後)、使用資材は炭カル、石こう、硫黄、1区1㎡の枠試験(S54〜57)

試験結果の概要
1.北見農試
 1)畑輪作を行なう上で、重要とみられる作物の初期生育に対する酸性障害はpH(H2O)4.5以下になると認められ、pH4.5に対応するH2O-Alは1.9ppm1、H2O-Mnは6.6ppm、ex-Alは9.54mg/100gであった。
 2)畑作物の生育・収量はpH(H2O)5.5〜6.0、飽和度50〜60%の範囲内で良好となる場合が多く、通常の輪作畑ではこの数値を適正領域とみなした。また、この領域で生育した作物の増収効果には収穫指数の向上が関与していると考えられた。
 3)しかし、pH5.5〜6.0の領域でも、ばれいしょは低pH側で、秋小麦は高pH側で、てん菜は両者の中間で高収となった。
 4)酸性障害の発現しない条件では、対象となる土壌が持っている養水分供給上の問題点を解明することが先決で、その結果に基ずいた土壌改良を加える必要が認められた。
 5)0.01M-CaCl2使用によるpH測定は、土壌サンプルの採取位置、採取時期、あるいは施肥の相違に基ずく変動を緩和する方向にあるが、より一層の検討が必要と考えられた。
2.十勝農試
 1)火山性土壌の酸性改良目標値は、作物収量および土壌緩衝能を考慮するとpH6.0、石灰飽和度60〜80%であった。ただし、CECが20me/100g以下の褐色火山性土では石灰飽和度よりもpHを基準とする。
 2)十勝地方の石灰施用量は、主要4土壌類型における酸性矯正値から算出し、早見表を設定した。
3.中央農試
 1)未耕地土壌を用い石灰質資材および硫黄処理を行なって4年間試験をした結果、3土壌ともpHは目標値を確保できたが、石灰飽和度は年次の経過に伴ない目標値に向かったものの、なお、へだたりのあるものが多かった。
 2)えん麦収量に対する適正pH値は造成当年で、放出未熟土では5.9〜6.5、褐色火山性土では5.5〜6.5であり、疑似グライ土では5.3前後であったが、最終年では前2者で6前後、疑似グライ土で4.8前後であった。
 3)てん菜(造成2年目)はいずれの土壌でも高pHほど糖量が多く、火山灰系の2土壌でpHと糖量は直線関係にあったが、疑似グライ土ではpH5,5以上では横ばいとなった。
 4)以上のことから、石灰含量の低い土壌では、作物の生育収量はpHに敏感に反応するが、熟畑化に伴なって石灰含量が高まった条件では、それより低めのpHでも生育に支障はないと考えられる。
4.北見、十勝、中央の総合結果
 1)北見農試1)に同じ
 2)中央農試ではpH4.5以下になる試験区が認められ、それらの試験区の収量は低収となることが明らかになった。
 3)畑作物の収穫目的物収量はpH(H2O)5.5〜6.0の範囲で良好となる場合が多く、この領域で生育した作物の増収効果には収かく指数の向上が関与していると考えられた。
 4)しかし、pH5.5〜6.0の領域でも、ばれいしょは低pH側で、てん菜は高pH側で、小麦、豆類は両者の中間で高収となることが明らかになった。
 5)畑作物の収量と石灰飽和度との間には一定の関係が認められなかったので、石灰飽和度を基準とするよりも土壌pHを基準として石灰質資材の施用を行なうのが合理的である。
 6)北見農試4)に同じ。

主要成果の具体的数字
1.北見農試の成績




Ca(Kg/10a)* 跡地pH(H2O) 石灰飽和度(%) 乾物収量比(%)**
S55 S56 S55 S56 S57 S55 S56 S57 てん菜 ばれい
しょ
秋小麦
炭カル 石こう 炭カル 石こう 無追肥 N追肥








1 0 0 0 0 5.19 5.10 5.33 32.7 33.1 32.9 1
(1192)
2
(777)
3
(382)
3
(455)
2 100 0 100 0 5.35 5.70 5.56 39.0 52.4 39.6 99 109 113 108
3 200 0 200 0 5.65 5.77 5.98 49.4 64.7 50.7 105 101 107 111
4 300 0 300 0 5.68 6.28 6.14 55.4 79.5 58.2 110 102 116 118
5 400 0 400 0 5.84 6.51 6.25 61.3 87.9 58.3 107 101 114 111
6 0 100 200 0 4.98 5.54 5.64 42.3 54.5 39.3 101 112 106 107
7 0 200 200 0 4.89 5.42 5.33 48.2 58.0 41.8 105 103 108 107
8 0 300 200 0 4.87 5.41 5.40 58.8 72.0 46.0 101 104 99 112
9 0 400 200 0 4.78 5.28 5.22 81.5 66.8 44.5 102 103 107 107




1 0 - - - 5.46 ***
5.47
5.48 39.2 ***
40.1
41.0 2
(1089)
3
(793)
( - ) 1
(400)
2 250 - - - 5.70 5.62 5.54 47.6 46.6 45.7 107 110 - 107
3 500 - - - 5.97 5.83 5.69 58.5 53.6 48.8 108 105 - 110
4 750 - - - 6.37 6.09 5.81 75.9 64.8 53.7 106 100 - 107
5 1000 - - - 6.83 6.36 5.89 94.2 76.1 58.0 104 100 - 105
*炭カル試験の数値は炭カル施用量を示す。
**( )は実収量(kg/10a)であり、その右肩の1はS55、2はS56、3はS57と試験年次を示す。
***S55とS57の平均値で示した。

2.十勝農試の成績


項目/
区名
跡地pH(H2O) 無処理区に対する収量指数(%)
S54 S55 S54・てん菜 S55・豆類 S56・小麦 S57・ばれいしょ
褐火 黒火 褐火 黒火 褐火 黒火 褐火 黒火 褐火 黒火 褐火 黒火
1 無処理 5.55 5.60 5.60 5.42 (5940) (5970) (239) (141) (139) (309) (3950) -
2 炭カル125 6.10 5.90 5.78 5.55 100 107 103 128 90 92 99 -
3  〃  250 6.50 5.90 5.80 5.70 104 105 104 118 104 95 98 -
4  〃  500 6.58 6.10 6.00 6.05 103 110 97 121 100 106 99 -
5 石こう170 6.05 5.70 5.95 5.45 104 101 103 102 102 90 - -
6  〃  340 5.85 5.35 6.00 5.43 103 100 95 102 96 92 - -
7  〃  680 5.70 5.15 5.92 5.35 101 98 96 105 106 99 - -
褐火:褐色火山性土 黒火:湿性厚層黒色火山性土 ( )は実収量(Kg/10a)

3.中央農試の成績(てん菜、S55年)


処理 跡地pH(H2O) 石灰飽和度(%) 菜根重・収量比(%) 根中糖分(%)
pH 石灰 放未 褐火 疑グ 放未 褐火 疑グ 放未 褐火 疑グ 放未 褐火 疑グ
1 7.1 6.5 6.5 97 65 94 (11.2) (13.8) (11.9) 17.0 16.2 16.8
2 6.9 6.7 6.8 72 74 91 115 103 99 17.1 15.5 17.1
3 6.7 6.9 6.8 75 72 75 111 96 87 16.8 17.2 17.5
4 6.0 6.2 5.4 46 43 76 104 103 95 15.9 15.8 16.8
5 5.8 6.0 5.2 43 32 64 101 91 100 16.4 17.4 15.9
6 6.0 5.9 5.5 44 32 48 97 88 88 17.0 16.8 17.4
7 5.0 5.2 4.3 26 22 87 105 95 89 15.2 15.6 16.1
8 5.0 5.1 4.3 26 22 54 101 89 84 15.0 15.1 14.8
9 5.2 5.3 4.6 27 20 43 94 95 75 15.6 15.1 14.3
放未:放出物未熟土 褐火:褐色火山性土 疑グ:疑似グライ土 ( )は実収量(Kg/㎡)

普及指導上の注意事項
1)畑作物の適正pH領域は、5.5〜6.0の範囲であるが、現行の石灰算出法には問題点が残されていることを考慮して資材施用を行なうこと。
2)ばれいしょを中心とした輪作体系には低pH側が、てん菜を中心とした輪作体系には高pH側が有利になるものと考えられる。
3)石灰質資材は、土壌pHを基準として施用する。