【普及奨励事項】
1.課題の分類  線 虫・畑 作
2.研究課題名
  ジャガイモシストセンチュウの防除技術確立
    6)伝搬防止
3.期  間  昭和48〜57年
4.担  当  中央農試病虫部.畑作部
5.予算区分  道 費
6.協力分担  ホクレン、澱粉工業協会、斜里農協、斜網東部農改

7.目  的
 澱粉工場・製糖工場などの沈澱池および堆積土砂中または堆肥造成中における線虫の生死を知り、その伝搬防止の対策を見い出す。

8.試験研究方法
(1)澱粉工場沈澱池内における線虫の生死
  線虫高密度土壌500gを150μm目のテトロン布に2重に包み、沈澱池内の泥の中の高低3カ所に工場操業終了後に埋没し、翌春堀り出して生死を判定した。生死判定はピク口口ン酸による卵のふ化及び顕微鏡による観察などで判定した。
(2)製糖工場沈澱池内における線虫の生死
  ホクレン中斜里工場第2沈澱池に、第1試験は昭和56年4月16日〜7月23日まで、第2試験は昭和56年9月3日〜57年7月17日まで線虫を埋没して生死を判定した。線虫の試料調製および生死判定は(1)に準じた。
(3)テンサイ堆積遊離土砂中における線虫の生死
  テンサイの細根・茎葉が約20%含まれる堆積土砂の山(40m×45m×3.5m)の中に昭和55年6月4日〜11月5日まで線虫を埋没して生死を判定した。線虫の試料調製および生死判定は(1)に準じた。
(4)堆肥造成中における線虫の生死
  網走市、斜里町の4カ所でパーク、糖蜜、豚糞、麦稈、澱粉粕、鶏糞などを原料として堆肥を造成した。この中の中央部および側部に線虫を昭和54年9月から11月または12月まで埋没して生死を判定した。線虫の試料調製および生死判定は(1)に準じた。

9.結果の概要・要約
(1)澱粉工場沈澱池内に埋没したシスト内卵のふ化は中斜里工場の地表部分でわずかに認められたほかは全く認められず、ほぼ完全に死滅したものと考えられる。その原因としては第1図に示したように還元状態による酸素不足と推定された。
(2)製糖工場沈澱池内に埋没したシスト内卵のふ化は、4月〜7月埋没した試験ではかなりふ化し生存虫の多いことが認められたが、9月〜翌年7月まで埋没した試験では全くふ化せず強還元下における酸素不足のため死亡したものと考えられた。なお夏期間のみの埋没では還元状態とはならず、短期間で乾燥状態となったため生存虫が多くなったものと考えられる。
(3)テンサイ堆積遊離土砂中に埋没したシスト内卵のふ化は全く認められずほとんど死滅したものと考えられた。
(4)造成中の堆肥内に埋没したシスト内卵のふ化は全く認められず全て死滅したものと考えられる。この原因としては第2図に示したように造成中の発酵熱と発酵による酸素欠乏などが考えられる。

10.主要成果の具体的数字
 第1表 澱粉工場沈澱池内のシストの生死
  ふ化率
羊蹄澱粉工場表面から
沈澱池
0 0%
10 0
50 0
100 0
中斜里澱粉工場表面から
沈澱池
0 0.5
10 0
50 0
100 0
対照(3℃保存) 84.1

 第2表 製糖工場沈澱池内のシストの生死
  ふ化率
第1試験(中央部)底から
(4月16日〜7月23日
       まで埋没)
100cm 7.5%
150 15.1
190 69.9
第2試験(中央部)底から
(9月3日〜7月17日
       まで埋没)
50 0
100 0
150 0
対照(室内保存) 98.5


第1図 羊蹄澱粉工場沈殿池内の酸化還元電位


第2図 堆肥造成中の温度経過

11.今後の問題点

基本的防除指針
 ジャガイモシストセンチュウ対策は早期発見、伝搬防止並びに発生ほ場における防除を総合的に進める必要がある。

 1.線虫密度訴査法
 耕起整地をして作土の線虫密度が均一となった圃場から土壌を採集し、常法により分離したシストを破砕して、乾燥土壌1g当りの卵数を調査し線虫密度とする。
 線虫密度の区分は馬鈴しょの被害程度によって、乾燥土壌1g当り10卵以下を低密度(わずかな被害)11〜100卵を中密度(中程度の被害)、101卵以上を高密度(著るしい被害)とする。

 2.防除手段
 1)輪 作
 非寄主作物を1作すると、線虫密度は約30%低下する。しかし9年輪作のように8年間非寄主作物を栽培しても線虫は生存しており、感受性品種の栽培により線虫密度は一気に高まるので、輪作が本線虫防除のきめ手とはならない。しかし馬鈴しょの収量及ぴ基幹作物の種類を考書し、その品種選定及び栽培法の改善を行うと、4年輪作が可能と考えられる。この場合、羊蹄山麓の例では小麦→小豆→てん菜→馬鈴しょ等か考えられる。
 2)低抗性品種
 抵抗性品種には幼虫は侵入するが、雌成虫・シストに成育しないので、その栽培により線虫密度は70〜80%低下する。しかし中〜高密度圃場に栽培すると幼虫侵入の影響で減収するので避ける。東ドイツ原産の澱原用品種「ツニカ」が優良品種とされ(昭和52年指導)、本品種は浴光催芽とやや密植栽培で収量は高まる。
 3)殺線虫剤
 (1)土壌燻製剤として、D-D油剤60L/10a及び1、3一ディク口口プロペンを主成分(92%)とする油剤30〜40Lの9月下旬〜10月中旬処理では約70〜80%の密度低下か得られ(昭和50、52、55年指導)、また半量づつの2回処理の効果が1回処理よりも高い。但し、処理後に感受性品種を栽培すると線虫密度の回復する例が多いので、非寄主作物を栽培する。
 (2)馬鈴しょ植付時にオキザミル(1%)粒剤の30Kg/10aを、線虫の被害を回避し、線虫の増殖を抑制する(昭和50年指導)ため、全面施用して土壌混和する。

 3.総合的な防除対策
 4年輪作を基本とし、これに上記の防除手段を組合せて栽培する。
 線虫密度が中〜高密度の時には、土壌燻製剤を馬鈴しょまたは小麦収穫後の9月下旬〜10月中旬に処理して、翌年に非寄主作物を栽培し、低密度とする。
 馬鈴しょは低密度圃場のみに栽培するが、感受性品種を栽培する時には線虫の増殖を抑制するため、植付時に粒剤施用を行なう。抵抗性品種と感受性品種との交互栽培を行なう。

 4.伝搬防止
 1)発生地域内の澱粉工場及び製糖工場沈澱池内の堆積土砂中で越冬したシスト内卵は、ほとんど死滅したと考えられるが、その表面及ぴ周辺の乾燥のしやすい部位では生存の可能性があるので、この土壌を育苗などに用いる時は発生地域内に止める。
 2)発生地域内で堆肥造成をする時は、ていねいに切り返し、踏圧を加え、全体を発酵させてから使用する。この時も表層部の線虫が生存している例が多いと考えられるので、70℃以上で焼いてから(昭和53年指導)利用する。
 4)馬鈴しょ以外のナス科作物(トマト、ナス)にも本線虫が寄生、増殖するので、発生地域からの苗の移動をしない。