【指導参考事項】
1.課題の分類  十勝農試 経営方式 経営設計 酪農
2.研究課題名  乳肉複合生産による酪農経営発展に関する研究
3.期 間  昭和55〜57年
4.担 当  十勝農試 農業機械科
5.予算区分  総合助成
6.協力分担  滝川畜試、根釧農試

7.目的
 牛乳消費の伸びが鈍化したことにより、乳価据え置き牛乳生産量低迷という事態をむかえ、酪農経営はきわめて厳しい状況に直面している。このような状況の中で、酪農経営が所得を拡大し、経営を発展させてゆく1つの方途として、肉牛部門を追加する「乳肉複合経営」が考えられるが、この複合経営の有利性と成立の条件を明らかにする。

8.試験研究方法
 (1)研究方法:既存の統計資料により酪農動向を整理し、アンケート調査によって酪農家の志向を把握した。複合化の有利性の検討にあたっては、農家での聴き取り・作業日誌及び既存資料に基づいて経営モデルを構築し、線型計画法によるシミュレーションを行なった。
 (2)調査対象:豊頃町《酪専1戸、乳肉複合(導入型)1戸》

9.結果の概要
 (1)アンケート調査(55年実施)結果によって酪農家の意向をみると、経営対応としては乳用牛部門の改善すなわち個体能力の向上(59%)、生産費の低減(45%)、個体販売の重視(37%)が考えられており、乳雄の育成・肥育を考えている農家は極めて少ない(4%)。この理由として乳用種の肉用価格は変動が大きく(17%)、安い(19%)うえに相対的にスモールの価格が高いいう価格面での障害があげられる。また肉用牛の飼養管理技術の習得が難しいことや、複合化による畜舎内作業の煩雑化も妨げとなっている。

 (2)一貫型複合経営の有利性と定着性
 ①乳量規制などの場合に経営内副産物(乳雄、乳廃、乳雌)を肉用として育成・肥育し、肉牛価格に合理的に対応することによって45万円前後の所得増が期待できる。(第1表)
 ②この複合化が成り立つ条件は、肉用に仕向けるべき牛の選択を含めた飼料管理技術の習得、若干の労働力の余裕、肉牛用飼料の購入のための運転賃金、素牛で販売する場合の買い手の確保、肉牛価格の安定化及びスモールと肥育牛との価格のバランスなどである。
 ③しかしこの型の複合化では、所得増加が小さく乳量水準の向上などによって補填できる。家族労働力の燃焼は十分でない。少頭数でこのための投資もないため部門としての位置づけが低い。乳量規制がないものとして耕地規模が拡大すると酪専化の傾向をとる。(第2表)などから構造的に定着する可能性は少ないと考えられる。この型の複合化は特殊な条件の下で一時的に成立するといえる。

 (3)導入型複合経営の有利性と定着性
 ①畑作物の導入が困難なところで労働力に余裕があるばあい、その利用度を高めるために乳雄を購入し、飼養をすることによって150〜200万円の所得増加が期待できる。肉牛の飼養管理労働の能率が高ければ労働力に若干の余裕があると100万円の所得増加が可能である。(第3表)
 ②導入型複合経営が成立する条件は、耕地・経産牛頭数規模に対して相対的に労働力に余裕があること、乳雄の飼養管理技術を十分習得すること。創業時の飼料購入のための運転資金の手当てができること。素牛導入でなければ複合化の有利性はないので素牛が均一で肥育効率の高いものが導入できるよう素牛生産農家との連携が取れること。肉牛部門は価格変動に伴う所得の増減が大きいので、酪農部門で一定の所得を確保できる程度の酪農の部門規模をもつこと、などである。
 ③この型の複合化では、所得の増加が比較的大きく、また家族労働力も利用度も十分に高めることが可能である。部門しての規模が大きくなり投資も必要となるので肉牛部門の位置づけは高い。仮に若干の耕地規模拡大があったとしても、酪農部門の労働能率が同じであれば、肉牛部門が有利性を失なって排除される可能性は小さい。以上より判断して、導入型複合経営は一応構造的に定着しうるといえる。ただし、所得の変動が大きいことや、上記②の条件を充たしうるのは一部の農家に限られるであろうことを考慮すると、導入複合経営が成立するのは一部の農家に限られよう。

10.主要成果の具体的数字
第1表 一貫型複合経営の有利性 (3人、35ha、45頭、6.0t)
区  分 複  合 酪  専
項  目 乳雄技術 価格に応じて素牛または肥育牛 常に肥育牛
全  種 乳雄のみ 乳廃のみ 全  種 乳雄のみ
農業所得
   (万円)
標 準 824.51 821.56 784.42 778.78 775.59 779.20
低 位 814.49 811.19 763.59 760.16
酪専との差
   (万円)
標 準 45.31 42.36 5.22 0.42 △3.61  
低 位 35.29 31.99 15.61 △19.04

第2表 一貫性複合経営の定着性 (3人、6.0t、乳雄価格Ⅰ)
項  目 耕地 35.0 36.0 37.0 38.0 39.0 39.2
農業所得 複合 805.76 849.22 890.26 909.45 916.01 917.16
酪専 741.48 783.82 826.17 868.51 910.74 917.16
64.28 65.40 64.09 40.94 5.27 0
肉牛販売割合(%) 14.75 13.91 10.69 5.42 0.81 0

第3表 導入型複合経営の有利性 (35ha)
区  分 150頭導入 60頭導入 酪専
項目 乳量水準 3人 4人 飼養管理A 飼養管理B
3人 4人 3人 4人 3人
農業所得 5.5 657.89 935.95 787.79 823.55 580.66 826.17 659.63
6.0 717.23 990.86 885.04 932.40 661.04 930.92 779.20
6.4 782.43 1,084.24 990.82 1052.19 749.42 1,46.18 910.60
酪専との差 5.5 1.74 276.32 129.16 163.92 79.01 166.44  
6.0 61.97 211.66 105.84 153.20 118.16 151.58
6.4 128.17 173.64 80.22 141.59 161.18 135.58
経産牛頭数(頭) 22.3 29.532.0 36.2 41.0 30.3 39.5 45.0
耕地規模(ha) 29.1 35.0 34.0 35.0 29.1 35.0 35.0
 注)飼養管理A:労働能率は150頭導入タイプと同じ
  飼養管理B:労働能率は一貫型と同じ

11.今後の問題点
 (1)畑作物の導入が可能な地域での肉牛と畑作物との競争力関係
 (2)酪農部門の飼養管理・飼料給与の変化と肉牛部門の有利性
 (3)導入型複合経営のばあいの素牛供給体制

12.普及上の注意事項