【指導参考事項】(昭和51〜58年)
二酸化硫黄連続接触が農作物の乾物生産に及ぼす影響

道立中央農試環境保全部環境保全第二科

目  的
 低濃度二酸化硫黄を連続接触させた場合の農作物の生育、とくに乾物生産に及ぼす影響を明らかにする。

試験方法
 1.ガス濃度を異にした影響試験
  水稲幼植物計を用い、0.7ppmSO2、0.28ppmSO2、(ビニールハウス内接触)、0.1ppmSO2以下の濃度で2段階(グロースキャビネット内接触)、計4処理を設け、培地(K・Sの有無)、日射(制限の有無)、品種などの条件を変えてガス接触を実施。
 2.低濃度昼夜連続接触した影響試験
  そば、水稲、大豆を供試し、グロースキャビネット内において0.04ppmSO4前後、0.04ppm〜0.1ppmSO2の2処理を設けて10〜35日間の昼夜連続のガス接触を実施。

試験成果の概要
1.ガス濃度を異にしてガス接触を試み、生育・収量・体内成分調査さらに生長解析を含め検討した結果。
 1)ガス接触による悪影響は純同化率の低下とともに茎数、全乾物重、とくに根部・鞘茎部での乾物重の低下としてあらわれ、ガス濃度の低下とともに影響程度は減少した。なお、培地条件としてK欠除、硫酸根肥料の施用はガス接触影響を助長するようにみられた。
 2)純同化率の減少にはガス接触による葉身の硫黄含有率の増加とともにガス接触時の蒸散量の低下に象徴される気孔の閉鎖影響が考えられた。
2.低濃度で昼夜連続してガス接触を試み、乾物生産に及ぼす影響やその機構、ガス停止後の作物生長への影響などを検討した結果、
 1)各作物とも、ガス接触によって葉身の硫黄含有率は高まった。また、この上昇程度はドーズと正の相関々係にあった。
 2)葉身の硫黄吸収によって葉内のクロロフィル含量、糖含有率、無機成分、葉の厚さ、葉面積などに悪影響を及ぼし、乾物生産の低下が認められた。
 3)ガス接触中の乾物増加比は葉の硫黄吸収やドーズ(ppm・hr)と負の相関々係にあった。また、ガス接触影響は作物間ではそば>大豆>水稲の順に前者ほど大きく、ほぼ可視被害感受性の大小の順位と類似していた。
 4)各作物ごとに接触時間を3区分し、乾物増加の相対値の平均と各区分の平均ドーズの関係を作図し、作物生長の及ぼす限界ドーズを示唆したが、既往のデータと比べ、幾分、厳しい値になった。
 5)この要因として昼夜連続のガス接触やキャビネットの床面吹出しによるガス接触条件が考えられた。
 6)なお、ガス接触停止後の生育に及ぼす影響についてはある程度の回復が見られたが、回復の難易には作物の生育ステージやガス接触停止後の栽培期間の長短などが関与すると考えられた。

主要成果の具体的数字
1.ガス濃度を異にした影響試験
  表−1 水稲幼植物を用い、主としてガス濃度を異にした場合の乾物生産
条件 ビニールハウス内接触(昼間のみ) グロースキャビネット内接触(昼夜連続)
時期/項目 0.7ppmSO2 0.28ppmSO2 昼0.09ppm夜0.05ppm 昼0.07ppm
夜0.03〃
昼0.03ppm
夜0.03〃
+K -K +S -S
全乾物重比 86 79 99 90 98 84 93 98 96 86 118 102
全乾物の根部
分布率の比
96 88 97 87 104 90 94 100 93 106 93 103
NAR比 62 81 90 74 87 69 82 98 102 89 108 85
注)1.時期の欄でⅠはガス接触後延30〜35時間後、Ⅱ延72時間後、Ⅲ昼132時間・夜156時間後 
   Ⅳは昼173時間、夜177時間後、Ⅴ昼283時間・夜282時間後
  2.NAR比についてはそれぞれの時期までの数日間の値である。
  3.数値はそれぞれの条件について無ガス区の値を100とした指数。

2.低濃度昼夜連続接触した影響試験
  表−2 ガス接触による硫黄含有率の増加及ぴ葉の形態変化
供試
作物
硫黄含有率の増加 葉の形態変化
実験
回教
葉身 茎(葉鞘)部 実験
回数
葉面積 葉の厚さ
L H L H L H L H
そば 11 0.39** 0.93** 0.05* 0.12** 7 97.9 93.7° 101.3 93.1
水稲 11 0.17** 0.40** 0.02 0.06** 6 91.7** 93.0** 103.2 99
大豆 6 0.13** 0.23** 0.01 0.01 4 94.3 87.8 105 925
注)1.硫黄増加は各実験ごとにガス区一無ガス区を求め、平均した値
   葉の形態では各実験ごとに無ガス区を100とした比の各実験の平均値
  2.Lは0.04ppm前後、Hは0.04〜0.1ppmのガス濃度
  3.有意水準は0…10% *…5% **…1%

  表−3 ガス接触による葉身の糖、クロロフィルの変化
供試
作物
全糖 クロロフィル含量
棄位 無ガス L H 棄位 無ガス L H
そば 本葉3、5葉 0.65 0.31 0.27 本葉4葉 100 100 77
水稲 全葉 1.84 1.81 1.58 上位糞 100 83 85
大豆 本葉1〜3葉 0.56 0.55 0.48 本葉2〜4葉 100 74 64
注)1.全糖は新鮮重当りの%、クロロフィル含量は無ガス区を100とした時の比

  表−4 ガス接触による乾物重の変化
供試
作物
接触期間 実験回数 地上部
L H L H L H
そば 短期間 5(3) 113.6* 98.0 106.0 87.4° 933 75.3°
中〃〃 4(2) 95.3 78.3** 89.3° 69.0** 94.5 56.5*
長〃〃 2(1) 86.0 85.0 74.5* 63.5** 78 60
水稲 短期間 3(2) 98.3 92.0° 99.3 92.7 89 83.5
中〃〃 6(2) 97.3 94.0° 96.5 90.8* 105 100
長〃〃 2(1) 88.5* 88.5* 82.5** 80.5** 58.0° 58.0°
大豆 短期間 1(1) 98.0 86.0* 98.0 84.0° 100 84
中〃〃 3(2) 102.3 86.0** 100.3 85.7* 95 91
長〃〃 2(1) 83.0** 83.5** 89.0° 82.5* 87 77
注)1.各実験ごとに無ガス区を100とした比を各接触期間別に平均した値
  2.Lは0.04ppm前後、Hは0.04〜0.1ppmのガス濃度
  3.( )内は、根部の調査実験教
  4.有意水準 °…10% *…5% **…1%

  表−5 葉身の硫黄増加量、ドーズ、乾物増加比(ガス区/対照区)の相関関係
供試作物/項目 そば 水稲 大豆
葉身の硫黄増加量とドーズの関係 r=0.802** r=0.468* r=0.608*
乾物増加比と葉身の硫黄増加貧の関係 r=-0.734** r=-0.445* r=-0.495
乾物増加比とドーズの関係 r=-0.732** r=-0.390 r=-0.752**
*5%、**1%水準で有意性


図−1 各作物の乾物重増加比とドーズの関係
   (接触期間の長短によって3区分した場合の平均値による)

普及指導上の注意事項
 現地において低濃度二酸化硫黄による不可視害の有無を判定する場合には大気の移動観測装置やフィルタード・エア・チャンバー、オープントップチャンバーなど原因を解明する手段を用い検討した資料や場内の試験結果などをもとに総合的な立場から判断することが望ましい。