【指導参考事項】
1.課題の分類  虫害 畑作
2.研究課題名  合成ピレスロイド系化合物の殺虫剤としての適用性
3.期  間  昭和54年〜57年
4.担  当  北農試病昆部
5.予算区分  経 常
6.協力分担  農技研農薬科

7.目  的
 最近、注目をあびている新開発ピレスロイド系合成殺虫剤の寒地主要害虫に対する適用性を解析し、本系統殺虫剤使用に関する参考資料とする。

8.試験研究方法
 1)モモアカアプラムシ、ヨトウガに対する殺虫性の検定
 2)テンサイにおける残効性の検討
 3)殺虫作用の解析(ヨトウガ幼虫体内への浸透量、代謝の測定)

9.結果の概要・要約
 1)モモアカアプラムシ(無翅胎生雌成虫)に対する殺虫性
  ウイルスの媒介昆虫であるモモアカアブラムシに対し、ピレスロイド系化合物の殺虫力は極めて高く、慣用防除剤ESP(有機リン系)と対比すると、パーメスリンは50倍、フェンバレレートは100倍、フルシィスリネートは400倍である。
 2)ヨトウガ幼虫(4齢)に対する殺虫性
  やさい、畑作物の主要害虫であるヨトウガ幼虫に対し、ピレスロイド系化合物は接触毒性、食毒性ともに優れており、慣用防除剤アセフェート(有機リン系)と対比すると、フェンバレレートは接触毒性が300倍、食毒性が10倍である。
 3)テンサイにおける残効性(ヨトウガ幼虫)
  ヨトウガ幼虫防除剤のなかで最も残効性の優れているアセフェートの0.05%液の半減期まで日であるが、フルシィスリネートは0.005%液で13日程度もあり、効力の持続期間が長い。
 4)ヨトウガ幼虫体内への浸透性と代謝
  ピレスロイド系化合物は幼虫表皮から体内への浸透速度が極めて速い。幼虫の産地によりその速度は多少異なるが、パーメスリン(14C標識)の場合、施用6時間後には全施用量の80%が浸透する。浸透化合物は除々に加水分解(水溶性)し、生体内成分である脂質または蛋白質と結合(不溶性)するが、大部分は殆んど代謝分解されずに有効殺虫成分が直接殺虫の作用点に到達する。因みに有機リン系のレプトホスは浸透速度が緩慢で、6時間後15%、24時間後18%で、体内での代謝分解量が多い。
 5)ピレスロイド系化合物は畑作害虫に対し卓越した接触毒性、食毒性を有し、しかも残効性が長く、防除効果の極めて優れた殺虫化合物系であることが判明した。この要因は、14C標識合成合物による対象害虫体内への浸透速度、代謝分解物の生成過程追跡によって、ピレスロイド系化合物は害虫体内への浸透性が速やかで、しかも体内での代謝分解が少なく、したがって殺虫成分のほぼ全量が直接殺虫作用基点に到達するためと推論される。

10.主要成果の具体的数字


図1 モモアカアブラムシに対するピレスロイド系化合物の殺虫性


図2 ヨトウガ幼虫(4齢)に対するピレスロイド系化合物の殺虫性


図3 14C-パーメスリンのヨトウガ幼虫体内への浸透速度と浸透化合物の組成


図4 供試化合物のヨトウガ幼虫(4齢)体内への浸透性

11.今後の問題点

12.成果の取扱い(指導上の注意事項)
 1)ピレスロイド系殺虫剤は一般的に卓越した殺虫性と残効性とをかね備えており、今後、広範囲の害虫防除に多使用される可能性が高い。
 2)本化合物系は抵抗性を獲得し易いピレトリン系を基幹構造としているため、本系統群連用による抵抗性個体群の発達を阻止する事前対策が必要である。このため、同系統化合物系の連用をさけ、他異質化合物系との相互使用による、害虫別、作物別の防除体系を組む必要がある。