1.課題の分類 肉 牛 繁 殖 2.研究課題名 肉用牛の繁殖性の向上技術に関する試験 繁殖管理技術向上に関する試験 3.期 間 (昭54〜57) 4.担 当 新得畜試 種畜部肉牛科 研究部飼養科 5.予算区分 道 単 6.協力分担 な し |
7.目 的
外国肉専用種の効果的な繁殖管理技術について検討する。特に群飼育下でのヘレフォード繁殖牛の
生殖生理に関する個体観察を行い、更に人為的な繁殖技術としての分娩管理及び受胎管理等の技術
の応用性を試験する。
8.試験研究方法
1) 分娩管理に関する調査及び試験
①分娩状況調査:妊娠期間(妊娠日数と分娩状況)
分娩時刻の日内分布・分娩介助の実施状況
②分娩警報試験:胎胞推進型感温式分娩警報器装着試験、分娩経過観察
2) 分娩後の生殖生理機能調査
①生理的空胎期間の調査:発情再帰と発情周期日数
②ティザー・ブル同居群の発情行動調査:発情持続時間観察
3)プロスタグランディンF2α(PGF2α)注射による発情誘起・授精試験
①PGF2αによる発情誘起効果試験:用法・用量による効果、誘起発情発現時間
②PGF2α誘起発情への授精成績:人工授精による受胎成績、受精卵移植供卵牛への応用
9.主要成果の概要
1) 春分娩ヘレフォードの妊娠日数は約286日で、分娩介助例は妊娠期間が長く産子の生時体重が重い
傾向にあった。分娩時刻は夜間にもほぼ均等に分布しており4−6時間毎の看視が有効と思われた。
群飼育下でもワイアレスの分娩警報器は応用できた。分娩経過の観察から、一次破水から娩出終了
まで約1.5時間程度を要するので、胎胞の外観確認から2時間を経たものでは分娩介助を検討すべき
と思われた。
2) 子つき授乳状態でスタンディング発情を指標としての発情再帰日数は平均45日であったが、90%は分
娩後2ケ月以内に再帰をみた。再帰後の発情周期は平均21.6日で、まき牛で回帰する例も25%みられた。
ティザー・ブルを同居させて、発情持続の状況をみると、雌牛同志での乗駕許容は半日以上あるが、ティ
ザー・ブルの乗駕はその約6割の持続時間であり、交配許容は更にその8割の時間にのみみられた。交
配許容時間の極めて短いものがあり、授精の実施は発見直後と1日後の2回授精がよいように思われた。
3) PGF2αによる発情誘起は、無作為牛への少量注射より、黄体期を確認した牛への25㎎注射が有効
であった。PGF2αでの誘起発情は、注射後2〜3日目を中心に、0〜5日間のばらつきがあった。
PGF2αの誘起発情への授精は、スタンディング発情を確認した場合には、ほぼ有効な受胎性を期待で
きた。従って、注射牛の管理や看視が比較的よい受精卵移植供卵牛への応用では、満足できる受精卵の
作成と回収に成功した。
10.成果の具体的数字
表1.妊娠日数と分娩状況
妊娠日数 (平均±S.D.) |
生時体重 (平均±S.D.) |
||||
全 体(12頭) | 286.3日 | ±4.5日 | 39.4kg | ±4.5kg | |
分娩状況 | 自然分娩(6頭) | 284.8 | ±5.8 | 38.4 | ±3.4 |
分娩介助(6頭) | 287.8 | ±2.5 | 40.4 | ±5.6 |
表2.分娩時刻の日内変動
表3.一次破水から娩出までの所要時間
平均±S.D. | |
警報器装着牛(3頭) | 90.7分±32.9分 |
非装着対照牛(3頭 | 108.7 ±56.0 |
表4.発情再帰日数
分娩後日数(日) | ≦30 | 31-40 | 41-50 | 51-60 | 61-70 | 71≦ | 計 |
頭 数(頭) | 2 | 7 | 3 | 6 | 1 | 1 | 20 |
表5.分娩後の発情周期
平均±S.D | |
全 平 均 (24列) | 21.6日±2.3日 |
舎飼期 (まき牛放牧前) (7列) | 23.0 ±2.6 |
舎飼一まき牛放牧移行期(14例) | 21.2 ±2.1 |
ま き 牛 放 牧 期 (4例) | 20.5 ±2.3 |
表6.発情牛の発情持続時間
平 均±S.D.. ( 範 囲 ) | ||
雌牛同志による | 条駕許容時間 | 17時間07分±4時間19分(12時間35分〜24時間14分) |
ティザー・ブルによる | 条駕許容時間 | 10 49 ±3 17 (6 32 〜14 11 ) |
交配許容時間 | 8 17 ±3 55 (3 07 〜13 14 ) |
表7.PGF2α無作為牛への注射による発情誘起効果
PGF2α | 第2回注射後の発情誘起状況 | |||||
注 射 部 位 | 注射量 | 投与間隔 | 供試頭数 | 有効頭数 | 無効頭数 | 発情誘起率 |
腎部筋肉内注射 | 25mg | 11日 | 24 | 21 | 3 | 87.5% |
背側陰唇交連粘膜下注射 | 5mg | 12日 | 20 | 10 | 10 | 50.0% |
表8.黄体期PGF2α単一注射による発情発現までの時間
発情確認時のPG注射後時間(hrs.) | <24-48-72-96-120 | 〔有効〕 | 〔無効〕 |
頭 数 (計25頭) | 2 3 13 2 2 | 22 | 3 |
率 (%) | (22%)(60%) (18%) | (88.0) | (12.0) |
表9.PGF2α誘起発情への授精受胎成績
供試頭数 | 受胎分娩頭数 | |
発情徴候を認めたものに無作為2回授精 | 21頭 | 11頭 |
スタンディング発情確認牛に1〜2回授精 | 10頭 | 7頭 |
表10.受精卵供卵牛への応用成績:回収卵の受精成績
供卵牛№ | 過剰排卵処理 | 授精回数 | 回収卵数 | 正常卵数 | 卵発育程度 | (ランク)個数 | |
252 | PMSG-3000U | PGF2α 25mg I.M. |
5 | 1 | 1 | 桑実胚(A)1. | |
919L | PMSG-2000U | 3 | 1 | 1 | 桑実胚(A)1. | ||
1J | PMSG-3500U | 3 | 1 | 1 | 桑実胚(A)1. | ||
6J | PMSG-3500U | 3 | 5 | 5 | 桑実胚(A)2. | 後期桑実胚(A)1 胚 盤 胞 (A)2, |
11.今後の問題点
1. 分娩管理のうち特に分娩誘起技術の検討
2. 受精卵移植・人工授精・まき牛交配を複合的に応用した受胎管理方式の検討
3. 凍結受精卵移植等を応用した日常的移植受胎性向上技術の検討
12.成果の取り扱い
1. 分娩介助の必要性を妊娠日数(在胎延長)により判定する際には、牛の品種により、また飼養環境に
よって異なると思われるので、対象牛群の標準を求めるようにすること。
2. PGF2α注射による集中受胎は、発情管理が充分に行なわれている牛群では可能性があるので、
無作為群での発情誘起率を過小に評価しすぎないこと。
3. 人工授精受胎率の向上にはスタンディング発情の発見が有効であるが、これは、毎日朝・タ2回の定
時観察が基本となるので、連続した発情看視体制がない場合には、受胎率が低い場合があることに留
意すること。