【指導参考事項】
1.課題の分類
2.研究課題名
  麦わらサイレージ及び麦類ホールクロップサイレージのアルカリ処理調製法
3.期  間  昭54〜60(別枠)
4.担  当  北農試 草開発一部
          〃  畜産部
5.予  算  別 枠
6.協力分担

7.目  的
 麦わら類をサイレージに調製するときにNaOHを添加すると、サイレージ化の効果とアルカリ処理の効果が同時に起って飼料価値が著しく高くなることが知られている。また、麦類のホールクロップサイレージ調製の際に添加すると、殼実の皮が破壊されて完全に利用されるようになり、茎葉の消化率も同時に高くなって、濃厚飼料と粗飼料が半量づつ混合されたような乳肉生産価の高い飼料になることが期待されるので実施した。

8.試験研究方法
 古い乾燥したわらをサイロ詰めしてサイレージ発酵させるわけであるから、添加する水の量が重要であると考えて、この点を明らかにした。ホールクロップのアルカリ処理の場合は、肉用牛の肥育飼料として価値が高いことを肉用牛の飼養試験で実証することが重要である。主としてこの点を中心にして研究をすすめた。

9.試験結果の概要
(1)麦わらサイレージ
 ア.水分調整の効果:でき上ったサイレージの水分含量が40%になるように水を添加すればよい。
(2)麦類ホールクロップサイレージ
 ア.消化率、飼料成分、糞中排泄殼実割合に及ぼす効果:NaOHの添加量は、詰込材料乾物当り3%が適当である。
 イ.有機酸組成、消化率、摂取量、増体量に及ぼす効果:大麦またはトウモロコシ圧ぺんを1〜2Kg、肥料用尿素を100〜200g給与し、アルカリ処理エン麦ホールクロップサイレージを自由摂取させる方式で肉用牛の育成肥育ができる。
 ウ.残存ナトリウム、ミネラル出納、血液成分に及ぼす影響:未反応の残存ナトリウムは炭酸ナトリウムとなり、摂取ナトリウムの大半が尿から排泄され、血清酵素分析などからみた内蔵機能に及ぼす影響はない。
 結論:乾燥した麦わらの場合は、でき上ったサイレージの水分含量が40%になるように水を加え、微細断して苛性ソーダ溶液を添加しつつサイロに詰め込む。ホールクロップの場合は、完熟期(水分60%前後)にホーレジハーベスタで微細断して、苛性ソーダ溶液を添加しつつサイロに埋蔵する。いずれも詰込材料の乾物当りNaOHで3%になるように、20〜30%の苛性ソーダ溶液を添加する。

10.主要成果の具体的数字
水分別麦稈サイレージの飼料成分、消化率、可消化養分含有量(乾物中%)

処理 飼料成分 消化率 可消化養分
水分 蛋白 脂肪 NFE 繊維 灰分 乾物 蛋白 脂肪 NFE 繊維 DCP TDN
サイレージ水分20% 20.8 2.1 1.4 47.6 40.0 8.9 48.0 0 30.4 44.3 63.5 - 47.2
  〃    〃40% 37.8 2.4 1.0 49.0 39.4 8.2 49.2 0 35.4 44.4 63.9 - 48.0
  〃    〃60% 63.2 2.4 1.7 46.8 40.1 9.0 49.1 0 32.0 43.7 64.2 - 47.7
  〃    〃75% 73.6 2.4 1.7 45.9 41.3 8.7 42.9 0 23.7 42.5 58.9 - 44.2
供試麦稈 10.6 2.5 1.6 49.4 40.3 6.2 37.9 0 30.4 38.3 98.6 - 39.6

サイレージの有機酸組成及び消化率と肉用牛に対する給与効果
年度 1979 1980
項目/処理 添加(1.55%) 無添加 添加(3.01%) 無添加
サイレージの水分、pH、有酸組成
水分% 61.6 63.9 62.4 57.8
pH 5.21 4.85 5.50 4.86
総酸mg/原物100g 1,824. 1,780 2,139 2,131
乳酸 49. 19 135 181
酢酸 117. 94 213 208
プロピオン酸 153 - - -
酪酸 1.149 1,200 1,352 1,319
吉草酸 277 280 184 218
カプロン酸 81 188 256 206
サイレージの飼料成分/%/乾物
粗たん白 6.5 6.3 7.4 6.5
粗脂肪 2.8 2.9 3.4 3.6
NFE 54.4 53.9 52.3 54.6
粗繊維 28.1 29.1 27.4 28.0
粗成分 8.1 7.9 9.5 6.7
サイレージの消化率%
乾物 54.3* 50.2 56.6** 49.2
粗たん白質 45.9* 42.5 57.4** 46.2
粗脂肪 69.2* 64.9 71.8** 65.4
NFE 54.1 53.7 61.3** 54.9
粗繊維 55.1* 50.4 53.0** 42.8
飼料摂取量
サイレージ 8.8 7.1 8.2 7.1
オオムギ圧扁 0.9 0.9 0.9 0.9
尿素 0.1 0.1 0.1 0.1
増体量
試験期間(日) 63 63 70 70
開始時体重(Kg) 326 318 315 335
終了時体重(Kg) 381 359 385 380
増体量(Kg) 55 41 70 45
日増体量(Kg/頭/日) 0.87* 0.65 1.00* 0.64
1Kg増体に要した乾物量(Kg) 11.2 12. 9.1 12.0
1Kg増体に要したTDN量(Kg) 6.2 6.6 5.4 6.7
注) *5%有意性 **1%有意性

11.今後の問題点
 麦わらアルカリ処理サイレージを肉用繁殖牛に給与する場合は問題がないが、育成肥育牛に多給する場合は、アンモニヤ麦わらと同じ問題点がある。アンモニヤ処理とアルカリ処理のどちらを選ぶかは、経営の内容や周囲の条件による。
 ホールロップは新しく栽培しなければならないので、麦わらは根本的に異なる。飼料作物を栽培する方向に向けることは、農業の方向を変えることに他ならない。

12.指導上の注意事項
 (1)必ず大量の水に苛性ソーダを少量ずつ溶解させること。逆に苛性ソーダに水を加えると高熱になって危険であるので注意する。
 (2)皮ふ・衣服に直接付着しないようにゴム手袋、カッパ、ズボンを着用すること。