【指導参考事項】
1.課題の分類  D-15 乾草
2.研究課題名  イネ科牧草の乾草調製・貯蔵過程における養分損失に関する試験
3.期  間  (昭52〜56)
4.予算区分  道  単
5.担  当  新得畜試 草地飼料作物科
6.協力分担  な  し

7.目  的
 イネ科牧草の調製期間中の降雨による養分損失と,貯蔵期間中の養分損失について,損失をもたらす条件と損失程度の関係を検討する。

8.試験研究方法
 1)オーチャードグラス,メドーフェスク,トールフェスク及びチモシーの1番草を出穂始の日から7日後,2・3番草を生育日数45日(チモシーは60日・2回刈り)で刈取り,供試材料および降雨条件を人為的に制御し,刈取り後の放置日数および降雨回数と降雨による養分損失の関係を検討した。
 2)オーチャードグラス1番草,18aを供試し,ジャイロ型テッダによる牧草の損傷程度および反転回数と降雨による養分損失程度を調査した。
 3)トールフェスクおよびチモシーの1番草それぞれ40aを,作業機を使って乾草に調製し,調製期間中の天候,作業内容と牧草成分の変化について検討した。
 4)オーチャードグラス,トールフェスクおよびチモシーの1番乾草を水分含量28〜36%で梱包し,貯蔵期間中における乾草の成分変化を調査した。
 5)オーチャードグラス1番乾草を水分19%で梱包し,長期間畜舎2階に貯蔵し,貯蔵期間中の飼料価値変化を調査した。

9.結果の概要・要約
1)刈取り後の放置日数および降雨回数と降雨による養分損失。
 (1)刈取り後屋内に放置し,2日目で人工降雨に当てた牧草の各成分残存率は,4・6日目で降雨にあったものより有意に高かった。(表1)
 (2)刈取り後2・3日目に1回ずつ2回降雨にあった牧草では,2日目に1回降雨にあったものより有意に低かったのは可溶性炭水化物(WSC)のみであった。しかし,4・5日目に1回ずつ2回降雨にあった牧草は,4日目降雨1回のものより乾物,可消化乾物,細胞内容物および可溶性炭水化物(WSC)の残存率が有意に低かった。(表2)
 (3)降雨後における粗蛋白質の残存率は,可消化乾物および細胞内容物の残存率よりも高い値を示した。(表1・2)
 (4)降雨後の成分残存率について,各成分とも草種間に有意差は認められなかった。
2)ジャイロ型テッダによる反転回数が多くなると牧草茎の損傷程度も大きくなり,降雨後の成分含量の低下度合いも大きくなる傾向を示した。(表3)
3)乾草調製期間中に断続的な降雨にあっても,気温が低く推移し,牧草水分が高く維持され,かつ反転回数が少なかった場合,牧草の成分値は,その間に大きな変化がなかった。 (表4)
4)水分36%で梱包し,トワインを切断して畜舎2階に収納したトールフェスク乾草と,水分28%で梱包し,そのまま畜舎2階に収納したオーチャードグラス乾草の貯蔵初期における乾物消化率および細胞内容物含量の低下度合いは,調製期間中に生じた低下度合いと同等か,あるいはそれ以上であった。(表5・6)
 初期水分が高いまま梱包し貯蔵したトールフェスク(36%水分),チモシー(28%水分)乾草の,貯蔵2か月を過ぎた時点の粗蛋白質消化率と,DCP含量は,それぞれ通風乾燥を行なったものより低かった。
5)水分19%で梱包し貯蔵したオーチャードグラス乾草は,長期間畜舎2階に貯蔵しても大きな飼料価値変化がなかった。

10.主要成果の具体的数字
表1.刈取り後の放置日数と降雨処理(114mm/4hr)後の残存率
  刈取り時の成分量に対する残存率(%)
乾物 可消化乾物 細胞内容物 粗蛋白質 WSC*
刈取り後
の日数
無降雨放置 99a 98a 98a 98a 83a
2日目 95b 93b 89b 97a 64b
4日目 92c 85c 72c 91b 56b
6日目 92c 83c 70c 88b 58b
降雨後の
処理
当日乾燥 94 90 83 94 71a
4日放置 94 89 81 93 60b
注:4×2×8の2元配置法による。草種・番草(1・2)を反復とした。
  各成分について交互作用に有意差なし,アルファベット異文字間に有意差あり
  (Duncanの方法,5%水準)。*可溶性炭水化物。

表2.降雨回数と降雨処理(84mm/2hr/回)後の残存率
  刈取り時の成分量に対する残存率(%)
乾物 可消化乾物 細胞内容物 粗蛋白質 WSC*
無降雨放置 99a 97a 95a 101a 67a
2日目降雨1回 97a 93b 90b 100a 70a
2・3日目2回 97a 91b 86bc 98ab 54bc
4日目降雨1回 98a 91b 83c 95bc 64ab
4・5日目2回 93b 85c 73d 92c 44c
注:草種・番草(1・2)をブロックとした乱塊法 n=40。
 アルファベット異文字間に有意差あり(Duncanの方法,5%水準。)*可溶性炭水化物。

表3.反転回数の違いと降雨による成分変化(ジャイロ型デッダ:420RPM)
  刈取り当日 2日目 4日目 5日目
a) ほ場での降雨後b)
放置
(%)
水分 79.1 - 71.7 - 79.0 73.7 -
乾物消化率 70.7 67.8 69.2 64.5 68.9 70.2 67.8
細胞内容物 39.5 36.4 39.0 32.5 40.6 40.9 38.3
粗蛋白質 15.3 14.5 15.0 15.0 14.3 15.1 14.4
〔のべ反転回数〕 〔1〕 〔3〕 〔3〕 〔5〕
反転Ⅰ
(%)
水分 78.0 - 56.9 - 77.8 54.5 -
乾物消化率 69.2 67.6 68.9 64.4 67.7 66.6 62.5
細胞内容物 38.9 35.4 37.8 30.3 36.3 34.5 28.7
粗蛋白質 14.6 13.9 14.2 15.6 14.5 14.1 13.6
〔のべ反転回数〕 〔3〕 〔6〕 〔6〕 〔9〕
反転Ⅱ
(%)
水分 78.6 - 55.9 - 75.7 51.7 -
乾物消化率 68.3 67.7 69.2 62.8 66.4 66.3 62.4
細胞内容物 37.9 32.8 36.4 26.1 33.3 31.0 27.6
粗蛋白質 15.0 13.7 14.8 15.2 15.9 15.0 14.9
注 a)人工降雨(223mm/4hr)前の成分と降雨後の成分%。
   b)3日〜4日にかけて(22mm/42hr)降雨有り。

表4.トールフェスク乾草調製期間中の天候,調製作業および成分変化
月・日 6.15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
調製作業a) ①------------------② W------④ ③口
平均気温(℃) 12.5 15.4 11.4 10.9 7.9 7.5 11.2 8.3 11.1 17.4 17.6
降水量(mm) 0.1 0.1 2.7 6.8 0.4 0.1 0 0 8.8 2.9 0
天気 →●
水分(%) 84.7     83.8   84.7   66.8 76.7 52.8 35.5
穀物消化率(〃) 70     69   70   69 68   68
細胞内容物b)(〃) 41.9     38.9   40.5   41.1 39.7   37.6
粗蛋白質(〃) 17.0     15.8   16.0   15.8 15.3   15.2
粗灰分(〃) 10.5     9.6   9.6   9.5 8.8   8.9
注:a)△;刈取り,○;反転回数,W;ウインドローで放置,口:梱包,−;そのまま放置。
  b)以下の成分は乾物中%。

表5.オーチャードグラス乾草の調製・貯蔵中における成分変化
  月日
6.15
月日
6.16〜17
月日
6.19
貯蔵15日目 貯蔵29日目
刈取時 55%水分
で計10㎜
の断続
降雨
梱包
収納
発 熱
な し
発熱
(33〜40℃)
カビ胞子
カビ胞子
15日目に
火力乾燥
水分(%) 77.2 75.7 28.3 24.5 24.8 16.7 15.4 12.9
乾物消化率(〃) 61.0 58.6 58.4 57.4 56.9 54.0 54.8 56.6
細胞内容物(〃) 33.1 29.0 27.9 24.5 24.3 22.2 24.6 25.2
可溶性炭水化物(〃) 11.2 8.7 8.8 7.2 5.9 3.5 7.8 7.0
粗蛋白質(〃) 10.7 10.6 10.3 11.0 10.3 9.7 9.7 11.0

表6.水分36%で梱包したトールフェスク乾草の貯蔵中における成分変化
梱包後の処理 貯蔵日数 水分
(%)
乾物消化率
(%)
乾物中(%)
細胞内容物 粗蛋白質 粗脂肪
〔Tf-H〕
梱包→畜舎2階
(トワイン切断)
梱包時 35.8 68.2 38.1 15.2 1.8
20日 19.5 64.7 30.2 13.8 1.6
85日 16.6 63.7 30.7 13.9 1.7
92日 16.9 64.2 31.0 14.2 1.7
〔Tf-L〕
梱包→通風乾燥
→畜舎2階
梱包時 35.5 67.5 37.2 15.1 1.6
20日 18.2 66.3 37.3 15.9 1.6
85日 16.4 63.6 34.2 14.2 1.8
92日 16.9 64.9 35.4 14.6 1.9

表7.貯蔵乾草の各成分消化率・DE・DCPおよびTDN含量(オチャードグラス)




(月)
消化率a)(%) DE
(kcal/gDM)
DCP
(DM%)
TDN
(DM%)
乾物 粗蛋
白質
粗脂肪 可溶無
窒素物
粗繊維 CW GE
生草b)
  71.4±1.6 67.8±2.3 49.1±3.5 73.5±1.4 78.0±1.4 74.7±1.4 69.7±1.5 3.16±0.07 10.0±0.4 68.8±1.7
貯蔵乾草
1 71.1±1.1 68.4±2.3 48.9±6.5 72.6±2.1 75.6±:2.8 73.3±1.4 69.1±1.6 3.08±:0.07 9.7±1.0 67.2±1.4
10 69.3±1.9 67.6±1.9 50.6±2.5 69.3±1.8 74.0±2.0 72.4±2.2 67.0±0.8 3.00±0.03 9.2±0.2 64.9±1.8
14 71.3±0.5 68.6±1.8 53.7±1.0 70.8±0.2 78.2±1.3 74.6±1.4 68.2±0.5 2.99±0.02 9.2±0.2 67.2±0.5
24 69.3±0.9 63.8±0.9 52.9±2.0 70.2±0.7 76.3±1.3 72.7±0.8 67.4±1.1 2.99±0.05 8.5±0.1 65.3±0.9
36 69.3±1.1 65.6±1.4 46.0±1.5 69.7±0.6 76:6±1.7 74.9±1.4 67.5±1.2 3.06±0.05 8.8±0.2 65.1±1.0
注:a)乾物以外の成分は乾物中の値。b)1か月間凍結保存。
注:表7以外の乾物消化率はインビトロ(T.T)法による。

11.今後の問題点
 1)貯蔵方法の違いと貯蔵初期における養分損失。
 2)乾草調製作業が牧草の再生におよぼす影響。

12.指導上の注意事項
 1)刈取られた牧草の降雨による養分損失程度は,降水量,降雨回数,降雨前の牧草水分および牧草の損傷程度等によって変化するため一様ではない。また,人工降雨後の数値は限られた条件下の値であることに留意する。
 2)乾草調製期間が長引いた場合には,天候の変化および調製・貯蔵損失を考慮し,サイレージとして貯蔵することも含めて臨機応変に対応する必要がある。