【指導参考事項】
1.課題の分類  D-14 サイレージ
2.研究課題所  ビッグベールサイレージ調製法に関する試験
3.期  間  (昭58年)
4.担  当  新得畜試 種畜部 肉牛科
5.予算区分  総合助成
6.協力分担  な し

7.目  的
 最近,ビッグベーラによるサイレージ調製を行なう農家が急激に増加したが,農家は経験が浅く,調製技術も十分に確立されていないため,良質サイレージを安定して得られていない。そこで,良質で経済的なサイレージ調製を行なうため,スタック型ビッグベールサイレージ調製法の検討を行なうとともに,ビッグベールサイレージの損耗防止対策等を検討した。

8.試験研究方法
 1)ビッグベールサイレージ調製の種類と特徴
  今まで作られているビッグベールサイレージの型と特徴を調査した。
 2)スタック型ビッグベールサイレージの品質
  ベール置き場,置き方,被覆法によって9種類のサイレージを作り,品質と採食性を調査した。
 3)ビッグベールサイレージ用被覆密封材の種類と特徴
  現在,市販されている被覆密封材の種類と特徴を調査した。
 4)ビッグベールサイレージの経済性
  サイレージ型と被覆密封材の種類や必要量により,その経済性を検討した。
 5)ビッグベールサイレージの損耗防止対策。
  ビッグベールサイレージの損耗原因とその防止対策を検討した。

9.結果の概要・要約
 1)ビッグベールサイレージ調製の種類と特徴
  ビッグベールサイレージ調製は,大きくは完全密封方式と準密封(スタック)方式があり,さらに詰込み個数によりそれぞれ数種類の型に分けられる。大量調製は経済性や作業性に優れるが,被覆密封材の破損時の損耗が大きい。1個詰は安全性が高いが被覆密封材費が高い。調製規模や自然条件に応じてサイレージ型の選択を行なう必要がある。
 2)スタック型ビッグベールサイレージの品質
  タテ型のサイレージは接地部分に白カビや腐敗による品質低下が認められたが,その割合は小さかった。また,タテ型サイレージはタイヤとポリエチレンフイルムを下敷にすることにより接地部のサイレージ品質を改善できた。ベール置き場の条件が悪い草上に置いたサイレージが最も品質が悪かった。被覆密封材をベールに密着させて二重にしたものは高品質のサイレージであった。
 3)ビッグベールサイレージ用密封材の種類と特徴
  現在,使用されている密封材は塩化ビニール袋,ポリエチレン袋,ポリエチレンチューブ,ポリエチレンシート,ポリエステルターボリン袋,ポリエステルターポリンシート等がある。被覆材の厚さは0.1㎜が多かった。塩化ビニールは気密性や伸び率に,ポリフィルムは経済性にポリエステルターポリンは耐久性に優れていた。
 4)ビッグベールサイレージの経済性
  1袋又は1列のベール個数が多くなると,ベール1個当りの被覆密封材費は安くなり,1個から数個間の差が大きい。また,被覆密封材質や使用回数等の違いにより経済性が異なる。耐候性や耐久性に優れているものは価格が高くなるので取り扱いに注意し,多回利用により経済性を高める必要がある。
 5)ビッグベールサイレージの損耗防止対策
  ビッグベールサイレージの最も大きな損耗は被覆密封材の穴空きや破損によるサイレージ品質の大幅な低下であった。鼠,カラス,硬い原料草の突起,ベール置き場の草や石などの突起物等が穴空きの原因であった。また,風に強くあおられて破覆密封材が破損する例が多かった。二重被覆,密封材をベールに密着させる,ベール置き場の整地,軟らかい原料草を用いる,各種調製条件に応じたサイレージ型の選択等が損耗防止に有効であると思われた。

10.主要成果の具体的数字
表1.ビッグベールサイレージ調製の種類
密封方式 ベールの
詰め込み型
使用する密封材
完全密封
(袋状)
一個詰 ビニール袋,ポリ袋,ターポリン袋
数個詰 ポリチュープ
大量調製  
     2段積 ポリフィルムクリップ留め,ビニールクリップ留め,
     3段積 ビニールバキュームサイロ,
準密封
(スタック型)
一個詰  
ヨコ型 ビニール,ポリフィルム
タテ型 ビニール袋,ポリ袋
数個詰(十数個詰) ポリフィルム,ビニール,ターポリンシート
大量調製  
     2段積 ポリフィルム,ビニール

表2.ベール個数別費用(1)袋状の場合(完全密封)
個   数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
縛り代(m) 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2
ベール長(m) 1.6 3.2 4.8 6.4 8.0 9.6 11.2 12.8 14.4 16.0
全長(m) 3.6 5.2 6.8 8.4 10.0 11.6 13.2 14.8 16.4 18.0
1個当り長さ(m) 3.6 2.6 2.3 2.1 2.0 1.9 1.9 1.9 1.8 1.8
比率(%) 100 72.2 63.0 58.3 55.6 53.7 52.4 51.4 50.6 50.0
費用(円/個)(1) 1,112 803 700 649 618 597 583 572 563 556
       (2) 2,500 1,806 1,574 1,458 1,389 1,343 1,310 1,285 1,265 1,250
(1)はポリエチレンフィルム
(2)は塩化ビニール使用

表3.ベール個数別費用
個   数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
縛り代(m) 3.6 3.6 3.6 3.6 3.6 3.6 3.6 3.6 3.6 3.6
ベール長(m) 1.6 3.2 4.8 6.4 8.0 9.6 11.2 12.8 14.4 16.0
全長(m) 5.2 6.8 8.4 10.0 11.6 13.2 14.8 16.4 18.0 19.6
1個当り長さ(m) 5.2 3.4 2.8 2.5 2.3 2.2 2.1 2.1 2.0 2.0
比率(%) 100 65.4 53.8 48.1 44.6 42.3 40.7 39.4 38.5 37.7
費用(円/個)(1) 867 567 467 417 387 367 352 342 333 327
       (2) 1,733 1,133 933 833 773 733 705 683 667 653
(1)ポリエチレンフィルム一枚被覆,(2)同左二重被覆

表4.準密封型(スタック型)の被カビ割合と臭い
サイレ
ージ型
べール
置き場
開封時水分(%) 被カビ範囲(cm) 被カビ割合
(%)
臭い
接地部 中心部 深さ 接地部 接地部
以外
タテ型 草上 75 49 25 50 10.3 堆肥臭 酢酸臭
土上 74 53 15 30 6.3 堆肥臭 酢酸臭
ポリ上 72 54 30 5 3.1 堆肥臭 甘酸臭
タイヤ上 53 51 20 20 3.8 カビ臭 甘酸臭
タイヤ上ポリ 52 48 10 5 0.9 カビ臭 甘酸臭
ポリ上タイヤ 47 48 20 10 2.0 カビ臭 甘酸臭
ヨコ型 土上 73 43 10 5 1.0 酪酸臭 甘酸臭
ポリ上 86 49 20 25 6.8 酪酸臭 甘酸臭
のり巻状 56 49 15 12 1.1 酢酸臭 甘酸臭
古ビニール 65 57 40 100 25.0 酪酸臭 甘酸臭

表5.準密封型(スタック型)の品質と採食性
サイレ
ージ型
ベール
置き場
品質
(外観・臭
いによる)
家畜による採食性
タテ型 草上 中質 接地部の食いつき悪い,その他は良い
土上 中質 接地部の食いつき悪い,その他は良好
ポリ上 良質 接地部の食いつき悪い,その他は良好
タイヤ上 良質 接地部の食いつき悪い,その他は良好
タイヤ上ポリ 良質 接地部の食いつき良い,その他も良好
ポリ上タイヤ 良質 接地部の食いつき悪い,その他は良好
ヨコ型 土上 最質 どの部位も極めて良好
ポリ上 最質 どの部位も極めて良好
のり巻状 良質 どの部位も良好
古ビニール 中質 どの部位も良好

11.今後の問題点
 1)強風地帯における被覆密封材の破損防止法の検討
 2)ビッグベールサイレージの栄養価値評価

12.成果の取り扱い(普及指導上の注意事項)
 1)サイレージの原料草は早刈りか適期刈りのものを用いる。
 2)刈り取り草は降雨に当てずにベールしてサイレージにするのが望ましい。
 3)ベール後直ちに密封するのが望ましい。
 4)長期貯蔵する場合は2重被覆か丈夫な被覆密封材を用いる。