７．目　　　的
　放牧期における各種放牧サイレージの給与と乳牛の泌乳性並びに生理面との関連
　について検討を加え、さらに放牧サイレージの安定利用について究明し、放牧期
　における放牧サイレージの利用技術を明らかにする。

８．試験研究方法
　1)放牧期における各種牧草サイレージの給与と産乳性及ぴ乳牛の健康について
　１　放牧期における早刈り放牧サイレージの給与が、摂取量、乳量及び血液成分
　　　に及ぼす影響
　２　青刈草及び２番草中水分放牧サイレージの給与が、摂取量、乳量及び血液成
　　分に及ぼす影響
　３　放牧期における中水分牧草サイレージの給与が、摂取量、乳量及ぴ血液成分
　　に及ぼす影響
　2)夏季間における各種牧草サイレージの安定利用について　
　１　原料草の水分含量と育成時期が、サイレージの好気的変敗の生起に及ぼす
　２　好気的変敗防止剤の添加効果並びに家畜のし好性
　３　サイレージの取出し速度と詰込み密度が、牧草サイレージの好気的変敗抑制
　　に及ぼす影響
　４　好気的変敗が、牧草サイレージの栄養価に及ぼす影響

９．主要成果の概要
　1)　放牧時に早刈り牧草サイレージを併給することにより、乾物及ぴＴＤＮ摂取
　　量が有意に高まり・特に低水分サイレージにおいて乳量、乳組成を若干改善す
　　る傾向が認められた。
　2)　２番草中水分牧草サイレージの給与により、同時期の青刈草に比較して養分
　　摂取量は若干劣るが、乳量、乳組成に差は認められなかった。
　3)　放牧時に中水分牧草サイレージ(ＴＤＮ64％)を併給することにより、乾物及
　　ぴＴＤＮ摂取量が有意に高まり、８月後半以降における乳量低下を防止する傾
　　向が認められた。
　4)　放牧時における各種牧草サイレージの給与により、乳牛の血液成分には、い
　　ずれも異常値は認められなかった。
　5)　牧草サイレージの好気的変敗生起の要因として原料草の水分含量が最も重要
　　であり、低水分化を図ることにより好気的変敗を抑制する効果が認められた。
　6)　好気的変敗防止剤の利用において、添加方法や詰込み密度差による抑制効果
　　と薬剤の浸透性には差が認められず、添加量が等しい場合、低水分ほど抑制効
　　果が高い傾向を示した。
　　また、家畜のし好性にはプロピオン酸0.65%、ギ酸カルシウム複合剤0.3%ではい
　　ずれも悪影響は認められなかった。
　7)　好気的変敗抑制のためには、タワーサイロにおいて高水分の場合、１日10㎝
　　の取り出し速度、低水分の場合、詰込み密度(乾物で130Kg／ｍ３以上)）を高め
　　る必要がある。
　　また、スタックサイロにおいては１日10㎝の取出し速度では、抑制効果が認めら
　　れなかった。
　8)　牧草サイレージは、好気的変敗による発熱で、特に粗蛋白質と粗脂肪の消化率
　　並びにＤＣＰが有意に低下し、ＴＤＮも低下する傾向が認められた。

１０.主要成果の具体的数字
　　表.１　放牧時における低水分サイレージの給与効果

	乾物摂取量				養分摂取量		乳酸	乳組成
	サイレージ	放牧草	濃飼	総乾物	ＤＣＰ	ＴＤＮ		脂肪	ＳＮＦ	蛋白質
	-　Ｋｇ　−				-　Ｋｇ　−		Ｋｇ	−　％　−
放　　　　牧	-	11.9	2.6	14.5c	2.1b	10.4C	18.5b	3.6	7.9	3.1
放牧＋サイレージ1/4	3.8	9.8	3	16.6ab	2.2ab	11.9B	20.1a	3.6	8.1	3.2
放牧＋サイレージ1/2	6.6	8.6	2.8	18.0a	2.3a	12.9A	19.7a	3.6	8.1	3.2
サイレージ	14.2	-	2.9	17.1b	1.8c	12.2B	19.6a	3.7	8.1	3.1

　　異なる文字間に有意差あり　大文字…Pく0.O1　　小文字…Pく0.05

　　表.２　放牧時における高水分サイレージの給与効果

	乾物摂取量				養分摂取量		乳酸	乳組成
	サイレージ	放牧草	濃飼	総乾物	ＤＣＰ	ＴＤＮ		脂肪	ＳＮＦ	蛋白質
	−　Ｋｇ　−				−　Ｋｇ　−		Ｋｇ	−　％　−
放　　　牧	-	13.1	1.9	15.0b	2.2b	10.4B	16.5	3.8	8.1	3.2
放牧＋サイレージ1/2	6.9	10.9	2.5	20.3a	2.7a	14.5A	19.2	3.6	8.2	3.2
サイレージ	13.1	-	1.9	15.0b	1.6c	11.3B	16.8	3.5	8.1	3.0

　　異なる文字間に有意差あり　大文字…Pく0.O1　　小文字…Pく0.05

　　表.３　放牧時における早刈り高・低水分サイレージの給与効果

	乾物摂取量				養分摂取量		乳酸	乳組成
	サイレージ	放牧草	濃飼	総乾物	ＤＣＰ	ＴＤＮ		脂肪	ＳＮＦ	蛋白質
	-　Ｋｇ　−				-　Ｋｇ　−		Ｋｇ	−　％　−
放　　　　　牧	-	12.5	3.1	15.6C	2.1A	11.1b	21.4	3.5	8.1	3.0
放牧＋高サイレージ	5.3	9.2	3.1	17.6AB	2.1A	12.8a	22.0	3.6	8.1	3.0
放牧＋低サイレージ	5.5	9.5	3.1	18.1A	2.1A	12.8a	21.3	3.6	8.1	3.1
高水分サイレージ	11.5	-	2.9	14.4C	1.3B	10.9b	20.3	3.4	7.9	2.9
低水分サイレージ	13.4	-	2.9	16.3BC	1.4B	11.5b	19.9	3.6	8.1	3.0

異なる文字間に有意差あり　大文字…Pく0.O1　　小文字…Pく0.05

　　表.４　放牧及ぴ早刈り高・低水分サイレージ給与時の乳牛の血液成分

	血色素量	血清蛋白質	血糖	尿素窒素	ＧＯＴ	ＧＰＴ	Ｃａ	Ｐｉ
	−　ｇ／ｄｌ　−		−　ｍｇ／ｄｌ　−		−　Ｋ単位　−		−　ｍｇ／ｄｌ　−
放　　　　　牧	10.4	8.0a	52.1	31.6A	71.2A	15.3	10.3	4.7
放牧＋高サイレージ	10.2	7.8ab	53.5	23.7B	58.4AB	16.7	10.6	4.4
放牧＋低サイレージ	10.3	8.0a	51.4	23.9B	68.1AB	15.5	10.4	4.7
高水分サイレージ	9.8	7.7b	48.8	13.0C	49.9B	18.8	10.1	4.7
低水分サイレージ	10.2	7.7b	48.9	15.0C	51.2B	13.7	10.2	5.2

異なる文字間に有意差あり　大文字…Pく0.O1　　小文字…Pく0.05

図１．中水分サイレージの給与効果

図２．中水分サイレージの併給効果

　表.５　好気的変取の生起

原料草	サイレージ水分…	高		中〜低
	経　過　日　数・・・	3	7	3	7
早　刈		＋	＋＋	−	＋
中　刈		＋	＋＋	−	＋＋
遅　刈		±	＋＋	−	＋＋
２番刈		＋＋	＋＋	−	−

注)好気的変敗の程度　−：生起せず　±：若干発熱　＋：発熱　＋＋：発熱べとつき

　表.６　好気的変敗による牧草サイレージの品質変化

サイレージ水分	発熱度合	成　分　消　化　率　(％）						栄養価※
		乾物	有機物	粗蛋白質	粗脂肪	ＮＦＥ	粗繊維	ＤＣＰ	ＴＤＮ
高	未発熱	53.2	54.9	56.3a	76.2A	44.7	62.5	6.8a	56.0
	若干発熱	53.2	55.0	48.6b	63.4B	48.8	63.8	5.7b	53.4
中	未発熱	66.4a	68.4A	61.7A	77.1A	63.6A	75.0	7.2A	68.3A
	若干発熱	64.1b	65.9B	57.4B	71.8B	61.1AB	73.6	6.6B	65.5B
	発熱	62.4b	64.3B	56.6B	69.7B	57.9B	73.5	6.6B	62.9C

※　乾物中％　異なる文字間に有意差あり　大文字…Pく0.O1　　小文字…Pく0.05

図３．取出し速度及び詰込み密度とサイレージ品温（高水分）

図４．取出し速度及び詰込み密度とサイレージ品温（低水分）

１１．今後の問題点
　1)　遅刈り草及ぴ２番草について、水分含量との関連で、放牧時における牧草サイ
　　レージの給与効果を検討する必要がある。
　2)　スタック及びバンカーサイロで調製した牧草サイレージの夏季間の利用につい
　　て、十分検討する必要がある。

１２．成果の取扱い　(指導上の注意事項)
　1)　サイレージの併給効果は、特に放牧草の草量、草質が低下した時に有効であ
　　り、給与においては、放牧草地の状態をよく見極めて実施する必要がある。
　2)　牧草サイレージの栄養価や摂取量は、刈取り時期や水分含量によって変動する。
　3)　夏季間の牧草サイレージの安定利用のためには、好気的変敗を防止することが
　　大切であり、1日当たりの適切な取出し速度と特に低水分の場合は、十分な踏圧
　　・加重並びに中間仕切り等による空気の排除が必要である。