1 課題の分類 中央農試 経営方式 酪  農
2 研究課題名 農業経営における資本需要と負債
3 期   間  昭和56-58年
4 担   当  中央農業試験場経営部
5 子算区分  道 単
6 協力分担  な し

7 目的 道東・北地域の草地酪農について、酪農経営における資本需要、並びに負債の資金別構成と負債形成のメカニズムを把握し、これらと経営資本効率との関連を検討し、投資のための適正な融資条件を解明する。

8 調査研究方法
   調査対象  1地区 宗谷支庁猿払村、後志支庁黒松内町
         2農家 各16戸:負債償還能力によるA、B、C階層から大、中規模各2戸と
                 D階層のみ中規模より4戸選定した。

9 結果の概要
 1)農業収支の推移について、調査農家を階層区分し、農業収支の推移をみるとA階層の順調な経過に比べ、
B、C階層は経営費の伸びに対し収入(乳代)がややゆるやかに推移し、経営費が乳代を上回る現象を示し、か
ろうじて個体販売収人により農業所得を形成していた。D階層の場合は46年以降経営費が農業粗収入を上回
って農業所得はマイナスを示している。このようにA階層を除いて農業所得が低い理由に資本投下に対して生
産が伴なわないことがあげられる。
 2)農業資本効率 農業資本効率を農業資本利回りにより、55年、57年について求めた。55年は規模間
の比較では大規模が中規摸に対して高い利回りを得たが、利回り率は全休に低くかった、その中で大規模のA
階層は4.8%で最も高い値いを示し、最低はD階層の−13.2%で、マイナスを示したのは大規模のC階
層と中規摸ではB、C、Dの各階層であった。57年になると、農業資本利回りは全般に上昇した中で55年
より低くなった農家は2戸あった。階層別には大規模は各階層とも6%以上の利回りを示し、うちC階層は8.5%
とA、B階層より上回った。一方、中規模はC階層の2.7%を最高に、最低はB階層の0.8%と、かろう
じてプラスの値を示した程度で、正当な資本利回りを得るまでになっていない。55年、57年て利回りに変
動がみられたのは、資本投下が近年固定的であったのに対し、現代収益が大幅に伸びたことによるもので、こ
れらの結果から資本投下に対して、収益の大きさが投資効率を決定する。
 3)農業収支と生産技術 農業収支の動向を概括的にとらえたが、農業収支が生産技術とどのような関わりを
もつかについて検討した。ここでは総乳量を濃厚飼料に由来する部分と粗飼料に由来する部分に分割し、費用
との関係で検討した結果、粗飼料に由来する乳量の大きさが農業所得形成に重要な関わりをもつことが明らか
になった。
 4)資金導入と負債形成要因 賃金需要について「投資的借入金」と「負債整理的借入金」に区分整理した。
その結果、借入金合計では大規模は中規摸より約1千万円余り多く、規模内ではA階層がやや多かった。また
中規模ではD階層が多かった。用途別には上位の階層で負債整理的借入金は少い傾向をみせ、大規模のA階層
は農地関連及び生産手段への投資が多いのに対し、中規模では主として生産手段への投資であった。負債増加
の実態については、規模に拘わらず45年以降急激な増加をみせ、さらに52年−53年に増加している。資
金別構成では45年は長期資金のほぼ100%を制度資金で占めていたが、50年−55年にかけて農協系統
資金の比率が高かった。農家経済との関わりでは、農業所得から家計費と償還元金を差引いたものでみると、
プラスを示したのは大規模のA階層のみで、他は常にマイナス或いはプラスからマイナスへ転じている。階層
間較差が生じた要因として、役員的借入金は各農家ともほぼ同時期に導人していることから、投資が所得拡大
に寄与する度合が少かったり、或いは全くなかったことが指摘される。そして、組勘の収支においてマイナス
を生じたときにその不足分が一時的に短期資金によって補填され、次いで長朗資金へと引き継がれ、その結果、
平均支払利子率は高まり償還元利額の増加になっているが、所得水準がなお低迷するときは、これら悪循環が
繰返され、短期資金から組勘整理長期資金へと累積し借入残高は増大することが明らかになった.
 5)以上の結果から、中規模において現状の技術水準ては、現制度において最も低利な融資をもってしても負
債の解消は困難であることが知れた。この負債解消のためには現状の技術水準をより向上(基本技術の確実な
励行)させること、そして、粗飼料の経営経済的な評価の見直しと、そのための体制の建て直しが急務である。
また現状は、これ以上の投資は極力さけるべきであるが、やむ得ず投資を必要とする場合は最小限に止めるべ
きで、その場合においても確実に収益実1見のための努力が肝要てある。

10 主要成果の具体的数字

                 表1 諸要因間の相関関係
    X1 X2 X3 X4 X5 X6
成牛当
り利益
X1 1.0         ※
0.618183
0.393501
0.543212
※※
0.776909
-0.499500
成牛当
り乳量
X2   1.0 ※※※
0.821571
※※
0.625300
0.338733 0.355943
購入飼料
給与量
X3     1.0 0.068827 -0.146686 0.342529
粗南外に油
来する乳量
X4       1.0 ※※※
0.793629
0.153877
迂回生産費
用の効率 
X5         1.0 -0.457641
迂回生産
費用  
 
X6           1.0
有効水準 ※=95% ※※=99% ※※※=99.9%


          図1 農業収支の構造

         表2 階層別負債残高と農業純収益および負担利子率(単位:千円、%)
項目/階層 平均 平均
農業資本合計 62,803.4 61,170.7 49,841.4 57,938.5 57,938.5 51,586.8 45,952.0 41,775.7 45,568.7
負 債 残 高 48,085.0 47,860.0 47,921.0 47,955.0 40,036.0 17,306.0 41,834.0 57,799.0 39,243.0
57年純収益 4,821.0 4,071.7 4,241.5 4,378.0 749.9 130.5 1,268.8 601.3 687.6
仝上に
対する
利子率
純収益
6.5 6.5 6.5 6.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5
3,942.1 3,923.6 3,928.6 3,931.4 1,707.6 788.1 1,784.3 2,465.2 1,673.8
3.5%の利子率
における純収益
2,917.5 2,903.9 2,907.6 2,909.6 2,429.2 1,050.0 2,538.2 3,506.9 2,381.0

11 残された問題点
 実態調査から問題点について技術資料等により試算分析を行ったが、今後さらに実証的な検証が必要である。

!2 普及指導上の注意
 宗谷支庁の草地酪農地帯における酪農の経営改善の参考に供するが、基本的考え方については全道の酪農経営
に共通して適用される。また粗飼料の経済性については、その地域の牧草生育ステージを勘案する必要かある。