【指導参考事項】
寒地水田土壌の蓄積りん酸の動態と供給能

場所名 北海道農試農芸化学部土壌肥料第2研究室  

目 的
 多くの水田土壌においてりん酸は蓄積される方向にあり、蓄積されたりん酸の有効利用が望ましいものと考えられるが、蓄積りん酸の動態、水稲生育に対する効果など、検討すべき点が残されている。低コスト稲作を進める上からも、有限なりん酸資源の利活用の面からも、蓄積りん酸の水稲に対する肥効を明らかにし、適正な肥沃度水準を維持しながら効率的・合理的なりん酸施用を行なう必要がある。

試験方法
 1)多湿黒に水田において、1967年から5ケ年りん酸用量試験を継続した後1972年上り無りん酸栽培を行い、分げつ盛期付近の土壌中のBrayNo.2液抽出りん酸量と、最高分げつ期付近の稲の茎葉中のりん酸含量及び玄米収量の相互関係をみる。
 2)1)と同一の土壌のプレイりん酸の年次変動と収量の年次推移より、蓄積りん酸の肥効の程度を知る。
 3)1)と同一の土壌の一部に1983・'84の両年にりん酸(過石)を各1Kg/a施用し、土壌の各りん酸肥沃度下におけるりん酸の施用効果をみる。

試験成績
 1)りん酸無施用下では、分げつ盛期の土壌中の有効態りん酸(BrayNo.2液抽出りん酸)と、分げつ終期の茎葉中りん酸含有率及び収量との間には次の関係が見られた。
  平温年、冷害年それぞれにおいて、分げつ盛期のプレイりん酸が、各々25mg、30mgで収量は頭打ちとなり、このプレイ値で分げつ終期付近の茎葉のりん酸含有率は各々0.6〜0.7%、0.7〜0.8%となった。
  以上の関係は、りん酸施肥下で得られたそれらの関係とほぼ一致することが認められ、水稲に対するりん酸供給能は、施用りん酸も土壌中の有効りん酸もプレイりん酸で統一的に扱うことが可能と考えられる。
 2)分げつ盛期のプレイりん酸が、高収年で25mg、冷害年で30mg付近未満の場合は、りん酸施用で茎数、乾物重などの生育増加は著るしく、りん酸含量及び収量も増加した。先のブレイりん酸値以上にある場合は、初期生育の増大を示した場合でも、幼形期頃にはりん酸無施用の場合の生育に収れんした。
 3)各りん酸肥沃度水準毎の収量の年次推移から、無りん酸栽培を継続しても、70kgの高収に達したこともあるなど、蓄積りん酸の肥効は少ないものではなく、かつかなり持続する。
 4)無りん酸栽培の継続によって土壌の有効態りん酸は経年的に減少し、多湿黒ボク土ではPt=Po×0.928t(Po:初期値、Pt:t年後の値)の式に従って、年々7.2%ずつ減少することが明らかとなった。この式により、この土壌における将来のりん酸水準の変動予測が可能となった。
 5)ブレイりん酸の増加量と、対応する土壌全りん酸との間には、極めて相関の高い2次の回帰式が得られた。この式より各りん酸水準にある土壌にりん酸を施用した場合に増加するブレイりん酸値を推測することができた。ブレイりん酸が25mgの肥沃度水準では施肥りん酸の45%、100mgの水準では施肥りん酸の約90%がプレイりん酸として回収される。
 6)以上の関係及び水稲のりん酸吸収量から望ましいりん酸肥沃度水準を維持するに必要なりん酸施用量の決定が可能となった。

主要成果の具体的数字


Bray No.2 リン酸と収量


土壌リン酸と稲体リン酸含量および収量


りん酸施肥が収量に及ぼす効果

茎数に対するリン酸施肥の効果

収量の年次推移
年次 収量 備考
P0 P4 P8.5 P16 P31
'71 24 58 58 53 56 ユーカラ成苗、基肥のみ
'72 39 65 67 62 64    〃      〃
'73 37 64 64 64 62    〃      〃
'74 46 70 66 65 71    〃    漸増追肥
'75 46 61 62 61 61    〃
'76 9.2 41 43 42 43 ゆうなみ稚苗、基肥のみ
'77 26 60 62 63 61    〃      〃
'78 29 60 59 60 59 イシカリ稚苗、  〃 
'79 15 64 70 61 64 ユーカラ成苗、  〃 
'80 14 54 63 64 67    〃      〃 
'81 7 31 51 57 57    〃      〃    
'82 30 55 60 63 63 イシカリ成苗   〃
'83 13 42 52 54 50    〃      〃
'84 - 50 63 65 68    〃      〃
*P-0、P-4、P-8.5、P-16、P-31の各区は、1968年
より1971年までそれぞれP2O5(過石)を0、4、8.5、16、31
kg/a施用し、1972年以降リン酸無施用栽培をした。


Bray No.2 P2O5の経年変化


Bray No.2 液抽出リン酸と土壌全リン酸との関係

指導上の注意事項
 得られた結果は限定された土壌(多湿黒ボク土)でのものであり、各種の土壌においては未確認である。