【指導参考事項】(昭和58〜60年)
石灰系下水汚泥コンポストの農業利用に関する試験
  Ⅰ 特性解析

中央農試環境保全部環境保全第一科  

目  的
 石灰系下水汚泥のコンポスト化過程における変化およびコンポストの特性を解明し農業利用の基礎に資する。

試験方法
1.コンポスト化過程における特性の変化 化学性,物理性の分析,幼植物法による発芽調
査,ポット試験による乾物生産,重金属濃度,
N,P2O5吸収量など検討
供試資材 札幌市下水道資源公社製造
       「札幌コンポスト」
2.コンポスト施用が作物体重金属含量に
及ぼす影響(Ⅱ現地試験も含む)
3.コンポストのもつN,P2O5の作物利用性
4.コンポストのもつCaのpH矯正力および溶出性

試験結果の概要
1.生汚泥のコンポスト化(資材無添加,通気発酵)の過程における特性の変化
 (1)コンポスト化によって有機成分,pHは低下したが,無機態C,Nの占める割合は高まった。
 (2)無機成分は有機成分の低下と相対的にいずれの元素も高まった。
 (3)重金属含量もコンポスト化によって高まったがZnの可溶化はわずかであり,Cuでは顕著に不溶化していた。
 (4)コンポスト化することによって施用後のNH4-Nの急激な発生は抑えられ,発芽に対する安全性は高まった。
2.コンポストからの重金属の作物吸収と作物体含量に及ぼす影響
(1)pHが低い条件ではZn,Cdの吸収が高められ,pH5.5以上では吸収が抑制された。Cuについてはこれらの関係が明確でなかった。
(2)コンポスト施用(1t/10a)による可食部の重金属含量に及ぼす影響は,無施用区に比べZn,Cuで飼料用とうもろこし,Cuではてん菜がやや高くなる外は各作物同程度であり,Cdでは同程度か低くなる作物も多く,Hgでは各作物とも同程度であった。
3.コンポストのもつN,P2O5の作物利用性
(1)NはN施用の有無にかかわらず30%程度の無機化であり,ポット試験による利用率でも25%程度であった。またⅡ現地実証試験においても同程度の利用率を示すことが多かった。
(2)コンポスト中のP2O5は水溶性部分は少ないが,作物利用率は過石の約70%を示し,コンポスト1t(P2O526〜35kg)で過石P2O5の20㎏程度と考えられた。また過石,ようりんに比べ石灰効果が伴うため持続力があった。
4.コンポストのもつCaのpH矯正力および溶出性
(1)コンポスト中のCa(CaCO3換算で24〜35%)のpH矯正力は,10a当1t施用の範囲では市販炭カルと同程度と考えられた。
(2)コンポスト中のCaは市販炭カルに比べ溶出性が高い。これは含有するアニオン,Caの形態や粒度等によるものと考えられた。
5.コンポスト施用による土壌物理性の変化
(1)コンポスト1および5%(対乾土比)施用によって土塊分布が増加し,かつ水中崩落率が低く砕土性向上に寄与することがうかがえた。
 以上のことから,コンポストのもつ特性は,農業利用が可能であると考えられた。

主要成果の具体的数字
表1 発酵過程における無機成分の変化
成分/
発酵過程
水分 pH EC
mS/cm
強熱減量
%
P2O5
%
CaO
%
MgO
%
K2O
%
Zn
ppm
Cu
ppm
As
ppm
Hg
ppm
Cd
ppm
生汚泥 57.4 9.5 3.11 61.0 2.46 10.92 0.61 0.12 414 90 9.5 0.41 0.75
一次発酵 27.7 7.8 3.66 48.0 2.99 14.70 0.75 0.19 530 104 9.7 0.48 0.99
二次発酵
コンポスト
24.9 7.6 5.36 46.0 3.13 15.12 0.80 0.19 550 109 11.1 0.61 1.04
二次/生 - - 1.72 1.38* 1.27 1.38 1.30 1.60 1.33 1.21 1.17 1.48 1.39
*強熱残量(100-強熱減量)の比


図1 コンポスト化によるN形態の変化


図2 土壌pHとコカブ茎葉Zn濃度

表2 土壌に施用した資材の溶出
抽出液 資材名 Zn ppm Cu ppm 備考
3回合計 溶出率 3回合計 溶出率
生汚泥 0.48 0 N・D 0 溶出率=資材施用-
  (土壌+石灰)
    添加量
二次発酵
コンポスト
0.55 0.9 N・D 0
pH7
IM酢安
生汚泥 1.01 12.9 N・D 0 土:抽出液=1:5
  3回連続抽出
二次発酵
コンポスト
1.03 11.1 N・D 0

表3 コンポスト施用が作物可食部の重金属に及ぼす影響
項目
/元素
コンポスト無施用区を100としたコンポスト1t施用区の含量指数(マメ科は0.5t)
95以下 96〜105 106〜110 111以上
Zn てん菜,トマト,キャベツ,
ラデッシュ,アルファルファ
きゅうり
葉ねぎ,玉ねぎ,にんじん,ほう
れん草,いちご,大豆,ブロッコ
リー,小豆,菜豆
セロリー*(47→51)
しゅんぎく*(40→43)
秋播小麦(28→30)
チモシー(18→20)
とうもろこし
  茎葉(19→22)
  子実(18→20)
Cu にんじん,セロリー,
しゅんぎく,ブロッコリー,
菜豆
葉ねぎ,玉ねぎ,ほうれん草,ト
マト,いちご,キャベツ,ラデッ
シュ,秋播小麦,とうもろこし
(茎葉),大豆,小豆,アルファル
ファ
チモシー(4.3→4.7)
きゅうり*(9.1→9.7)
てん菜(3.6→4.1)
とうもろこし
  (子実2.0→2.3)
Cd 葉ねぎ,にんじん,きゅうり
セロリー,いちご,ほうれん
草,トマト,ブロッコリー,
ラデッシュ,しゅんぎく
キャベツ,秋播小麦,てん菜,大
豆,小豆,菜豆,とうもろこし,
チモシー,アルファルファ
   
Hg   全作物    
*分析点数1点、( )内は(標肥→コンポスト1t)の実含量


図3 土壌pHと大豆茎葉Hg,Cd濃度


図4 N無機化の経時変化


図5 コンポスト中のCaと市販炭カルの対比から求めた力価と必要量の関係

表4 イタリアンライグラスによる
   N利用率(ポット試験)
項目/
N施用量
g(ポット)
N吸
収量
(mg)
N利
用率
(%)
硫安 0.525 472.9 84.6
1.05 865.0 79.6
コンポスト 0.76 231.9 26.7
1.52 428.0 26.7
3.04 711.0 24.4
硫安
+
コンポスト
0.525
+
1.52
853.4 23.8

表5 コマツナによるコンポストP利用率(ポット試験)
項目/
資材
P施
用量
(mg)
黒ボク土(追分) 黒ボク土(喜茂別)
P吸収量 利用率
%
P吸収量 利用率
%
1回目 2回目 3回目 合計 1回目 2回目 3回目 合計
過石 436.8 63.2 50.0 3.5 116.7 26.7 34.5 23.0 2.7 60.2 13.8
過石
炭カル
436.8 54.7 35.7 26.5 116.9 26.8 37.1 28.1 22.9 88.1 20.2
ようりん 436.4 44.3 22.2 13.4 79.9 18.3 31.0 16.5 9.2 56.7 13.0
二次発酵
コンポスト
440.8 43.3 23.8 18.2 85.3 19.4 30.7 19.9 14.2 64.8 14.7

指導上の留意事項