【指導参考事項】
1.課題の分類  牛 家畜 衛生
2.研究課題名
  北海道における乳牛の代謝プロファイルテストに関する試験
3.期  間  昭和55〜59年
4.担  当  滝川畜試 衛生科 草地飼料作物科
5.予  算  道 費
6.協力分担

7.目  的
 起立不能症、繁殖障害、ケトージス、低マグネシウム血症などの「生産病」といわれる疾病の多くは飼養管理の失宜によるものである。これらの疾病を予防するため、予防獣医学的方法の一つとして、乳牛群の血液成分を解釈することにより、飼養管理上の問題点を見い出そうとする代謝プロファイルテストが提唱されている。昭和59年度北海道農業試験会議において、テストを実施するにあたり必要な基準値が示され、指導参考とされた。本報告ではその基準値を用い、北見・幌延・別海において実施したテストの概要と、テストの有用性および問題点を示し、テストを実施する際の参考資料とする。

8.試験方法
(1)テスト実施農家:北見4戸、幌延5戸、別海17戸、計26戸において延べ70回のテストを実施した。
(2)血液のサンプリング:泌乳前期、中期、後期および乾乳期の牛各々7頭を選び採血する。
(3)血液分析項目:蛋白質代謝の指標……血球容積、アルブミン、尿素窒素
        エネルギー代謝の指標……血糖、遊離脂肪酸
        ミネラル代謝の指標……カルシウム、リン、マグネシウム、カリウム
        肝機能の指標……GOT、総コレステロール
(4)テストの判定……各乳期ごとに7頭の血液成分の平均値を基準値と比較する。

9.結果の概要
 (1)生産病多発農家は26戸中15戸あり、そのうち14戸で延べ38項目に異常値がみられた。問題のない農家は11戸で、そのうち3戸で3項目だけ異常値がみられた。異常値の約半数は泌乳前期にみられた。
 (2)卵巣疾患多発農家は10戸、起立不能症多発農家は7戸あり、遊離脂肪酸の高い農家が最も多く、血糖、尿素窒素、カルシウムにも異常値が多くみられた。特に、泌乳前期に血糖およびマグネシウムが著しく低下した2農家ではその時期、卵巣疾患の発生が顕著であった。リンが著しく低下し、マグネシウムの低下もみられた農家では起立不能症の発生率が最も高かった。
 (3)蛋白不足の1農家では血球容積、尿素窒素の低下がみられた。エネルギー不足の農家では血糖と遊離脂肪酸に異常がみられた。GOTの高い農家は2戸あり卵巣疾患が多かったが、総コレステロールの低い農家はみられなかった。
 (4)放牧期と舎飼期における血液成分値は尿素窒素、カルシウム、リン、マグネシウムに差がみられたが、その差は基準値を分けて設けるほど大きなものではなかった。
 (5)生産病多発農家では粗飼料の品質が悪く、生産病発症の誘因の一つと考えられた。牧草品種の早晩性を吟味した草地の造成と適期刈が望まれる。

10.主要成果の具体的数字
表1 異常値を示す農家数と生産病
農家の問題点 農家の
総数(戸)
正常値を示す
農家(戸)
異常値を示す
農家(戸)
異常な
項目数
特に問題のない群 11 8 3 3
卵巣疾患多発農家 7 1 6 20
起立不能症多発農家 3 0 3 7
卵巣疾患+
   起立不能症多発農家
3 0 3 9
ケトージス多発農家 1 0 1 1
ケトージス+
   起立不能症多発農家
1 0 1 1
乳成分低下農家* 5 0 5 13
26 9 17 41
*乳成分低下農家は5農家とも生産病の多発が併発した農家であり合計から除いた。

表2 乳期別に異常のみられた農家数(戸)
  Ht Alb BUN Glucose FFA Ca P Mg K GOT T-ch
前期 2 0 7 5 10 3 2 2 0 1 0 32
中期 2 0 8 3 0 2 0 1 0 2 0 18
後期 0 0 8 4 1 1 1 0 0 1 0 16
乾乳期 1 0 6 1 2 0 0 0 0 0 0 10


図1 起立不能症(P農家)および卵巣疾患(A農家)多発農家のプロファイル

11.今後の問題点
 1.個々の生産病について、血液成分の変動パターンおよび飼養管理との因果関係を実験的に明らかにし、本テストにおける血液検査項目の選定および基準値についてさらに検討を加える。
 2.高泌乳牛の飼養において問題となるビタミンおよび微量ミネラルについて基準値を作成するとともに、生産病との因果関係を明らかにする。

12.指導普及上の注意事項
 本テストは飼料計算、土壌診断などと合わせて、総合的に農家での問題点を把握し、生産病の予防対策を講じる手段として利用されるものである。