【指導参考事項】
1.課題の分類  家畜 鶏 飼養
2.研究課題名  性成熟期の絶食法による産卵性の改善試験
3.期  間  昭和57〜59年
4.担  当  滝川畜試種畜部家きん科
5.予  算  道費
6.協力分担 なし

7.目  的
 性成熟期に一定期間絶食をさせることにより、群の中の早熟な個体の卵巣発育を一時的に抑え、産卵開始を揃えることによって急速なピーク産卵への到達をはかり、産卵初期の小卵の生産を少なくするとともに、その後の産卵性改善の効果を検討する。

8.試験研究方法
1)発育および性成熟のバラツキと絶食効果の関係
2)絶食日数の検討
3)絶食開始時期の検討
4)絶食による危険性の検討
5)絶食終了後の管理方法の検討

9.試験結果の概要
1) 絶食を行うと産卵開始が揃うことからピーク産卵までの立ち上がりがはやく、ピークに引き続く高産卵の持続性がはかられることが認められた。
2)産卵初期の小卵の生産が少なくなり、卵重規格別産卵割合ではMS以下の小卵割合が少なくなった。
3) 5%産卵翌日より絶食を開始し、8〜10日間絶食を行うのが最も産卵改善効果が認められた。この時の体重減量率は20〜25%であった。
4) 個体毎に検討した産卵率と、体重減量率、体重減少量、絶食開始時体重および絶食終了時体重の4形質間には特定の関係は認められないことから、絶食処理にあたっては、発育体重のバラツキや絶食による体重減少の個体差は特に考慮する必要はなく、群平均の体重減量率が20〜25%になることを基準に行えば良いと考えられた。
5) この方法により期待される産卵改善効果は、産卵日量で19前後が見込まれるが、飼料要求率の改善は期待できない。
6) 8日間絶食の場合、絶食開始時期は5%産卵から多少前後しても(2〜10%)その産卵改善効果は認められた。
7) 死に至るまで絶食を継続し危険性を検討した結果、斃死に至る絶食日数は個体差が大きく、危険性の目安は絶食開始時の体重に対する減量率で50%がボーダーラインといえた。
 このことから実用的な絶食法の期間内であれば問題はないと考えられた。
8) 秋孵化の雛で同様に危隆性を検討したが、秋雛では絶食期間が厳寒期にあたるため減量率45%がボーダーラインとなった。また絶食による減量速度も速いことから、絶食法の基準となる減量率20〜25%に到達する日数も短くなる。
9) 絶食終了後2週間程度の増し食いが現われるが、この間は標準量の定量給与により食い過ぎを防止しても絶食効果の発現に影響はない。
10) 育雛場での絶食処理後、再給餌3日間経過後に養鶏場へ輸送しても問題はない。

10.主要成果の具体的図表
表3 平均初産日齢と50%産卵日齢およびその差(試験2)
処理区 平均初産日齢(A) 50%産卵日齢(B) (A)−(B)
C 136.5a 140.0a -3.5
8日 146.2b 146.5ab -0.3
10日 150.1bc 151.5bc -1.4
12日 152.4C 152.0bc 0.4
14日 155.2cd 155.5bcd -0.3
16日 159.9de 161.0cd -1.1
18日 163.0e 163.0d 0
注)異符号間に5%水準で有意差あり

表5 卵重規格別産卵割合(試験1)
鶏種 処理区 卵重区分 二黄卵
規格外 SS S MS M L LL 規格外
シェーバー C 0.0 0.6 4.2 17.4 35.2 31.8 9.4 1.3 0.9
5日 0.0 0.6 4.6 16.5 34.5 31.1 9.9 2.7 0.8
10日 0.1 0.7 3.5 16.6 40.5 30.0 6.9 1.7 1.0
15日 0.0 0.4 1.9 12.2 31.2 35.8 16.4 2.1 0.8
ゴトウ C 0.1 1.1 5.9 18.0 37.3 31.0 6.1 0.4 0.4
5日 0.1 0.9 5.3 20.4 40.5 27.3 4.9 0.5 0.5
10日 0.1 1.0 4.2 16.2 39.1 32.3 6.1 1.0 0.6
15日 0.1 0.6 2.6 13.1 35.9 35.8 10.4 1.4 0.6
注)21〜65週齢

表6 週齢毎に見たピーク産卵とその持続性
試験 鶏種 処理区 産卵率88%
以上の週
最高
産卵率
試験1 シェーバー C 7週 91.40%
5日 9 93.2
10日 17 95.9
15日 10 90.8
ゴトウ C 5 90.7
5日 13 91.5
10日 15 92.3
15日 15 94.8
試験2 ゼットP C 24 97.1
8日 27 97.7
10日 26 96.8
12日 26 95.7
14日 26 95.1
16日 26 97.5
18日 26 96.7
試験3 ゼットP C 23 98.3
2% 29 97.9
5% 30 100.0
10% 24 98.3
試験4 ゼットP C 17 97.9
飽食 24 97.6
定量 27 98.0
輸送 25 98.4

表2 試験1〜4の結果の概要総括表
鶏種 処理区 絶食開始時 絶食終了時
体重
体重減量率 50%産卵到達時 産卵率 平均卵重 産卵日量 飼料摂取量 飼料要求率 備考
日齢 体重 日齢 体重
g g % g % g g g/羽/日
<試験1>
シエバー 128 1,543±143 150 1,735±162 82.4 62.5 51.4 118.2 2.30 試験1は21〜66週齢の成績
5%産卵翌日より絶食開始
5日 1,551±152 1,308±135 15.7 150 1,720±15g 83.4 62.5 52.2 116.0 2.22
10日 1,556±146 1,162±126 25.3 156 1,702±146 84.6 62.2 52.6 119.2 2.27
15日 1,528±143 1,026±118 32.9 165 1,705±146 80.8 64.3 52.0 124.4 2.39
ゴトウ 134 1,740±133   153 1,910±190 81.7 61.5 50.2 119.1 2.37
5日 1,761±135 1,488±123 15.5 155 1,943±144 81.7 61.1 49.9 118.5 2.37
10日 1,750±132 1,336±124 23.7 161 1,914±175 81.6 61.9 50.5 122.1 2.42
15日 1,742±134 1,219±123 30.0 168 1,878±128 81.4 63.2 51.4 127.6 2.48
<試験2>
ゼットP 123 1,575±141 140.0 1,733±158 88.2 60.0 53.0 117.6 2.22 試験2は21〜64週齢の成績
5%産卵翌日より絶食開始
8日 1,553±128 1,232±115 21.0 146.5 1,692±153 88.7 60.8 53.9 119.4 2.21
10日 1,561±131 1,194±120 24.0 151.5 1,718±142 88.5 60.4 53.4 119.1 2.23
12日 1,588±136 1,140±111 28.3 152.0 1,699±151 87.4 60.2 52.6 118.3 2.25
14日 1,549±124 1,076±106 30.2 155.5 1,664±140 86.6 60.2 52.2 119.2 2.29
16日 1,543±125 1,037±116 33.0 161.0 1,673±164 85.7 60.6 52.0 119.6 2.30
18日 1,576±122 1,012±122 36.0 163.0 1,714±139 85.6 60.5 51.7 119.7 2.31
<試験3>
ゼットP (125) 1,557±113 139.5 1,669±134 88.8 60.6 53.8 117.4 2.18 試験3は21〜64週齢の成績
2、5、10%産卵翌日より8日間絶食
2% 121 1,519±94 1,181±75 22.2 145.0 1,658±113 88.9 61.3 54.5 118.9 2.18
5% 125 1,584±133 1,231±108 22.3 148.0 1,713±138 90.2 61.2 55.2 123.0 2.23
10% 127 1,584±121 1,229±105 22.4 149.5 1,697±131 89.0 60.9 54.2 117.3 2.16
<試験4>
ゼットP 122 1,498±107 1,597±115 139.0 1,640±127 86.0 61.7 53.1 114.0 2.15 試験4は21〜64週齢の成績
5%産卵翌日より8日間絶食
飽食 1,501±108 1,188±97 20.9 148.0 1,595±148 87.7 62.0 54.4 114.9 2.11
定量 1,505±119 1,195±105 20.6 147.0 1,618±124 90.1 61.4 55.4 117.1 2.11
輸送 1,493±88 1,173±78 21.4 150.0 1,656±93 89.5 62.1 55.6 116.6 2.10
  注)体重は平均値±標準偏差で示した。


図9 絶食による斃死鶏の減量率の度数分布(試験5)

11.今後の問題点
 1) 小型鶏種による反応の差異
 2) 育成期間の制限給与法と組み合わせた場合の絶食効果

12.普及指導上の注意事項
 1) 育成期間の基本的技術の重要性については変わりはない。
 2) 絶食中および絶食前後3〜4日間のワクチン接種は避ける。
 3) 絶食中に飲水を切らさないこと。
 4) 適切な断嘴を行い、給与鶏を絶食鶏の嘴の届く範囲に置かないこと。
 5) 絶食による減量速度は、艀化季節、環境、鶏種によって異なるので、体重減量率20〜25%を目安に絶食日数を設定することが必要。
 6) 基本的な骨格の発育は終った段階での処理であるので、この技術によって小格化をはかることはできない。