【指導参考事項】
1.課題の分類  D−14,15
2.研究課題名  粗飼料のくん炭化防止に関する試験
3.期  間  (昭和58〜60年)
4.担  当  根釧農業試験場 酪農第一科.
       酪農施設科.管理科
5.予算区分  総合助成
6.協力分担  な  し

7.目  的
 気密サイロ貯蔵の低水分サイレージや、ビッグベール乾草のくん炭化現象が増加傾向にあり、自然発火する場合もあるので、この防止対案を明らかにする。

8.試験研究方法
 (1)気密サイロ低水分サイレージのくん炭化防止に関する試験
  ア.低水分サイレージのくん炭化実態調査
  イ.サイロ構造と通気・気密性
 (2)ビッグベール乾草のくん炭化防止に関する試験
  ア.くん炭化発生要因の解析
   (ア)水分含量,梱包圧,貯蔵場所および被覆方法がくん炭化に及ぼす影響
   (イ)水分含量.収納方法および堆積方法がくん炭化に及ぼす影響
  イ.くん炭化緩和に伴う微生物増殖に対する制菌剤添加効果査定

9.結果の概要・要約
(1)気密サイロ低水分サイレージのくん炭化防止に関する試験
 ア.新酪地区酪農家113戸の聞き取り調査では約40%でくん炭化の経験があり、これまでの発生件数は60件であった。主な原因として、原料草の過乾藻.気密不良をあげている。
 イ.原料草水分は天候に左右されやすく、天候不良であった昭和58年には50%以上での詰め込みが多く、好天の続いた昭和59.60年は50%以下での詰め込みが増加した。
 ウ.サイロの気密性は、取り出しロ周辺の密閉が悪く気密不良のものが多かった。減圧試験の結果、20㎜Aq涼圧放置での1分間の空気流入量は260〜1,600L・atomであった。また、2年連続試験のサイロでは気密性の低下が認められた。
 工.くん炭化の発生は、サイロ壁体に隙間があるなど気密性の悪いサイロに、水分40%以下の原料草を詰め込んだ時に多く、また、取り出し量の少ない時にも発生が見られた。
 オ.快晴時のサイロ上部空間の圧力は、午前中には正圧(最大差圧25mmAq)で、日没前より負圧となったが、プリーザパッグ装備のため、最大でも-2mmAqであった。空間部の温度は、最低:-8℃(外気温-15℃)、最高:25℃(外気温5℃)であった。
 力.低水分サイレージのくん炭化防止対策として、a.サイロの気密性を保つこと、b.適正水分(50%以上)での詰め込み、c.適正取り出し量での使用、d.晴天日の夕方はサイロ内が負圧のため取り出しロの密閉に注意を払うことなどがあげられる。
(2)ビッグベール乾草のくん炭化防止に関する試験
 ア.原料草の水分が高くなるのに伴い、貯蔵中の品温上昇が著しく、くん炭化の度合も強くなり“カビ”の発生や堆肥化による損失も増加した。
 イ.高水分ベールを即時横積み収納すると品温が急激に上昇し、最高で86℃に達した。縦積み収納では品温の急激な上昇は認められず、くん炭化の程度は緩和された。
 ウ.高水分ベールの収納前舎外仮置により、熱・水分の発散が促進され、くん炭化の程度は緩和された。舎外仮置では降雨時に被覆を行い、それ以外では取り外すなどの適切な管理が必要である。
 工.高水分ペールの舎外板置・縦積みではくん炭化の緩和がみられたが、カピの発生が増加した。しかし、プロピオン酸アンモニウムの調製時添加によりある程度援和できた。 オ.くん炭化防止対策としては、可能な限り低水分にすることが発熱防止上最も有効であり、やむを得ず乾燥不十分で調製した場合には、舎外仮置や縦積み収納により放熱・水分の蒸散促進を図る必要がある。併せて制菌剤添加などの好温性菌防止対案を溝ずることが望ましい。

10.主要成果の具体的数字

  B)主なくん炭化の発生原因
図1 低水分サイレージのくん炭化
  聞き取り調査結果(調査戸数113戸)


図2 原料草水分別調製日数の割合


図3 サイロ内圧力と温度変化

表1 気密サイロ減圧試験結果
農家No. サイロ
機種
くん炭化
発生年度
試験年次 最大差圧1)
(mmAq)
20mmAq減圧放置
流入量(atom/分)
備考
1 A - 59 28 1,175 取り出し口密閉後
2 C - 59 (16) - 温度変化大
3 C 55 59 14 1,034 カバー不良、密閉後
4 A 56・57 59 17 757 取り出し口密閉後
5 D 60 58-1 59 263  
2 (68) 123 ボトル1本外す
3 (87) 304  〃 3本 〃
4 (79) 559  〃 5本 〃
6 A - 58 23 757 取り出し口密閉後
59 10 866      〃
7 B - 59 18 772 ブリーザバック開放
8 A 57 58 6 1,609 取り出し口密閉後
59 21 501  〃  、残6m
9 C - 58-1 19 847 流入音あり
2 37 403 取り出し口密閉後
10 A 56 59 6 1,321 取り出し口密閉、残あり
11 D 58 59 〈不可〉 - サイロ壁に隙間
12 A - 58 51 49 アンローダ取出し、密閉
注)ボルト穴を塞いで減圧した時の最大差圧である。


図4 3段積みビッグベール乾草の中心品温変化

表2 各ベール堆積(中央5個)のくん炭化発生状況(DM%)
水分 高水分 低水分
37% 39% 39% 37% 39% 39% 23% 19%
処理 即時収納 仮置後収納 即時収納
品質 色調 横積 縦積 縦PA 横積 縦積 縦PA 横積 縦積
廃棄 18.4 50.6 31.8 17.6 63.3 51.0 4.2 0.9
くん炭 黒褐色 16.3              
濃褐色 41.9              
褐 色 18.2 45.4 66.4 71.3        
淡褐色         30.5 39.2 6.0  
良質 淡黄色 5.2 4.0 1.8 11.1 6.2 9.8 89.8  
淡緑色               99.1
廃棄:発カビ,堆肥化などくん炭化以外の原因によるもの
PA:プロピオン酸アンモニウム0.7%添加



図5 高水分堆積ベールの中心断面におけるくん炭化発生状況

11.今後の問題点
 ア.サイロ気密性の判定基準投足
 イ.サイロ壁体の気密性低下防止と、劣化部分の早期発見、及び捕修法の検討
 ウ.サイロ内温度計測法の検討
 エ.ビッグベール乾草のくん炭化防止に伴う微生物対案、特に制菌剤の適正添加水準の検討
 オ.高水分ビッグペール乾草のサイレージ化の検討
 力.くん炭化低水分サイレージ、及びビッグペール乾草の給与が、家畜の生産性に及ぼす影響とその改善対案の究明

12.普及上の注意事項
 ア.原料草水分は簡易水分計などで確認することが望ましい。
 イ.原料草の適正水分は低水分サイレージで50〜60%、乾草で20%以下とする。とくにファイヤーゾーンとされる水分30-40%での調製はさける。
 ウ.低水分サイレージ原料草の過乾燥を防止するため、フォーレージハーベスタの処理能力に見合った刈り取りを行う。
 エ.最低年1回、気密サイロの安全バルブ、及びブリーザパッグを点検する。
 オ.ビッグベール乾草をやむを得ず乾燥不十分で調製した場合には舎外に仮置をし、定期的に品温を測定する。品温が安全領域まで低下してから収納する。
 力.本試験に供用した草舎は吹抜きD型である。吹抜きでない一般のD型草舎では、ペール品温は更に高くなることが予想される。
 キ.原料草の乾燥むらや雨漏りなどもくん炭化の原因となるので注意する。
  *くん炭化が低水分サイレージ及びビッグペール乾草の飼料価値に及ぼす影響については明年度の成議会議に提出の予定である。