【指導参考事項】
1.課題の分類 水 田 作 2.研究課題名 良食味品種の安定多収特別対策試験 − 「ゆきひかり」の登熟性の解析− 3.研究期間 昭和58年〜61年 4.担 当 上川農試 水稲栽培科 5.予算区分 道 単 6.協力分担 |
7.試験目的
「ゆきひかり」の登熟に関する稲体要因を解析する。
8.誌験研究方法
(1)場内試験(試験年次により処理の組み合わせは異なる)
試験年次:昭和58年〜61年
供試品種:「ゆきひかり」、「みちこがね」、「ともひかり」
栽植密度:20、22、25、30、40株/㎡
苗の種類:稚苗、中苗、紙筒苗、成苗マット苗、成苗ポット苗
移植日 :5月20日〜24日
土壌条件:暗色表層褐色低地土
施肥法と窒素施肥量(kg/10a):
全層全量基肥 5.6、8、1 全層8+止葉期2 全層6÷表層4+止葉期2
全層5.6+表層2.4+止葉期2 全層4+表層4+止鯛4 全層2÷表層4+止葉期2
表層4÷幼形期2+止葉期2 全層2+表眉4+幼形期2+止葉期2
根の調査:改良モノリス法による
9.結果の概要・要約
(1)「ゆきひかり」の最適籾数・総籾容積は「みちこがね」、「ともひかり」に比べて少なく、籾数過剰による稔実籾登熟歩合の低下と減収が著しかった。「ゆきひかり」の安定多収の目標籾数は3.5万粒/㎡程度と判断された(図1)。
(2)「ゆきひかり」の籾数・総籾容積生産効率は、イネわら連用区において他の2品種よりも高かった(表1)。
(3)出穂後一籾当たり乾物生産量は、品種を込みにして稔実籾登熟歩合と有意な正の相関を示した。同一籾数・総籾容積では、出穂後一籾当たり乾物生産量には品種間差は認められなかった。
(4)「ゆきひかり」では、穂への乾物分配率の低下にともなう稔実籾登熟歩合の低下が著しかった(図2)。同一籾数における穂への乾物分配率は「ゆきひかり」が最も低かった。
(5)二次枝梗割合、節位別穂数・籾数構成には品種間差は認められなかった。
(6)出穂期における根の分布は、「ゆきひかり」は「ともひかり」に比べて表層近くで水平方向に広がる根が多く、また株直下に伸長する根は相対的に少なく、かつ、褐変したものが多かった(図3)。
(7)「ゆきひかり」の刈り取り適期幅は「ともひかり」に比べて短く、また籾数が多い程短縮した。
(8)表層施肥を組み合わせた分施栽培によって、「ゆきひかり」の節間長を倒伏の安全域内に保つことができた。
以上、「ゆきひかり」の登熟性の検討においてシンクに関する問題点(最適籾数・総籾容積は少ないにもかかわらず、籾数・総籾容積は増大しやすい)とソースの問題点(一籾当たりの乾物生産量に明瞭な品種間差はなかったが、穂への乾物分布率は「ゆきひかり」が最も低い)をそれぞれ明らかにすることができた。これに基づいて、「ゆきひかり」の登熟性改善には籾数調節技術、出穂促進技術の導入、ならびに、根の生育の改善が必要であることを指摘した。
10.主要成果の具体的数字
図1 籾数と収量の関係
○ゆきひかり ▲みちこがね ×ともひかり
図中の数値:基肥N量(kg/10a)
図2 穂への乾物分布率と稔実籾登熟歩合の関係(昭61年)
○ゆきひかり ▲みちこがね ×ともひかり
図3 出穂期における根の分布の品種間差異(昭61年)
A:ゆきひかり B:ともひかり
表1 籾数生産効率(昭61年)
籾数生産効率 | 出穂期N保有量当たり | 出穂期葉身重当たり | 出穂期茎葉重当たり | |||||||
区/品種 | ゆき ひかり |
みち こがね |
とも ひかり |
ゆき ひかり |
みち こがね |
とも ひかり |
ゆき ひかり |
みち こがね |
とも ひかり |
|
連用 イネわら |
全層標肥 | 36.6 | 34.1 | 39.2 | 235 | 231 | 266 | 63.8 | 61.2 | 65.4 |
全層減肥 | 51.5 | 41.0 | 44.0 | 299 | 242 | 273 | 66.4 | 49.3 | 58.2 | |
表層(多)分施 | 39.4 | 34.4 | 34.6 | 328 | 253 | 262 | 67.3 | 54.2 | 56.1 | |
表層(標)分施 | 45.4 | 30.9 | 37.9 | 322 | 242 | 257 | 72.0 | 50.6 | 51.1 | |
平均 | 43.2 | 35.1 | 38.9 | 296 | 242 | 265 | 67.4 | 53.8 | 57.7 | |
無施用 イネわら |
全層標肥 | 39.2 | 32.7 | 37.2 | 267 | 235 | 245 | 62.9 | 47.7 | 49.0 |
全層減肥 | 43.0 | 41.6 | 45.9 | 247 | 253 | 269 | 53.2 | 43.2 | 55.1 | |
表層(多)分施 | 39.5 | 35.5 | 43.5 | 271 | 261 | 309 | 60.0 | 50.7 | 61.0 | |
表層(標)分施 | 37.3 | 38.6 | 44.6 | 235 | 242 | 239 | 548 | 47.2 | 47.1 | |
平均 | 39.8 | 37.1 | 42.8 | 255 | 248 | 266 | 57.7 | 47.2 | 53.0 |
11.普及指導上の注意事項
本試験は、上川管内の初期生育良好な褐色低地土において実施したものであり、土壌及び地域差に留意する。