【指導参考事項】(昭和58〜61年)
畑土壌における適正Mn濃度設定に関する試験−暫定−
道立北見農試土壌肥料科
目的
網走管内火山灰地帯における未耕地、一般畑地および勾配修正畑における化学性の実態と、さらに今まで明確にされていなかった畑土壌の適正Mn濃度について検討する。
試験方法
Ⅰ 火山灰未耕地土壌の化学性(昭和58年度)
網走管内 おもな火山灰21点を採取し、風乾し2mmの篩を通したものを分析に供した。
Ⅱ 火山灰畑土壌における化学性の実態(昭和58〜60年度)
(1)畑地(作土)の化学性:各年度の10月に、管内11市町村の火山灰畑土壌の畦間作土層から土壌を採取し(n=244)、風乾後、2㎜の篩を通したものを分析に供した。
(2)勾配修正畑の化学性:各年度の9月に、管内11市町村の勾配修正畑(n=50)より、切土部、中央部、盛土部の畦間作土層、心土層を採取した。また近接の未実施畑からも作土層、心土層を採取した。
Ⅲ 畑地における適正Mn濃度について(昭和59〜61年度)
(1)ポット試験
①Mn施用試験…低Mn含有土壌に硫酸マンガンを施用し、大麦の生育反応をみる。
②炭カル施用試験…高Mnと低Mn含有土壌に炭カルを施用し、Mnの不可給に伴なう大麦の生育反応をみる。
③高PH土壌におけるMn欠乏対策試験…高pH土壌に硫酸マンガン、サンドセットなどを施用し、大麦および春播小麦の生育反応をみる。
(2)現地試験
清里町の低Mn含有土壌に硫酸マンガンを施用し、大麦の生育反応をみる。
試験成果の概要
Ⅰ 火山灰には粗砂部分の多いものからシルト+粘土部分の多いものまであり、前者の割合が高い。なお、シルト+粘土部分の多い火山灰はCEC、塩基飽和度が割合高く、Bを除いた微量要素も適度に含む。pH(H2O)は全般的に微酸性のものが多い。(第1表)
Ⅱ 一般火山灰畑土壌では、pH(H2O)やトルオーダP2O5濃度が基準値から外れる土壌が大部分の市町村でみられた。また、0.1NHCL可溶Cu濃度の低い土壌は各市町村にあり、Zn濃度の低い土壌は内陸の一部市町にみられた。易還元性Mn濃度はほとんどの市町村で基準値以下の100ppm以下であった。(第2表)
勾配修正畑では、トルオーグP2O5濃度、Cu濃度、熱水B濃度が基準値以下の土壌が60〜70%を占めた。易還元性Mn濃度が基準値以下の土壌は80%強であった。(第1図)。勾配修正実施年が古い畑地ほど、腐植含量、トルオーグP2O5濃度、熱水B濃度が高くなる傾向にあった。(第2図)
Ⅲ 畑土壌の適正Mn濃度設定試験の結果、土壌のpH(H2O)が5.5〜6.5の範囲で、麦類のMn欠乏発現濃度は易還元性Mn50ppm程度と推定された。(第3図)
主要成果の具体的数字
第1表 シルト+粘土含有量の違いと化学性の比較
n | 項目 | シルト+粘土 % |
PH (H2O) |
CEC ne/100g |
塩基飽 和土% |
0.1NHCL ppm | 熱水 B ppm |
火山灰 | ||
Zn | Cu | |||||||||
6 | _ X |
41.2 | 6.37 | 25.8 | 49.4 | 168 | 4.9 | 1.4 | 0.15 | Km-C.d,sh-1,To,BI-1 |
σn-1 | 11.4 | 0.14 | 5.3 | 14.0 | 170 | 3.0 | 0.8 | 0.15 | ||
7 | _ X |
23.7 | 5.95 | 13.4 | 23.9 | 127 | 3.6 | 1.0 | 0.17 | Km-2a,4a,c,d,sh-p,kpf1,黒雲母 |
σn-1 | 6.6 | 0.40 | 6.4 | 12.4 | 211 | 4.1 | 0.8 | 0.09 | ||
8 | _ X |
10.2 | 6.06 | 11.6 | 23.0 | 31 | 1.8 | 1.2 | 0.14 | Km-5a,Ma-f,Ta-a,Da-1,Da-p |
σn-1 | 7.4 | 0.39 | 4.6 | 12.6 | 26 | 1.1 | 1.4 | 0.10 |
第2表 市町村別、各化学性の土壌診断基準値以下および以上の出現割合
基準値 | 項目 | 0〜10% | 10〜30% | 30〜50% | 50%以上 |
以下 | PH(H2O) | 清・東・美・北 | 斜・小・網・津 | 女・端・訓 | |
P2O5 | 小・網・端・北 | 斜・清・東・女・美・ 津・訓 |
|||
Cu | 美 | 清・小・北 | 斜・女・端・津・訓・ | 網・東 | |
Mn | 北 | 斜・清・小・網・東・ 女・端・美・津・訓 |
|||
Zn | 斜・清・小・網・ 東・津・訓 |
女・美・北 | 端 | ||
B | 斜・清・小・網・ 津・訓 |
||||
以上 | PH(H2O) | 小・女・端・訓 | 斜・清・東・網・津 | 美・北 | |
P2O5 | 小・女・美 | 斜・清・東・網 | 端・北・津・訓 | ||
B | 網・東 | 小・北・津 | 女・美・端・訓 | 斜・清 |
第1図 勾配修正畑と対照畑における化学性の土壌診断基準値以下および以上の出現割合
Ⅰ:未実施(n=21) Ⅱ:S52〜55年(n=10)
Ⅲ:S58〜60年(n=10)
第2図 年次別勾配修正畑の化学性(女満別町、作土)
第3図 易還元性Mn濃度と大麦収量の関係
普及指導の注意事項
1.土壌のpH(H2O)が5.5〜6.5におけるMn欠乏の対策としては、Mn0 20kg/10a(Mn15.5kg/10a)を施用するが、連用は行なわない。また、Mn施用に関しては必ず圃場台帳に記帳する。
2.高pH土壌におけるMn欠乏のばあいは、まず土壌のpHを適正に矯正する。矯正した土壌のMn濃度をチェックし、土壌診断基準値以下のばあいにはMn0 20kg/10aを施用する。