【普及奨励事項】
1 課題の分類 病害・野菜 2 研究課題名 コナガの防除技術確立試験 3 期 間 昭和56〜60年 4 担当 道南農試 病虫予察科 中央農試 病虫部 発生予察科 5 予算区分 道 費 6 協力分担 |
7 目 的
アブラナ科野菜の重要害虫であるコナガについて、これまでよく知られていなかった道内での発生生態を解明し、的確な発生予察と薬剤の選定に基づく防除技術を確立する。
8 試験研究方法
(1)発生生態解明試験:水銀灯及ぴフェロモン・トラップによる成虫の発生消長調査、キャベツ畑での幼虫の密度調査、道内5地点産コナガの発育速度等の比較、発生消長の解析。
(2)個体数変動要因の解明:幼虫、蛹の死亡率、蛹体重の調査、産卵数と各種要因の関係、内的自然増加率の算出、羽化成虫数の推定及ぴ主変動要因の解析。
(3)越冬に関する試験:低温下における各態の生存期間の調査、積雪下における各態の生存状況調査及ぴ冬期間の施設における生存状況調査。
(4)防除対策試験:薬剤感受性検定法の比較、各種薬剤に対する幼虫の感受性の比較及ぴキペツ畑でのローテーション散布試験。
9 結果の概要・要約
(1)発生生態
1)道南・道央地域におけるコナガの発生期はおおよそ5月下旬から10月で8月が最盛期となるが年次変化が大きく、成虫誘殺数から一定の傾向は把握出来ない(図1)。
2)発育有効温量から推定した道内各地の年間発生可能世代数は4〜5世代であり、4月からの有効積算温量が1000〜1100日度の時期に幼虫の年間の最盛期が、500〜600日度の時
期に次に大きい盛期があることが4年間の調査で示された(表1、2、図2)。
(2)個体数変動要因
1)幼虫の寄生蜂による死亡率は8月と9月に高く、病気その他の原因による死亡率は8月以降急激に増加する(図3)。
2)蛹の体重ば6月に最も重く、7〜8月にかけて減少し9月以降また増加する。蛹の雌の体重と産卵数との間には正の相関が、蛹の体重と幼虫期の気温との間には負の相関が、幼虫期の飼育密度と蛹の体重との間には弱い負の相関が認められた(図4、5)。
3)キャベツ畑の幼虫と蛹の生息数及ぴ毎日の発育有効温量を用いて羽化時期と羽化成虫数を推定し、世代間増殖率と個体数変動要因の年次変化を比較した結果、気温が最も大きな変動要因であることが確められた。更に第Ⅱ期世代の推定羽化成虫数と発生最盛期である第Ⅲ・Ⅳ期幼虫数との間に連動する関係が認められた(図6、7)。
(3)越冬に関する試験
1)野外の積雪下及ぴ越冬後のキャベツでのコナガの生存は確認出来なかった。
2)1±1℃の低温下に置かれた成虫は羽化後120日以上まで生存するものもあったが、60日目以降の繁殖能力の低下が大きかった。
3)無加温のファイロンやビニールハウス等の中では幼虫と成虫は長期間生存し、道南農試のキャベツを植えたハウスでは越冬、繁殖出来ることが確認された(図8)。
(4)防除対策試験
1)各種薬剤に対するコナガの感受性の検定法について検討し、キャベツ葉を常用濃度の薬液に浸漬、乾燥後3齢幼虫を放飼し、48時間後の死亡率をみる方法が簡便で、糖度も比較的高いと考えられた。
2)道内で多く使用されている殺虫剤に対する感受性の年次及び地点間の差を調べた。年間、地点、薬剤間にそれぞれ差が見られたが、野菜産地で多用されている薬剤に対する感受性の低下がやや懸念された(表3)。
3)キャベツ畑でいくつかの薬剤を組み合わせてコナガをはじめ主要な食葉性害虫のモンシロチョウ、ヨトウガ、ウワバ類に対する防除効果を調べた。その結果、害虫の種類毎の発生期に合わせて薬剤を選択する必要性と、とりわけコナガに対しては発生初期の防除が重要であることが確認された(図10)。
10 主要成果の具体的数字
表1 道内各地の有効温量から推定したコナガの発生可能世代数
地名 | 年 | 世代の終了月/日 | 10月31日迄の 発育有効温量 |
||||
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ | |||
北見 | 昭和57年 | 6/17 | 7/18 | 8/13 | 9/7 | 1561.4 | |
58 | 6/27 | 8/3 | 8/25 | 10/9 | 1283.5 | ||
59 | 6/13 | 7/11 | 7/31 | 8/19 | 9/21 | 1711.9 | |
名寄 | 昭和57年 | 6/25 | 7/22 | 8/15 | 9/10 | 1485.4 | |
58 | 6/29 | 7/31 | 8/23 | 9/27 | 1303.1 | ||
59 | 6/13 | 7/12 | 7/31 | 8/20 | 9/23 | 1666.4 | |
旭川 | 昭和57年 | 6/12 | 7/11 | 8/3 | 8/23 | 9/21 | 1760.4 |
58 | 6/13 | 7/19 | 8/10 | 9/2 | 1565.9 | ||
59 | 6/9 | 7/5 | 7/26 | 8/12 | 9/5 | 1863.8 | |
長沼 | 昭和57年 | 6/17 | 7/15 | 8/8 | 8/30 | 10/1 | 1724.5 |
58 | 6/18 | 7/24 | 8/15 | 9/6 | 1534.6 | ||
59 | 6/16 | 7/14 | 8/2 | 8/21 | 9/18 | 1753.9 | |
伊達 | 昭和57年 | 6/21 | 7/22 | 8/15 | 9/8 | 10/19 | 1629.7 |
58 | 6/25 | 7/30 | 8/20 | 9/17 | 1424.0 | ||
59 | 6/26 | 7/23 | 8/11 | 9/4 | 10/20 | 1581.8 | |
大野 | 昭和57年 | 6/17 | 7/17 | 8/10 | 8/31 | 10/2 | 1721.6 |
58 | 6/13 | 7/23 | 8/14 | 9/5 | 10/13 | 1576.8 | |
59 | 6/22 | 7/19 | 8/6 | 8/27 | 9/24 | 1712.0 | |
60 | 6/20 | 7/20 | 8/9 | 8/27 | 9/21 | 1745.9 |
表2 各飼育温度での各態の発生必要日数
飼育温度 (℃) |
卵 | 幼虫 | 蛹 | 合計日数 | |||
必要日数 | 標準偏差 | 必要日数 | 標準偏差 | 必要日数 | 標準偏差 | ||
13 | 9.132 | 1.024 | 31.000 | 2.925 | 16.219 | 1.818 | 56.351 |
17 | 4.901 | 0.614 | 16.289 | 2.007 | 8.046 | 0.974 | 29.236 |
20 | 4.217 | 0.584 | 13.865 | 1.489 | 6.758 | 0.862 | 24.840 |
25 | 3.140 | 0.418 | 9.769 | 0.995 | 4.174 | 0.535 | 17.083 |
30 | 2.355 | 0.495 | 7.573 | 1.098 | 3.887 | 0.658 | 13.815 |
図1 予察灯によるコナガ成虫誘殺数の年次変化(大野町)
図2 発育有効積算温量とコナガ幼虫生息数
図3 コナガ幼虫生存率の年次変化
図4 コナガ雌さなぎ体重の変化
図5 雌さなぎ体重と産卵数の関係
図6 推定羽化成虫数の年次変化
図7 第Ⅱ〜Ⅲ期世代間増殖率と各種変動要因の年次変化
幼虫時の飼育温度による、蛹の体重変化
(平均値と95%信頼区間)
図8 無加温施設内のコナガ各態の越冬状況
図9 異る処理法による各種薬剤の殺虫率
表3 各種薬剤に対する各地産コナガ
(3齢幼虫)の半数致死濃度
地点名 | 薬剤名 | 年 | 24時間後 | 48時間後 | ||
LC50 | 95%信頼区間 | LC50 | 95%信頼区間 | |||
大野町 | DDVP75%乳剤 | 57 | 191.7 | 105.2 - 351.9 | 107.2 | 61.4 - 188.2 |
58 | 606.6 | 448.7 - 833.8 | 379.3 | 285.7 - 504.5 | ||
アセフェート50% 水和剤 |
57 | 626.8 | 320.1 - 1331.3 | 261.8 | 148.7 - 464.5 | |
58 | 1008.1 | 646.5 - 1873.6 | 386.2 | 266.6 - 577.4 | ||
59 | 230.0 | 171.5 - 350.4 | 118.7 | 90.4 - 173.8 | ||
60 | 316.2 | 244.9 - 447.1 | 192.4 | 149.5 - 270.5 | ||
カルタップ50% 水溶液 |
57 | 18.2 | 12.1 - 26.9 | 12.7 | 7.9 - 20.2 | |
58 | * | 49.2 | 34.5 - 63.9 | |||
プロチオホス45% 乳剤 |
57 | 169.6 | 80.7 - 368.3 | 51.6 | 25.7 - 101.0 | |
58 | 349.9 | 148.4 - 1019.7 | 62.7 | 20.3 - 121.2 | ||
59 | 240.7 | 194.7 - 315.7 | 111.3 | 90.5 - 144.9 | ||
60 | 124.0 | 84.8 - 234.3 | 59.0 | 41.1 - 107.5 | ||
マラソン+フェンバレ レート水和剤 |
58 | 1.6 | 0.2 - 10.3 | * | ||
59 | 4.5 | 3.6 - 6.1 | 3.7 | 3.0 - 4.9 | ||
フェンバレレート10% 乳剤 |
59 | 1.5 | 1.2 - 1.9 | 1.3 | 1.1 - 1.7 | |
60 | 11.2 | 9.0 - 15.1 | 7.9 | 6.5 - 10.4 | ||
函館市 | アセフェート50% 水和剤 |
59 | 2322.9 | 1655.8 - 3892.9 | 954.9 | 741.5 - 1341.8 |
60 | 800.0 | 581.0 - 1286.1 | 696.0 | 531.6 - 1008.7 | ||
プロチオホス45% 乳剤 |
59 | 442.0 | 344.4 - 617.7 | 159.6 | 127.7 - 213.4 | |
60 | 264.7 | 196.2 - 408.0 | 147.7 | 108.4 - 233.1 | ||
フェンバレレート10% | 60 | 16.2 | 12.7 - 22.7 | 12.6 | 10.0 - 17.3 | |
伊達市 | アセフェート50% | 60 | 297.1 | 208.6 - 518.7 | 145.3 | 111.4 - 209.7 |
プロチオホス45% | 60 | 746.6 | 529.5 - 1268.0 | 301.6 | 234.1 - 424.6 | |
フェンバレレート10% | 60 | 8.9 | 7.1 - 12.2 | 4.1 | 3.4 - 5.5 | |
広島町 | アセフェート50% | 60 | 633.9 | 466.4 - 992.4 | 512.1 | 383.7 - 771.1 |
プロチオホス45% | 60 | * | 1662.7 | 1025.1 - 4410.9 | ||
フェンバレレート10% | 60 | 6.4 | 5.0 - 8.9 | 7.7 | 6.2 - 10.6 |
図10 ローテーション散布による各種害虫の生息数の変化
図11 道南、道央地域におけるアブラナ科野菜の作型と主要害虫の発生消長模式図
(作型は「北海道野菜地図」、9による)矢印は初期散布適期
11 今後の問題点
1)精度の高い発生予察のためのシミュレーション・モデルの開発
2)越冬及び移動に関する問題の解明
12 成果の取扱い
1)コナガの効率的な防除のためには発生初期の薬剤散布が重要である。
2)発生期の予測に際して4月からの発育有効積算温量(発育零点:7℃)が第1世代成虫発生期(約300日度)、幼虫発生盛期(約500〜600、1000〜1100日度)を知る手がかりとなる。
3)薬剤の散布にあたっては、モンシロチョウ、ヨトウガ等他種害虫の発生状況に合わせて下記のグループ分けを参考にして、同じグループの薬剤を連用しないようにする。
A.カーバメイト系粒剤:7〜8日移植期に(ベンフラカルブ粒剤)
B.合成ピレスロイド系:発生初期、または多発生時(フェンバレレート・マラソン水和剤等)
C.有機リン系:他種害虫との同時防除時期に(アセフェート水和剤、プロチオホス乳剤等)
D.その他:コナガ主体の防除時期や施設内での防除に(カルタップ水溶剤、BT剤等)
4)冬期間の施設内に放置されたアブラナ科野菜や雑草はコナガの越冬源となるおそれがあるので除去する。