【指導参考事項】
1 課題の分類 虫害・野菜 2 研究課題名 トンネル利用乾熱処理によるイチゴのシクラメンホコリダニ 3 期 間 昭和58〜60年 4 担 当 道南農試病虫予察科 5 予算区分 総合助成 6 協力分担 |
7 目的
イチゴの栽培上大きな問題となり、収穫皆無の障害をもたらしているシクラメンホコリダニの防除対策は、現行農薬の防除効果が不十分なため、化学的防除法によることは困難である。それゆえ、太陽熱を利用してイチゴの株を高温処理によってより簡便で効果的な物理的防除法を確立する。
これと併せて現地の採苗実態を明らかにし、増殖配布中の優良苗の汚染防止対策の検討を行う。
8 試験研究方法
(1)昇温方法の開発
有効温度の探索、有効温度確保の検討。
(2)処理時期設定
有効温度出現時期、時期別処理効果の検討。
(3)汚染実態及ぴ解明
原苗ほ及び採苗ほの汚染実態、汚染方法解明の検討。
(4)汚染防止対策
隣接ほ及び隔離ほの汚染、寒冷紗被覆の効果。
9 結果の概要・要約
(1)イチゴ株の乾熱処理によるシクラメンホコリダニ防除効果は、温度が40〜55℃の範囲で10〜60分間処理では、55℃の60分間処理は高い効果を示したが、それ以下の温度および処理時間は劣った。
(2)しかし、55℃以下の温度でも処理時間を長くすると高い効果の得られることが判明し、50〜55℃の温度が2時間以上継続したときに防除効果の高いことを認めた。
(3)この温度を確保するため5種類のフィルム資材を用いてトンネル被覆処理を行った結果、最も高温に経過したのがビニールフィルムで、これにサンホットフィルム、ポリフィルム、アグロンフィルムおよびリニエースフィルムと順次した。しかし、ビニールフィルムとサンホットフィルムは、イチゴの茎葉が高温によって焼ける障害の発生頻度が高かった。それに比べてポリフィルムはトンネル内温度が1〜4℃低く経過するが、イチゴの茎葉が焼ける障害の発生は認められなかった。
(4)また、ポリフィルム被覆処理によるトンネル内温度の上昇をはかるため、ポリフィルムのマルチ、またはラプシート被覆等の組合せ処理を行ったところ、トンネル内の温度は3〜8℃高温に経過したが、マルチの高温、ラプシートは内側に水滴が付着しやすいなどがあり、これが原因で茎葉が焼ける障害の発生がみられた。従って、ポリフィルム単独処理は、有効温度が確保できるとビニールフィルムに比べて安全で、かつ有効な防除法と認められた。
(5)ポリフィルムを用いたトンネル処理の有効温度は日照時間との関連性が高く、晴天で1日8時間内外の日照時間があると確保できる。その時期は5月下旬から10月上旬にかけて出現するが、6月下旬〜9月下旬はその頻度が高い傾向が認められた。
(6)処理時期は、本ぽではイチゴの収穫終了後の7月中〜下旬、苗床では活着して十分生育の進んだ定植直前の処理が有効であるが、資材およびトンネル処理の労力を考慮すると苗床処理が有利と考えられる。
(7)道内におけるシクラメンホコリダニの発生分布は、昭和57年の調査時よりさらに拡大し、ほとんどのイチゴ産地で発生がみられる。
一方、苗を増殖する採苗ほの環境は、植物遺伝資源センターが配布1年目の原苗ほのほとんどは隔離栽培で、寒冷紗ハウスにおいて増殖されている。しかし、2年目以降の農家採苗は一般栽培ほに隣接して設けられている例が多い。
(8)シクラメンホコリダニの伝搬は寄生株から出現するランナー、健全株と寄生株とのランナーの接触、株間の移動、風上の寄生株から風下の健全株への伝搬等が認められ、ほ場内外の雑草および訪花昆虫と推定される伝搬は認められなかった。
(9)以上のような伝搬を防ぐためには、健全な親株を用いることは勿論であるが、隔離栽培ほを設けて採苗するのが必須条件である。なお、一般栽培ほとの隣接採苗ほは、イチゴの親株を寒冷紗で被覆しても伝搬を防ぐことは困難である。
10 主要成果の具体的数字
図1 乾熱処理によるシクラメンホコリダニ防除効果
図2 太陽熱処理による各フィルムのトンネル内温度経過
表1 太陽熱処理による有効温度別防除効果(50℃以上)
30株調査、生育収量は1株当り | |||||
被害株率 | 草丈 | 花房数 | 果実数 | 1果重 | |
0分 | % 93.3 |
cm 21 |
本 8 |
個 36 |
g 4.3 |
30 | 63.3 | 34 | 15 | 86 | 8.5 |
60 | 13.3 | 39 | 11 | 94 | 11.0 |
160 | 0 | 36 | 12 | 102 | 10.6 |
200 | 0 | 34 | 15 | 116 | 12.6 |
210 | 0 | 35 | 13 | 99 | 11.3 |
240 | 0 | 38 | 11 | 97 | 10.7 |
270 | 0 | 34 | 13 | 108 | 10.1 |
300 | 0 | 36 | 12 | 98 | 9.8 |
図3 有効温度保持時間と日照時間の関係(58年)
表2 現地の採苗環境
区別 | 調査 ほ場数 |
寒冷紗ハウス | 露地 | ||
隔離ほ場 | 隣接ほ場 | 隔離ほ場 | 隣接ほ場 | ||
原苗ほ | ほ場 17 |
% 82 |
% 18 |
% 0 |
% 0 |
増殖ほ | 13 | 15 | 8 | 62 | 15 |
採苗ほ | 10 | 0 | 0 | 80 | 20 |
農家採苗ほ | 17 | 0 | 0 | 17 | 83 |
表3 採苗環境による伝搬状況
寄生株率(%) | |||
調査株 | 放任 | 寒冷紗 | |
隔離ほ | 100 | 0 | 0 |
隣接ほ | 100 | 53 | 11 |
図4 シクラメンホコリダニの発生分布(昭60年)
11 今後の問題点
有効農薬の開発
12 成果の取扱い
(1)イチゴの太陽熱処理は、ポリフィルムを用いてトンネル被覆処理を行う。処理当日晴天で10時ごろの気温が20℃前後に上昇していると、50〜55℃で2時間以上の有効温度が得られる。
(2)処理時期は本ぽでは収穫終了後の7月中〜下旬、苗床では活着後十分生育の進んだ定植直前処理が有効である。
なお、イチゴの茎葉に水滴が付着したり、降雨でほ場がぬれていると茎葉が焼ける障害発生の原因となるので、処理をさける。
(3)イチゴの採苗は健全親株を用い、隔離ほ場で行うことが必須条件である。