1.課題の分類 家 畜 肉 牛 肉 質 |
7.目 的
合理的な牛肉生産を進めるためには肉質の他に可食肉量をも把握し,これを枝肉評価に加えることが重要である。本試験ではこの観点からいくつかの牛肉生産方式を検討した。また,枝肉形状から精肉量(可食肉量)の推定を試みた。
8.試験研究方法
(1)飼養方法の差異が肉量・肉質に及ぼす影響
1)アバディーンアンガス去勢牛における濃厚飼料給与量が肉量・肉質に及ぼす影響
2)乳用雄子牛における早期出荷(14〜15ヵ月齢)が肉量・肉質に及ぼす影響
3)と殺直前の管理方法の差異が肉量・肉質に及ぼす影響
4)とうもろこしサイレージ主体の育成肥育が黒毛和種去勢牛の肉量・肉質に及ぼす影響
(2)ホルスタインとヘレフォードのF1去勢牛の肉量・肉質
(3)精肉量に関する調査
1)精肉小売店の比較例
2)精肉量の推定
9.結果の概要・要約
(1)-1)アバディーンアンガス去勢牛の肥育では,濃厚飼料の採食量が少ない程枝肉歩留りは低かったが,枝肉に対する精肉歩留りは高い傾向を示した。
(1)-2)早期出荷(14.5カ月齢)したホルスタイン去勢牛の枝肉は、慣行区(17.2カ月齢)に比べて、枝肉格付、肉色、ドリップロスにおいて劣る傾向を示したが、官能検査の「総合評価」では慣行区に劣らなかった。
(1)-3)慣れた環境(牛舎内)で24時間絶食,絶水した後,と殺当日搬入したホルスタイン去勢牛は,慣行群(と殺前日搬入し,一昼夜絶食絶水した後と殺)と比較して,輸送および絶食中の体重減少量が少なく,枝肉歩留りは高い傾向を示した。
(1)-4)とうもろこしサイレージ主体で肥育した黒毛和種去勢牛の枝肉は,慣行区(濃厚飼料多給,乾草給与)の枝肉より余剰脂肪が少なく,枝肉に対する精肉歩留りは高い傾向を示した。この結果、精肉量ではとうもろこし区の方が高くなった。また,とうもろこし区は慣行区に比べて,格付等級では若干劣ったものの、官能検査の総合評価では高い値を示した。
(2)F1去勢牛(ヘレフォード×ホルスタイン)は、ホルスタイン去勢牛と比べて,骨割合が低く,正肉割合が高い傾向を示した。しかし、正肉に対する精肉歩留りは低く,この結果,枝肉に対する精肉歩留りにおいては両者の差は認められなかった。
(3)-1)同一枝肉の左右半丸正肉の精肉歩留りを2つの小売店で調査した結果,精肉歩留りの差は約9%にもなった。
(3)-2)ホルスタイン去勢牛の枝肉形状からの精肉量の推定を試みたところ,冷枝肉量の大きさが精肉量の大部分を規定し、皮下脂肪厚は精肉量1こマイナスの影響を及ぼすことが裏付けられた。
10.主要成果の具体的数字
表1.アバディーンアンガス去勢牛の枝・精肉歩留り(試験(1)-1)
濃配無給与区 | 0.4%*区 | 0.8%*区 | |
濃厚飼料採食量(t) | 0 | 0.5 | 1.0 |
出荷月齢(カ月) | 24.7 | 24.7 | 25.1 |
出荷体重(kg) | 577 | 588 | 649 |
枝肉歩留り(%) | 54.1 | 55.8 | 57.3 |
精肉歩留り(精/枝%) | 61.9 | 60.4 | 58.9 |
表2.肉の一般成分と官能検査結果(試験(1)-2)
出荷 月齢 (カ月) |
一般成分 | 格付 等級 |
ドリップ ロス (cc/100g) |
官能検査 | |||||
水分 (%) |
粗脂肪 (%) |
匂い 風味 |
柔らかさ | 多汁性 | 総合 | ||||
早期出荷区 | 14.5 | 73.0 | 4.6 | 並 | 6.1 | 3.1 | 3.8 | 3.3 | 3.6 |
慣行区 | 17.2 | 71.2 | 6.8 | 中〜並 | 5.0 | 3.5 | 3.7 | 3.5 | 3.5 |
表3.体重減少量および枝肉歩留り(試験(1)-3)
前日搬入群 | 当日搬入群 (24時間絶食) |
当日搬入群 (72時間絶食) |
||
供試頭数*1(頭) | 3 | 3 | 3 | |
供試時体重(kg) | 609 | 611 | 610 | |
体重減少量 | 輸送(kg) | 7 | 4 | 3 |
絶食(kg) | 34 | 22 | 28 | |
計(kg) | 41 | 26 | 31 | |
体重減少割合*2(%) | 6.7 | 4.3 | 5.1 | |
と殺時体重(kg) | 575 | 589 | 579 | |
枝肉量(kg) | 338 | 352 | 335 | |
枝肉歩留り(枝/供試体重,%) | 55.5 | 57.6 | 54.9 | |
枝肉歩留り(枝/絶食体重,%) | 58.5 | 59.8 | 57.9 |
表4.精肉歩留り、余剰脂肪量および肉質(試験(1)-4)
肥育期通算飼料 | 出荷時 体重 (kg) |
余剰脂肪量 | 精肉歩留り | 精肉 量 (kg) |
格付 等級 |
官能検査 総合評価 |
||||||
濃厚 飼料 (t) |
乾草 (t) |
サイレ ージ (t) |
枝 → 正 (kg) |
正 → 精 (kg) |
計 (kg) |
精/正 (%) |
精/枝 (%) |
|||||
とうもろこし区 | 1.9 | 0.3 | 6.0 | 579 | 28.6 | 32.6 | 61.2 | 80.5 | 63.5 | 226 | 並 | 3.2 |
慣行区 | 3.6 | 0.9 | 0 | 603 | 31.2 | 53.6 | 84.8 | 73.9 | 58.1 | 208 | 中〜並 | 2.6 |
表5.枝肉・正肉および精肉調査(試験(2))
枝肉量 (kg) |
枝肉歩留り | 正肉量 (kg) |
枝肉構成 | 精肉量 (kg) |
精肉歩留り | |||||
枝/生体重 (%) |
枝/絶食体重 (%) |
正肉 (%) |
脂肪 (%) |
骨 (%) |
精/枝 (%) |
精/正 (%) |
||||
HD区*1 | 347 | 53.9 | 58.5 | 264 | 76.0 | 5.9 | 17.1 | 218 | 62.7 | 82.6 |
D区*2 | 317 | 50.2 | 55.7 | 233 | 73.4 | 5.7 | 19.1 | 197 | 62.0 | 84.5 |
(HD/D,%) | (109) | (107) | (105) | (113) | (104) | (104) | (90) | (111) | (101) | (98) |
表6.精肉小売店におけるカッティング調査(試験(3)-1)
枝肉量 (kg) |
左右 | 正肉量 (kg) |
正肉 歩留り (%) |
精肉量 (kg) |
正肉内訳 | 精肉歩留り (精/枝,%) |
|||
精肉(%) | 脂肪(%) | スジ(%) | |||||||
A店 | 202 | 左 | 153.8 | 76.1 | 123.4 | 80.2 | 12.0 | 6.2 | 61.1 |
B店 | 207 | 右 | 162.9 | 78.7 | 145.5 | 89.3 | 7.6 | 1.9 | 70.3 |
表7.増加法によって得られた精肉量の推定式(試験(3)-2)
重回帰式 | R | R2 |
Y①=0.49(X1)+42.48 | 0.708 | 0.501 |
Y②=0.57(X1)-15.81(X2)+28.30 | 0.791 | 0.635 |
Y③=0.47(X1)-22.01(X2)+9.50(X3)+21.98 | 0.817 | 0.667 |
Y④=0.54(X1)-24.10(X2)+7.87(X3)-0.87(X4)+74.54 | 0.829 | 0.686 |
Y⑤=0.64(X1)-16.62(X2)+8.42(X3)-1.32(X4) -16.11(X5)+88.37 |
0.850 | 0.722 |
11.今後の問題点
1)精肉量に関するデータの集積
2)生体からの肉量・肉質の推定
3)と殺直前の管理方法およびと殺直後の枝肉処理が肉質に及ぼす影響の検討
12.普及指導上の注意事項
1)現行の一般的な枝肉販売においては、精肉歩留りの高い枝肉の格付評価が必ずし高くならない。
2)肥育牛の出荷にあたっては、慣れた環境で一昼夜絶食,絶水した後出荷して,当日と殺する方法が好ましいが、現実にはと畜場の作業体系も含めた見直しが必要である。
3)精肉量の推定は、粗飼料主体で肥育したホルスタイン去勢牛について,東京のA精肉店(整形の際,余剰脂肪をかなり取り除く)での精肉量調査結果をもとに行った。