【指導参考事項】
1.課題の分類 乳牛 生産物 2.研究課題名 生乳の低温細菌汚染に関する試験 3.期 間 (昭和56〜60) 4.担 当 根釧農試 酪農第二科 5.予算区分 道 単 6.協力分担 な し |
7.目的
低温細菌による生乳の汚染とその乳質に及ぼす影響を明らかにするとともに、生乳における細菌混入源について検討する。
8.試験方法
1)農家バルク乳の細菌学的乳質に関する調査研究
農家バルク乳における総菌数、生菌数および低温細菌数について調査検討した。
2)生乳の低温保存と細菌増殖に関する試験
生乳の保存温度と細菌増殖経過について検討し、また、バルククーラに冷却保存された生乳の細菌増殖経過について検討した。
3)生乳の低温保存が乳質に与える影響に関する試験
生乳の低温保存における細菌の増殖が生乳の種々の物理化学的性状に与える影響について検討した。
4)生乳の細菌混入源に関する調査研究
搾乳における各工程での生乳の細菌数を調査し、生乳の細菌混入源について検討した、また、搾乳器具の表面に付着する汚れと付着細菌数の関係を検討した。
9.主要成果の概要
1)農家バルク乳の細菌学的乳質には季節的傾向はみられなかった、しかし、良質乳出荷農家(A群)がある一方、常に不良乳を出荷する農家(B群)があることが明らかとなった。 農家バルク乳の総菌数、生菌数および低温細菌数の幾何平均は1.3×105、7.6×104および1.1×104であった。生菌数と低温細菌数の間に正の相関がみられたが、低温細菌数における農家間のバラツキは大きく著しい汚染の例もみられた。
2)生乳の保持温度は、細菌増殖における誘導期の長短に大きく影響を与えていた。清潔な搾乳と適切な冷却をされた生乳では、隔日集荷されるバルク内での細菌増殖はみられなかった。
3)生乳を5℃に保持した場合、経時的な低温細菌の増殖とともにその物理化学的性状に変化が認められたが48時間以内には顕著な変化は見られなかった。
4)低温細菌は搾乳過程で生乳に混入していた。生乳がティートカップユニット及びパイプラインを通過することにより生菌数及ぴ低温細菌数は段階的に増加した。 また、搾乳器具表面の蛋白質の量と付着細菌数の間には高い正の相関が認められた。
以上の結果より、低温細菌は搾乳過程で生乳に混入し冷蔵貯乳においても増殖可能なため、乳質の保持には細菌混入源の除去による清潔な搾乳により、初期の菌数の低減をはからなければならないこと、また、細菌汚染源の一つは搾乳器具に残った汚れであり、搾乳器具は適切な洗浄管理をしなければならないことが明らかとなった。
10.成果の具体的数字
図 農家郡別バルク乳細菌数の出現数
表1 生乳の低温保存と微生物及び物理化学性の関係
単位 | 保存日数(5℃) | 10 | ||||
0 | 2 | 4 | 6 | 8 | ||
生菌数(kg/mL) | 3.72 | 4.56 | 7.30*** | 7.95*** | 8.15*** | 8.34*** |
低温細菌数( 〃 ) | 2.93 | 4.57* | 7.28*** | 7.96*** | 8.15*** | 8.35*** |
耐熱細菌数( 〃 ) | 1.27 | 1.47 | 1.49 | 1.57 | 1.56* | 1.54* |
カビ・酵母数( 〃 ) | 0.60 | 0.78 | 1.70* | 2.67* | 3.09*** | - |
滴定酸度(%) | 0.133 | 0.132 | 0.146* | 0.158* | 0.173* | 0.202** |
比重 | 1.0317 | 1.0328** | 1.0323* | 1.0317 | 1.0313 | - |
氷点(℃) | -0.554 | -0.555 | -0.558 | -0.553 | -0.557 | - |
水素イオン濃度(pH) | 6.71 | 6.72 | 6.69 | 6.66 | 6.62* | 6.53** |
乳脂率(%) | 3.00 | 2.99 | 3.01 | 3.02 | 3.01 | - |
遊離脂肪酸(mLアルカリ/100gFAT) | 2.60 | 2.49 | 2.89 | 3.09 | 3.23 | 3.81* |
蛋白質率(%) | 2.85 | 2.88 | 2.82 | 2.86 | 2.83 | 2.91 |
アンモニア態窒素(mg) | 0.62 | 0.63 | 0.84 | 1.06** | 2.78** | 3.92*** |
遊離アミノ酸(μモル/mL) | 1.04 | 1.05 | 1.13* | 1.59*** | 2.95*** | - |
カゼイン態窒素(mgN/100mL) | 360.9 | 370.3 | 353.3 | 348.2** | 320.1** | 304.4*** |
非カゼイン態窒素( 〃 ) | 85.9 | 80.8 | 88.9 | 99.8** | 124.3** | 153.1*** |
非蛋白態窒素( 〃 ) | 19.7 | 20.1 | 21.0 | 25.1* | 33.7* | 44.7** |
全固形分率(%) | 11.34 | 11.38 | 11.31 | 11.32 | 11.32 | - |
アルコールテスト | - | - | - | ± | ± | + |
レサズリンテスト | - | - | ± | + | + | + |
煮沸テスト | - | - | - | - | ± | + |
図2 搾乳器具の洗浄不足と細菌数との関係
表 各搾乳工程から得られた生乳中の細菌数
乳房 n*=589 |
ティートカップ ユニット n=20 |
パイプライン n=20 |
||
生菌数 (/mL) |
幾何平均 | 620 | 5400 | 12000 |
対数 | 2.794 | 3.731 | 4.067 | |
標準偏差 | 1.148 | 0.385 | 0.206 | |
低温細菌数 (/mL) |
幾何平均 | -** | 160 | 510 |
対数 | - | 2.216 | 2.706 | |
標準偏差 | - | 0.979 | 0.291 |
11.今後の問題点
1)各種の洗浄条件が洗浄効果に与える影響の検討
2)耐熱性酩酸菌による生乳汚染の原因解明とその対策の検討
12.普及指導上の注意事項
1)細菌の増殖における誘導期は温度のほか初期細菌数が多いほど短くなるので、細菌にひどく汚染された生乳の保存性は著しく損なわれる。
2)乳願表面に付着した汚れも搾乳器具と同様に大きな細菌汚染源と考えられるので、牛体汚染防止と適切な抑乳管理が必要である。