【指導参考事項】
1.課題の分類 乳 牛 飼 養 2.研究課題名 乾乳牛の放牧期飼養法改善による分娩性低カルシウム血症の予防 3.期 間 (昭和56〜60年) 4.担 当 根釧農試 酪農第二科 5.予算区分 道費 6.協力分担 |
7.目 的
これまで、放牧期に多発する起立不能症候群の実態が検討され、多くは低カルシウム血症を示し、また妊娠末期の粗蛋白質とカルシウムの多給が要因として挙げられた。そこで放牧期の乾乳牛について分娩前後の起立不能症(低カルシウム血症)を低減させる飼養法を明らかにする。
8.試験研究方法
1)妊娠末期の制限放牧が分娩後の血液成分に及ぼす影響
2)妊娠末期の生草の2時間給与と乾草の併給が分娩後の血液成分に及ぼす影響
3)妊娠末期生草の2時間給与と乾草の併給におけるカルシウムの給与量が分娩後の血液成分に及ぼす影響
4)妊娠末期の高蛋白給与において、生草の2時間給与と乾草あるいは牧草サイレージの併給が分娩後の血液成分に及ぼす影響
5)乳牛の産次と分娩後の血液成分の関係
9.結果の概要・要約
1)分娩直前まで全日放牧した牛群で、7頭中3頭が分娩後低カルシウム血症(Ca<7.0mg/dL)を示し、うち2頭が起立不能となったが、分娩2週前から放牧を制限し乾草を併給した牛群はいずれも正常であった。
2)分娩直前まで生草を青刈り給与しても、生草を2時間給与後乾草を併給しても起立不能の発生はなかったが、分娩後の血中カルシウム濃度が乾草併給群では平均8.43mg/dLであったのに対し、生草単用群では7.55mg/dLと低下し7頭中1頭が低カルシウム血症を示した。
3)妊娠末期の乳牛に対し、生草を2時間給与し乾草を併給することにより分娩前にカルシウムを給与しても起立不能の発生はなかったが、1日あたり150g以上給与すると6頭中2頭が低カルシウム血症を示した。
4)分娩前、生草給与に大豆粕を添加し高蛋白とした栄養条件では生草単用群で6頭中1頭が起立不能となったが、乾草あるいは牧草サイレージを併給した牛群では起立不能の発生はなかった。しかし、牧草サイレージ併給群で高産次(5産、6産)の2頭が分娩後低カルシウム血症を示した。
5)乳牛の産衣が高くなると、生理的にも分娩後血液中のカルシウムや無機リンが低下する傾向に有るが、妊娠末期に放牧や生草の給与を制限し乾草を併給することにより低カルシウム血症の発生を低減できた。
10.主要成果の具体的数字
表 妊娠末期の飼養法改善と低カルシウム血症
処理 | 頭数 | 起立 不能 |
分娩前摂取 | 分娩後血液成分 | |||
DCP | Ca | Ca(低Ca血) | Pi(低Pi血) | Mg(低Mg血) | |||
全日放牧 | 頭 7 |
頭 2 |
kg - |
g - |
mg/dL (頭) 7.29(3) |
mg/dL (頭) 2.59(3) |
mg/dL (頭) 2.33(0) |
放牧+乾草 | 6 | 0 | - | - | 8.92(0) | 4.55(0) | 2.27(0) |
生草給与 | 7 | 0 | 1.18 | 78 | 7.55(1) | 2.11(1) | 2.37(0) |
生草+乾草 | 6 | 0 | 0.91 | 61 | 8.43(0) | 3.01(0) | 2.14(1) |
生草+乾草(ミネラル給与) | |||||||
Ca150g | 6 | 0 | 0.92 | 155 | 8.16(2) | 2.98(1) | 2.08(0) |
100g | 6 | 0 | 1.13 | 113 | 8.25(0) | 3.47(1) | 1.64(0) |
50g | 6 | 0 | 1.04 | 58 | 8.39(0) | 3.16(2) | 1.66(1) |
高蛋白給与(大豆粕添加) | |||||||
生草給与 | 6 | 1 | 1.93 | 75 | 8.04(0) | 3.17(0) | 2.52(0) |
生草+乾草 | 6 | 0 | 1.64 | 71 | 8.76(0) | 3.36(0) | 2.16(0) |
生草+サイレージ | 6 | 0 | 1.57 | 77 | 8.33(2) | 3.05(0) | 2.59(0) |
表 妊娠末期の栄養水準と分娩後血液成分
Ca充足率 | |||
-150% | 150-250% | 250%- | |
Ca(mg/dL) | 8.82±0.52 | 8.39±0.95 | 8.01±0.93 |
Pi(mg/dL) | 3.60±1.04 | 2.93±0.88 | 3.54±1.33 |
Mg(mg/dL) | 2.49±0.28 | 2.33±0.42 | 2.01±0.45 |
血糖(mg/dL) | 76.9±12.7 | 89.1±20.0 | 77.8±10.4 |
BUN(mg/dL) | 16.1±5.78 | 19.4±8.4 | 16.8±6.9 |
HYP(μg/dL) | 2.67±0.36 | 1.81±0.30 | 1.88±0.39 |
DCP充足率 | |||
-200% | 200-250% | 250%- | |
Ca(mg/dL) | 9.01±0.58 | 8.16±0.92 | 7.69±0.64 |
Pi(mg/dL) | 3.59±0.72 | 2.98±0.88 | 2.80±0.86 |
Mg(mg/dL) | 2.32±0.34 | 2.98±0.88 | 2.56±0.43 |
血糖(mg/dL) | 75.6±10.9 | 2.42±0.12 | 101.8±18.1 |
BUN(mg/dL) | 16.7±5.0 | 21.1±7.4 | 24.8±8.7 |
HYP(μg/dL) | 2.32±0.84 | 2.32±0.79 | 2.04±0.72 |
11.今後の問題点
放牧期分娩牛に多発する起立不能症(低カルシウム血症)以外の生産病、及び繁殖障害の要因究明と、乳牛の栄養状態を考慮した分娩前後の飼養法改善による予防技術の確立
12.普及上の留意点
放牧あるいは生草給与を制限し、乾草を併給しても分娩前の栄養摂取が高カルシウム(1日当たり150g以上)や高蛋白(DCP充足率が250%以上)となった場合、生理的には分娩後低カルシウム血症となる可能性があるので、産次の高い牛、特に起立不能症の前歴牛は注意する。