【指導参考事項】
1.課題の分類  D−16
2.研究課題名  粗飼料のくん炭化防止に関する試験
           (くん炭化粗飼料の飼料価値査定)
3.期  間  (昭58年〜60年).
4.予算区分  総合助成
5.担  当  道立根釧農試 酪農第一科
6.協力・分担関係  なし

7.目  的
  低水分サイレージおよび調製・貯蔵条件の異なるビッグペール乾草において発生したくん炭化に伴う飼料価値の変化を明らかにする。

8.試験研究方法
   供試サンプル:新酪農家 低水分くん炭化サイレージ
            くん炭化発生要因解析供試 ビッグペール乾草および原料草
   調査項目:一般成分分析,消化率(去勢めん羊4頭)
         採食性判定(若雌牛4頭,1週間インターバル単一飼料自由採食法〉
         ADF・AD可溶性窒素(ADSN)定量による消化性判定

9.結果の概要・要約
 1)一般成分値については,くん炭化の著しいもので粗脂肪の若干の増加が見られた以外,くん炭化に伴う変動は特に認められなかった。
 2)各成分消化率については,粗脂肪で増加,粗繊維で横ばい傾向を示した以外は,いずれもくん炭化に伴い減少した(表1).
 3)栄養価についても,くん炭化に伴う減少傾向が示され,この傾向はTDNでよりも、DCPで,より顕著であった(表1) 
 4)くん炭化に伴い,ADFは増加,ADSNは減少の傾向を示し、ADFは乾物消化率,ADSNはCP消化率との間に,それぞれ高い1次の相関関係が認められた(図1,2)。また,2番乾草のADFとADSNとの間には2次の相関関係が認められ`(図3),原料草を含む良質乾草の判定にはADFを,くん炭化傾向が認められる乾草の場合にはADSNを指標とするのが適当と判断された。
 5)若雌牛による採食性試験により、くん炭化乾草でも軽度のものであれば、良質乾草に近い原物摂取量を期待できることを確認できたが,くん炭化に伴う栄養価の低下に従い、乾物,TDN,DCPの摂取量では徐々に良質乾草との差が開く傾向にあった。重度のくん炭化乾草では,良質乾草の90%の原物摂取量しかなく,DCP摂取量ではほぼ0になるという結果が示された(図4)。
 6)くん炭化の著しいサイレージを摂取しためん羊は、体重が2週間で平均15%減少し,血清尿素窒素が正常値を下まわるのが観察され、良質サイレージに切り替え後2週間たっても、体重回復は不十分であった(表2)。

10.主要成果の具体的数字
表1 くん炭化による各成分消化率・栄養価の低下*
くん炭化
ランク
におい 色調 貯蔵中の品温 消化率 栄養価
DM OM CP FAT NFE FIB DCP TDN
良質 乾草臭 淡緑色
〜淡黄色
外気温
〜40℃程度まで
100 100 100 100 100 100 100 100
甘酸臭 褐色 50〜60℃程度 91 92 73 101 90 103 79 91
** 甘酸臭とカビ臭 白,褐色 50〜60℃程度 89 90 69 87 88 99 69 90
強い酸臭 濃褐色 65〜75℃程度 85 86 51 115 89 95 55 89
強い酸臭と焦げ臭 黒褐色 80℃以上 78 80 1 121 84 99 1 82
(注)*良質乾草を100とした時の割合
  **白カビ(放線菌)汚染乾草


図1 くん炭化乾草のADF値による乾物消化率の推定


図2 くん炭化乾草のADSN値によるCP消化率の推定


図3 2番くん炭化乾草におけるADFとADSNの関係


図4 くん炭化に伴う養分摂取量の減少

表2 くん炭化サイレージ給与による去勢めん羊の
    体重・血清尿素の変化*
  3/15 3/24 3/31 4/7 4/16
←  農家B  →
くん炭化サイレージ
←  適期刈  →
中水分サイレージ
体重(KG) 55.9 48.1 49.4 51.7
血清尿素窒素**
(MG/DL)
23.9 7.7 0.3 16.7 15.7
(注)*去勢めん羊4頭の平均値
  **正常値 8.0〜20.0 MG/DL

11.今後の問題点
 1)くん炭化に伴う,ビタミン類などの微量成分の動向と,生成される不消化性物質の解明。
 2)くん炭化粗飼料の給与が家畜の生産性、健康に及ぼす影響と、その改善対策の究明。

12.普及指導上の注意事項
 1)くん炭化は粗飼料中のDCPが大幅に減少し、貯蔵中の自然発火の危険も伴うので,発生そのものを回避すべきである。
 2)くん炭化粗飼料をやむを得ず給与する場合には,DCPの補給が前提となる。
 3)乾草の試験はすべて2番草を用いて行ったので,回帰式の適用はこの範囲に限定される。