【指導参考事項】
単年度試験成績(作成 63年 1月)
1.課題の分類  総合農業 作物生産 夏作物 稲(栽培)−V−
          北海道 稲作 栽培 災害
2.研究課題名  昭和62年潮風害に伴う水稲の登熟障害と種子籾の発芽力
          (道南における水稲の生育診断技術の確立)
3.予算区分  道 費
4.研究期間  (昭和62年)
5.担当  道南農試 作物科、専技室
      桧山南部地区農業改良普及所
6.協力分担

7.目的
 昭和62年8月31日から9月1日にかけての台風第12号から変わった低気圧による潮風が水稲の登熟と収量、品質並びに種子籾の発芽力に及ぽす影響を調査し、その披害程度と海岸からの距離、塩分濃度などとの関係を検討し、廃耕などを含めた収穫、並ぴに粒厚選別による調整および次年度種子籾準備などの対策を知ろうとした。

8.試験研究方法
1)調査地点  桧山支庁管内 江差町、上ノ国町、厚沢部町、乙部町
         計 50ケ所 (内 塩分調査30ケ所 収量調査9ケ所)
2)品種    「ゆきひかり」、「マツマエ」、「巴まさり」
3)調査日   9月5日、9月15日、9月25日、10月5日(の前後)
4)調査項目  穂枝梗枯死率(9月5日)、登熟調査、玄米品質調査、収量調査
         塩分調査 :SALT-METER(イイオ)の相対値(9月8日)
         発芽力調査:比重1.06、1.10塩水沈下籾の発芽率25℃

9.結果の概要、要約
 1)台風第12号は中心気圧970mbの温帯低気圧に変わり、31日の夜半から南西の強風が吹き始め、江差では1日午前1時10分に最大瞬間風速39.5メートルを観測した。雨量の極めて少ない風台風であり、潮風害をもたらした。
 2)穂の枝梗枯死率と穂に付着した塩分濃度(指数)の間には正の高い相関があり、外見による枝梗の枯死は塩分濃度(指数)からみた潮風害と密接な関係あることが推定された。また、塩分濃度は海岸からの距離と高い負の相関があり、一次回帰式から枝梗の枯死率は海岸から6kmまでは海岸に近いほど、(塩分濃度が高いほど)高率であった。(表1、図1)
 3)潮風害を受けた時の稲の生育時期は出穂後15日〜25日の登熟中期(乳熟期〜糊熟期で登熟歩合が10〜50%)であったが、その後の登熟は進行した。「マツマエ」、「巴まさり」の登熟歩合は、枝梗枯死率の高い程低かったが、「ゆきひかり」は枝梗枯死率の高い場合でも登熟歩合は高かった。(図2、図3)
 4)「マツマエ」、「巴まさり」については、穂の上部枝梗着生籾に未熟粒、死米が多く、この点は潮風害の特徴と思われる。(表2)
 5)収量、品質は海岸に近いほど劣り、特に枝梗枯死率が50%以上になると粒厚のうすい米粒が増え、死米、半死米などの屑米が著しく増加した。(図4、5、6)
 6)籾の発芽力は比重1.10以上であれぱ被害程度にかかわらず正常であるが、比重1.06では劣った。(表略)

10.成果の具体的数字
表1 塩分、枝梗枯死率、海岸距離の関係
項目 塩分指数 枝梗枯死率
海岸距離 -0.567** -0.848**
枝梗枯死率 0.706**  
死米率   0.809**
n=30
枝梗枯死率=-12.8×(海岸距離)+82.6


図1 穂に付着した塩分と穂の枝梗枯死率の分布


図2 品種別登熟経過

表2 籾着生位置と登熟性(巴まさり・甚)
籾着生位置 未熟歩合 死米歩合
大穂 23.9% 24.4%
11.2 7.6
小穂 25.3 25.0
17.8 9.8


図3 枝梗枯死程度と登熟
  甚:80-,多:50-80,中:15-50,少:5-15


図4 枝梗枯死程度と玄米粒厚分布


図5 枝梗枯死値度と収量


図6 枝梗枯死程度と品質

11.成果の活用面と留意点
 1)登熟中期の潮風害の場合、地形により海岸1km以内では80%近くの減収もありうるが、1km以上では登熟は進行し、調整によっては1等米の可能性もある。したがって、枝梗枯死の著しい場合を除いて、登熟の進行を助け、成熟期を持って収穫し粒厚選別を厳しく行うこと。
 2)種子籾としては、比重1.10以下の籾が混入すると、発芽力は著しく低下するので、塩水選(比重1.10)を必ず行うこと。
 3)潮風害は生育時期のちがいによってその程度が異なるので考慮すること。

12.残された問題点とその対応
 1)枝梗枯死の判定を含む登熟阻害の生理作用の解明。