【指導参考事項】
完了試験研究成績
1.課題の分類  総合農業 作物生産 夏作物
          北海道 畑 作
2.研究課題名  十勝地方における小豆の気象災害の解析とその対応
          (異常気象対応技術確立推進事業−豆類の生育と微気象−)
3.予算区分  道単
4.研究期間  (昭和57年〜61年)
5.担  当  十勝農試・豆類第2科
         専門技術員室
6.協力・分担関係  な し

7.目 的
 十勝地方における小豆の冷害年の気象経過と気象災害,小豆の生育と気象反応および異常気象下の生育を調査し,対応技術を検討した。

8.試験研究方法
(1)十勝地方の気象変動と小豆の気象災害
  帯広市の1945〜1986年の5月〜10月の日毎の日最高気温,日最低気温,日照時間,および降水量の変動について,40カ年の平均値,最大・最小値,標準偏差を計算するとともに,日最高気温の平均値の平滑データに対する偏差,日照率(日照時間/日長×100)の推移を比較し,小豆の冷害年の気象経過の特徴を検討するとともに,近年,十勝地方で発生した小豆の気象災害の実態について調査した。
(2)小豆の生育と気象反応
  小豆の生育期,出葉日数,主茎長伸長率,子実肥大等と日平均気温の関係式を求めた。
(3)異常気象と小豆の生育
 小豆の気象災害のうち,①干ばつによる出芽不良,低温による出芽遅延,②晩霜・初霜害, ③開花期の高温障害などについて,発生時の微気象を調査し,その対応について検討した。

9.結果の概要・要約
(1)十勝地方における小豆の冷害年の気象経過は,ほとんど,停滞したオホーツク海高気圧による1ヵ月前後の長期にわたる低温・日照不足に起因している。このような状態の発生する時期は大きく次の4時期に分けられた(図1)。
 ①本州の梅雨入り後の6月上・中旬〜6月下旬(1981・1983年)
 ②7月上旬より東北地方北部の梅雨明け(7月下旬) (1945・1956・1964年)
 ③夏型の気圧配置とならず,8月が冷夏となる(1954・1956・1987年)
 ④8月中旬より停滞したオホーツク海高気圧による長期の低温・日照不足(1964・1980年)
(2)近年,十勝地方で発生した小豆の気象災害は次のとおり,それぞれ特微的な気圧配置がみられた。
 ①播種後の干ばつによる出芽不良(1980年)
 ②出芽前後の低温,日照不足による出芽遅延,生育遅延(1981・1983年)
 ③出芽後の風害(1985年)
 ④出芽後の晩霜害(1983年)
 ⑤開花前後の低温,日照不足による生育遅延(1982・1986年),不稔葵の発生(1987年)
 ⑥開花前後の高温障害(1976・1983・1986年)
 ⑦開花後の豪雨による冠水害(1981年)
 ⑧開花後の干ばつによる着莢不良または小粒化(1984・1985年)
 ⑨開花後の低温,日照不足による生育遅延,着英不良(1980年)
 ⑩登熟期の初霜害
  以上の気象災害は,十勝地方では小豆の生育全般にわたって発生するが,十勝全体の作況に大きく影響するのは,冷害と晩霜害である。
(3)
①小豆の出芽まで日数,出葉日数,開花まで日数,一葵当たりの登熟日数と日平均気温の関係は次の式で表された(図2,図3)。
   出芽迄日数=0.1181/(1-exp(-0.001138×(T-5.82)))
   開花迄日数=23.5409/(1-exp(-0.1295×(T-12.17)))
   出葉日数=0.9539/(1-exp(-0.2431×(T-10.0)))
   一莢当たりの登熟日数=17.373/(1-exp(-0.1534×(T-14.5)))
②各葉期の主茎長伸長率と日平均気温の関係は次のとおりである。
   0〜1葉期:伸長率(㎝/日)=0.058×日平均気温−0.646
   2葉期:伸長率(㎝/日)=0.041×日平均気温−0.490
   3〜4葉期:伸長率(㎝/日)=0.045×日平均気温−0.455
   5〜6葉期:伸長率(㎝/日)=0.053×日平均気温−0.390
   7〜8葉期:伸長率(㎝/日)=0.126×日平均気温−1.426
   9〜10葉期:伸長率(㎝/日)=0.254×日平均気温−3.867
③小豆の莢の肥大経過はロジスティクカーブW=146.5/(1+exp(9.676-0.3218×t)で表され,一粒重の大きさは一莢の登熟期間の日平均気温の1次式A=−7.162×日平均気温−225.27で近似された。これと前述の1莢当たりの登熟日数と日平均気温の関係式より登熟期間の日平均気温を17℃〜24℃と仮定した時の莢肥大は下図のようになる。


子実肥大と日平均気温の関係(ハヤテショウズ)

(4)豆類の播種深度について,大豆は昭和58年より4カ年,小豆,菜豆は59年より3カ年間検 討した。その結果,土壌の乾燥が進むと1〜2㎝の浅まきで出芽率の劣ることがある。また,6〜8㎝の深まきで,出芽が遅延したり出芽率が低下するので,土壌の乾燥,湿潤の何れの条件においても出芽の良い播種深度は,3㎝程度と判断された(表1)。
(5)降霜時,小豆の莢,葉の表面温度が-3℃前後になった時,霜害が発生し,表面温は下位莢>上位莢≒初生葉>上位葉の順であった。
 また,島立乾燥より地干乾燥の方が莢の表面温の低下が大きかった(図4)。
(6)小豆の開花前後の高温による落花,着莢不良は,35℃前後の気温が2日以上続いた時に, 高温時より7〜10日後に開花した花に葯の不裂開,花粉の不稔が発生し,未受精となること に起因する。(図5)
 また,気温が35℃となった時の小豆群落内の気温は約40℃であった。
(7)中耕は,晴天日において地表温を著しく高める効果がある。また,高温,乾燥年の場合, 中耕によって土壌の乾燥が助長されるのは,表面の膨軟になった部分であり,その下層まで乾燥が進むことはないものと思われた。(図6,図7)

10.成果の具体的数字


図1.冷害年の帯広市の日最高気温,日照率の推移


図2.小豆の生育期間と日平均気温の関係(ハヤテショウズ)


図3.出葉日数と日平均気温の関係(ハヤテショウズ)

表1.小豆の播種深度と出芽の関係

播種
播種
深度
出芽
出芽
平均
出芽
日数
標準
偏差
出芽
粒数


59
6.12 2 9 - 9.3 0.5 4
4 9 9 9.0 0.0 10
6 9 9 9.3 0.5 10
8 10 10 10.1 0.4 8


61
5.18 2 17 17 16.9 0.6 10
3 18 19 19.2 1.0 9
4 18 19 19.1 0.9 10
6 20 21 21.3 1.2 9
8 22 25 24.6 1.6 9
注) 昭和59年干ばつ、昭和61年播種後約10日間低温、湿潤


図4.降霜時の小豆の莢温変化(1983年)


図5.高温処理の日数を変えた場合の花粉稔性の推移


注)中耕処理 昭和58年5月30日
 土壌水分測定 地中10cm


図7.中耕処理と土壌水分の変化

11.成果の活用面と留意点
(1)本成績は、十勝地方の小豆生育期間の気象特性と気象災害を知るためのガイドである。
(2)十勝地方で近年発生した小豆の気象災害は、結果の概要要約(2)を参考にし、今後、晩霜、初霜害および干害が発生した場合、昭和58年、昭和60年の実態調査(成績書P12-14)を参照し被害程度の高い地帯のほ場を調査することによって、被害の実態を早期に知ることができ、その後の対策を早期に樹てることが可能である。
(3)小豆の生育予測並びに生育解析を行う場合、結果の概要・要約(3)の式を活用する。
(4)豆類の播種深度は、土壌の乾燥、湿潤の各条件で影響を受けることの少ない3cmまきを基準とし、土壌が乾燥している条件では3-4cmとやや深目に、湿潤条件では2-3cmとやや浅目に播種を行う。
(5)冷害年で小豆が未成熟で収穫された時、地干乾燥では降霜時、莢温の低下が大きく、霜害を強く受けるので、島立乾燥とする。
(6)高温、乾燥年で土壌が進んだ場合の中耕は、中耕により処理層の乾燥が進むので、浅目に行う。

12.残された問題点とその対応
(1)耐冷性,耐暑性品種の育成
(2)国土数値情報(メッシュデータ)による十勝管内の詳細な気候区分と小豆の栽培地帯区分の作成
(3)気象災害の物理的軽減方法の確立