【指導参考事項】
完了試験研究成績(昭和62年12月作製)
1.課題の分類  野 菜 野菜花き 栽培 イチゴ・トマト・キュウリ・セルリー 
                          小ネギ・カーネーション 栽培一般
          北海道
2.研究課題名  北海道における水耕栽培(NFT)の実用化に関する研究
           (養液栽培の実用化試験・水耕栽培実用化に関する研究)
3.予算区分  道単
4.研究期間  昭和60〜62年
5.担当  道南農試 園芸科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 道内各地で普及されつつある養液栽培施設のなかで、最も施設経費が低廉と考えられる水耕施設(NFT方式)を選らび、本道に適した作目・作型の設定、それに経済性の検討を行う。

8.試験研究方法
(1)供試施設の構造

(2)供試作目および作型
 ①イチゴ:加温半促成で計2作
 ②トマト:冬どり・促成・抑制・夏秋どり 計4作型
 ③キュウリ:冬春・春夏・秋冬・冬春・春夏・夏秋どり 計6作型
 ④セルリー:11・2・4・6・9・11・1・3・5・7・9月どり 計11作型
 ⑤小ネギ:1〜12月各月1日は種 計24作型
 ⑥カーネーション:秋どり 計1作型

9.結果の概要・要約
 (1)供試した水耕(NFT)施設は、問題なく稼動した。
 (2)トマト:栽培は比較的容易で、草勢はやや強くなるが果実の着果、肥大は良好であった。作型では、促成と抑制が多収で、冬どり・夏秋どりは低収であった。普通トマトでは、促成+抑制作型で年間22t/10a得られ所得62万円で実用可能と考えられたが、夏秋どり作型では低収で所得は欠損となった。ミニトマトでは、各作型とも収量は安定しており、促成+抑制作型で年間20t/10aの収量があり、単価が高いので所得は358万あり実用性はあると考えられた。
 (3)キュウリ:栽培は比較的容易で生育速度も早かったが、生育後期に根が褐変し活性低化が認められるので在圃期間は90日程度が適当と考えられた。作型では、冬作では低収であり、生育期が春〜秋の場合収量は安定しており9〜11t/10aあった。厳冬期を除いた年3回の作付けで、35t/10aの収量があり所得は21万円であった。
 (4)セルリー:栽培は容易であり生育速度も速かったが、株張り小さく石灰欠乏症状も発生した。作型では、夏〜秋どりが比較的多収で土耕栽培程度、冬〜春どりはやや低収であった。年4回の作付により、収量は22t/10aで所得は欠損となり実用性は劣ると考えられた。
 (5)小ネギ:栽培は非常に容易で、病害虫防除もほぼ必要なく、生育速度は速かった。作型では、春〜夏どりは在圃日数短く多収であり、冬どりは在圃日数長く低収であった。作型は夏どりを中心に4〜6作が適当であり、年間13〜17t/10aの収量があり所得は370〜415万あり実用性はある戸考えられた。
 (6)カーネーション:栽培は可能であり、秋どり作型で8万本/10aの収量があり、地場出荷として考えた場合、所得は63万あり実用可能と考えられた。
 以上、水耕栽培(NFT)では、ミニトマト・小ネギが実用性があると考えられたが、この両作物とも現状は高単価で推移しているが、今後の価格変動には留意が必要である。

10.成果の具体的数字


図1 水耕栽培(NFT)トマト・ミニトマトの作型別収量と在圃日数


図2 水耕栽培(NFT)キュウリの作型別収量と在圃日数


図3 水耕栽培(NFT)セルリーの収穫時期別収量・在圃日数


図4 水耕栽培(NFT)小ネギの播種時期別収量・在圃日数

表 水耕栽培(NFT)作物別収益試算表
作物
/項目
普通トマト ミニトマト キュウリ セルリー 小ネギ カーネーション
6作
組合せ
実績
同左単価
500円
の場合
無加温
4作型
作付
対策
作付回数 2 1 2 1 3 4 6 6 4 1
在圃日数 281 156 281 156 269 240 286 286 182 176
期間利用率 77 43 77 43 74 66 78 78 50 48
作型 1作目
(定植、収穫期)
促成
(2中,5上)
夏秋
(4上,6上)
促成
(2中,5上)
夏秋
(4上,6上)
冬春
(2上,3下)
5月どり
(4上,5下)
4月どり
(2中,4上)
6月どり
(4上,6上)
秋どり
(5下,8下)
2   〃 抑制
(8上,9中)
抑制
(8上,9中)
春夏
(5下,6下)
7月どり
(6上,7下)
6月どり
(4上,6上)
7月どり
(6上,7中)
3   〃 夏秋
(8中,9中)
9月どり
(8中,9下)
7月どり
(6上,7中)
8月どり
(7下,8下)
4   〃 11月どり
(9下,11下)
8月どり
(7下,8下)
10月どり
(9上,10中)
5   〃 10月どり
(9上,10中)
6   〃 12月どり
(10下,12下)
収益 生産量(kg/10a) 22,230 11,742 19,758 11,471 32,949 21,600 16,875 16,875 12,828 79,920(本)
単価(円/10a) 295 201 552 358 204 159 791 500 868 67
粗収益(千円/10a) 6,548 2,359 10,912 4,118 6,720 3,426 13,354 8,438 11,135 5,346
生産費
(千円
/10a)
変動費 4,922 1,789 6,326 2,470 5,502 2,342 8,498 7,952 5,834 3,513
固定費
(原価
償却)
水耕施設 311 311 311 311 311 456 456 456 456 500
ハウス施設 700 700 700 700 700 700 700 700 700 700
小計 1,011 1,011 1,011 1,011 1,011 1,156 1,156 1,156 1,156 1,200
合計   5,933 2,800 7,337 3,481 6,513 3,492 9,654 9,108 6,990 4,713
成果 所得(千円/10a) 615 -441 3,575 637 207 -72 3,700 -670 4,145 633
所得率(%) 9.4 - 32.8 15.5 3.1 - 27.7 - 37.2 11.8

11.成果の活用面と留意点
(1)水耕栽培は土耕栽培に比べて、緩衝能力が極めて弱いので、病原菌の培養液への侵入防止、培養液のEC・PH・液温などの急変防止、断水防止などに務める。
(2)基準に合わない原水の地域では、水耕栽培は適さない。
(3)収益試算表の活用にあたっては、導入各地域の諸条件をふまえて経済性の検討と行うこと。

12.残された問題点とその対応