【指導参考事項】
成績概要書(統一様式)  (作成 昭和62年12月)
1.課題の分類  草地 草地 草地管理 C-4
        総合農業 生産環墳 土壌肥料 3-3-1
        北海道 土肥 環 家草合同
2.研究課題名  火山灰草地のリン酸肥沃度に対応した施肥法
         (草地の更新・維持に関する石灰およひりん酸の施用試験)
3.予算区分  道単
4.研究期間  (昭和55〜62年)
5.担  当  根釧農試 土壌肥料科
6.協力・分担  な し

7・目的
 根釧地方の火山性土に立地したチモシーを基幹とするマメ科混播採草地を対象に、土壌の種類に対応したリン酸の土壌診断基準値とそれに基づくリン酸施用量を明らかにする。

8.試験研究方法
 1.ブレイNo.2リン酸含量の実態調査:未熟火山性土,黒色火山性土,厚層黒色火山性土地帯で実施 計84圃場(昭和57,58年)
 2.主要火山性土のブレィNo.2リン酸含量とチモシーの生育(昭和60〜62年)
  1)リン酸の形態とブレイNo.2リン酸の関係:火山灰6種類×P用量7段階
  2)チモシーのリン酸吸収量と土壌中のリン酸減少量(ポット試験):土壌3種類×P用量6段階
  3)ブレイNo.2およひ無機態リン酸量とチモシーの生育(現地試験):土壌2種類×P用量7段階
 3.リン酸診断基準値とそれに基づくリン酸施用量
   リン酸肥沃度の異なる37圃場におけるリン酸用量試験
   P205用量(過石):0〜16kg/10a 4〜5段階
     未熟火山性土:別海町 西春別,標茶町 虹別
     黒色火山性土:根釧農試場内,中標津町,鶴居村 中幌呂
   厚層黒色火山性土:標津町 川北,標津町 茶志骨,浜中町 姉別

9.成果の概要
 1.根釧地方の火山灰草地においてブレイNo.2リン酸含量の実態調査を行なった結果、土壌中のブレイNo.2リン酸含量はリン酸吸収係数(以下、P吸と略記)の小さい未熟火山性土で最も高く、黒色火山性土がこれにつぎ、P吸の大きい厚層黒色火山性土では低い値を示した。
 2.P吸の異なる火山灰に対してリン酸の添加実験を行った結果、ブレイNo.2リン酸含量と無機態リン酸含量の関係は火山灰によって大きく異なり、ブレイNo.2リン酸含量が同じ場合には、P吸の大きな土壌ほど無機態リン酸合量が高かった(図1)。
 3.ポットによるリン酸用量試験の結果、チモシー乾物重の増加が頭打ちとなる土壌中のブレイNo.2リン酸含量は、未熟火山性土の方が厚層黒色火山性土よりも高く、黒色火山性土では両者の中間であった(図2)。また、未熟火山性土では、ポット当たりのブレイNo.2リン酸減少量とチモシーのリン酸吸収量とは比較的等しい関係にあったが、厚層黒色火山性土では、明らかに後者が前者を上回った(図3)。これに対し、無機態リン酸減少量とチモシーのリン酸吸収量との関係は、いずれの土壌においても量的にほぼ等しかった(図4)。このことから、チモシーはブレイNo.2法で抽出されない形態のリン酸をも給源としていることが伺えた。
 4.現地試験の結果、10a当たりのブレイNo.2およひ無機態リン酸量が同じ場合には、厚層黒色火山性土におけるチモシーのリン酸吸収量の方が、未熟火山性土の場合よりも高かった(図5)。このように、リン酸肥沃度に関する土壌の違いは、有効態リン酸の評価法の問題たけでは整理しきれない面も認められた。
 5.以上の結果、チモシーが吸収する土壌中のリン酸とブレイNo.2リン酸との関係は土壌によって異なるため、リン酸の土壌診断基準値は土壌ごとに設定する必要があることが明かとなった。
 6.施肥標準量(P2O5として8〜10㎏/10a)施用条件下で、十分な収量とリン酸含有率を確保し得る土壌中のブレイNo.2リン酸含量を土壌診断基準値と考えた。これにより、リン酸の土壌診断基準値を未熟火山性土で30〜60mg/100g、黒色火山性土で20〜50mg/100g、厚層黒色火山性土で10〜30mg/100gと設定した(図6)。
 7.いずれの火山性土においても、診断値がこれらの値よりも低い場合は12〜16kg/10aの施用量が必要であり、高い場合には減肥が可能であった。減肥の場合、4〜5kg/10aの施用量で少なくとも3年間は、標準施肥と同等の収量、リン酸含有率、マメ科率が確保された(図7)。

10.試験研究成果の具体的数字


図1 無機態リン酸含量とブレイNo.2リン酸含量の関係


図2 土壌中のブレイNo.2リン酸含量とチモシーの生育


図3 ブレイNo.2リン酸減少量とチモシーのリン酸吸収量


図4 無機態リン酸減少量とチモシーのリン酸吸収量


図5 10a当たりの無機態リン酸量とチモシーのリン酸吸収量


図6 主要火山性土におけるブレイNo.2リン酸含量と年間生草収量指数


図7 リン酸肥沃度の高い草地におけるリン酸減肥可能年限

11.成果の活用面と留意点
 1.リン酸の肥効が十分発現されるように、土壌pHを適正に維持すること。
 2.リン酸の土壌診断は定期的に行うことが望ましい。
 3.なお、褐色火山性土については、当面、黒色火山性土の基準値とリン酸施用量を適応する。

12.残された問題点とその対応
  リン酸供給能についての土壌間差の要因解明