【指導参考事項】
成績概要書 作成 (62年12月)
1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 5-2 農業環境 環境管理 計測情報 物理計測 1-2-1 北海道 土壌肥料 2.研究課題名 ランドサット情報による土壌腐植区分図の作製手法と十勝管内区分図 3.予算区分 経常 4.研究期間 (昭58年〜62年) 5.担 当 北海道農試・畑作・土改研 6.協力・分担関係 農業環境研・草地試 |
7.目 的
高品質・低コスト化の厳しい波を乗り越えるために、土壌管理に欠かせない土壌特性、農業政策および営農計画に必要な作付動向や生産力推移などを迅速に、広域的に、かつきめ細かく把握できれば、農政、晋及・営農指導、営農の戦略上に有意義な情報を提供できるものと考えられる。そうした観点から、リモートセンシング技術を利用して畑作物の生育阻害要因の実態調査を行うとともに、各要因別の分布図作製手法を開発すべく検討を進めているところである。本課題では、その中でも土壌の養・水分供給状況の有力な指標となる腐植に着目し、ランドサットデータを用いて腐植含量を推定するための画像解析法を確立するとともに十勝地方の腐植含量区分図を作製する。
8.試験研究方法
1)供試材料: | ランドサットデータ(1984年5月21日と1985年5月24日に観測された7波長 からなる反射量データ、地上の判読精度;30m×30mの平均値) :地力保全基本調査成績書 (十勝管内、道立中央農試発行) |
2)調査項目: | 地力保全基本調査成績書に基づく13の土壌統群に分布する30地点の露植含量および断面調査 |
9.成果の概要
1) ランドサット情報から土壌のデータのみを抽出するために、バンド3(赤色)と4(近赤外)の比演算とバンド5(近赤外)による判別用フィルターを作成した(表1)。
2) サンブル30点の7バンドの数値デー夕を独立変数、腐植含量を従属変数とした回帰
分析の結果、単バンドで高い相関係数が得られた。回帰係数および相関係数は水分状態
で異なり、乾燥状態(85年)の方が推定精度は高まった(表2)。
3) 出力には両年とも相関係数が高く、かつ回帰係数が有意となったバンド3を用いて、Y(腐植含量の対数値)=1.611-0.012X3(バンド3の数値データ)、r=-0.924**の推定式を得た(図1)。
4) 新たに採取した土壌の分析値とバンド3で推定した腐植含量の相関性を検討した結果、相関係数、定数項、回帰係数ともに1%で有意となり、推定式の精度の高いことを確認した(図2)。
5) 85年ではバンド3のデータに判別用フィルターを重ねて土壌データを、84年では85年の植生の部分を補完する土壌データを作成し、土壌水分を補正した両年のデータを重ね合わせて出力した(図3)。
総 括
①出力する属植含量の区分値として地力保全基本調査の基準値をあてはめると5〜10%(富む)の区分域に偏った。そこで土壌調査ハンドブック(ベドロジスト懇談会編)を参照して、区分値を0〜1.9%、2.0〜4.9%、5.0〜7.9%、8.0〜12.0%、12.1%以上の5段階とした、カラー出力が可能な解析手法(ソフトを含めて)を開発した。
②ここで開発した解析手法の原理(ソフトも含む)は、十勝以外の地域での腐植含量区分
図の作製にも応用可能である。
③上記ソフトは、図3のように2万5千分の1の地形図と重ね合わせが可能てあり、農家圃場一筆における腐植含量の不均一性をかなりの精度で推定できた。
④十勝全域について、1984年あるいは1985年の5月に裸地であった畑土壌の腐植含量区分
図を作製し、それをファイル化した。
⑤従って、不均一性を重視した農業基盤の客観的見直し、総合的土壌診断(特に窒素診断が導入された場合)への応用が見込まれ、行政から農家までの幅広い利用が期待される。
10.成果の具体的数字(総括)
表1 土壌データ抽出のための判別用フィルター
バンド | 土 | 麦 | 牧草地 | 水 | アスファルト | 閾値 |
4/3 | 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | - |
3/4 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 116 |
5 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 124 |
表2 腐植含量(対数値)と7バンドの
数値データとの単相関係数
バンド | 1984年 | 1985年 | ||
1 | - | .809** | - | .958** |
2 | - | .859** | - | .934** |
3 | - | .869* | - | .924** |
4 | - | .863** | - | .912** |
5 | .150 | .150 | ||
6 | .073 | .580 | ||
7 | .098 | .673** |
図1 腐植含量(対数値)とバンド3の数値との関係
図2 バンド3による推定腐植含量と分析値との相関
1,2:厚層多腐植質多湿黒ボク土
3 :表層腐植質黒ボク土
4 :中粗粒褐色低地土
5,7:礫質褐色低地土
6,8:礫質褐色森林土
図3.ランドサット情報による畑地表土の腐植含量区分図 (芽室町)
11.成果の活用面と留意点
①十勝以外の地域で本解析手法を適用する場合、土境水分による推定精度(具体的には推
定式)の変動が予想されるので、腐植含量とバンド3の数値データとの相関を確認する。
②本腐植区分図の対象は十勝管内の耕地である。ただし、草地と1984、1985年の小麦連作畑は土壌のデータが得られないので除く。
③本図は土壌表面(作土層25cm)の情報であるので、使用するときは土壌図や地力保全基本調査成績書のような土壌断面が分かるものと併用する。
④本図は2万5千分の1の地図と重ねた状態で出力していないので、事業等で用いる場合、
高能率化のためには地図と重ね合わせて出力することが望ましい。
12.残された問題とその対応
植生のため土壌データが得られなかった部分の図化が残された。また、畑作物の生育阻害要因、例えば礫層の出現位置、作土層の保水性、有効土層の厚さなどの図化が残された。これらの問題点については引続き検討する予定である。