【指導参考事項】
完了試験研究成績(作成 62年12月)
1.課題の分類 総合農業 生産環境 土壌肥料 4-2-2 農業環境 資材動態 肥 料 廃棄物 4-2-2 北海道 土肥・環保 環境保全 廃棄物 2.研究課題名 高分子系消化下水汚泥の畑地施用と簡易モニタリング法 (都市下水の特性と農用地における利用法の検索 畑作物に対する重金属の影響と改良資材の効果試験) 3.予算区分 道単 4.研究期間 (昭和54年〜62年) 5.担 当 北海道立中央農試環境資源部資源利用科 6.協力.分担関係 なし |
7.目 的
下水道の普及整備に伴い日常的に発生する汚泥は年々増加し,かつ広域化している。これを資源として有効利用する角度から,農地施用に期待がかけられている。本試験では重金属等による土壌汚染防止,安全な農産物を背景とした高分子系消化下水汚泥(嫌気消化汚泥に有機高分子凝集剤を加えたもの)の畑作物に対する利用法と,施用後の簡易モニタリング法を確立する。
8.試験研究方法
Ⅰ 農業利用上の特性解明;ポット,枠試験および化学分析等により,汚泥中の重金属組成やその作物吸収特性,汚泥中のN,P205の作物利用率を検討
Ⅱ 施用法と土壌の理化学性に及ぼす影響
1.汚泥連用が作物および土壌に及ぼす影響;供試土壌5種類を用い,汚泥0.5,1,2(乾物,以下同じ)×8年連用が作物,土壌に及ぼす影響を化学肥料と対比
2.施用法試験;現地圃場では汚泥が供給するN,Pに対応した減肥効果を,また枠試験では汚泥の施用法(一括施用,分割施用)について検討
Ⅲ 亜鉛を対象とした簡易モニタリング法の検討:現場で実施可能な簡易モニタリングを開発するため,主にダイズを用いて検討した。
9.結果の概要・要約
(1)重金属含量と吸収性からみた特性
① 石灰系汚泥に比べpH,石灰含量は低いが,他の有機,無機成分は高く,とくに重金属含量は全般に高い。
② 高分子系汚泥の施用によって土壌pHは低下し,重金属の吸収は促進する。
③ 汚泥によって施用された亜鉛,銅の大半は土壌に蓄積し,強酸分解含量は高まった。とくに亜鉛は顕著であった。またこれらの重金属の各抽出液による可溶率は多量施用ほど高まっている。
(2)高分子系消化汚泥中のN,P利用率
①Nの利用率は25〜30%であった。枠,圃場試験の結果から,化学肥料Nの代替率は30%程度と評価され,石灰系汚泥コンポストよりやや高い。またN肥効の持続性,残効性でも同様にやや高い。
②汚泥中のP205を利用率からみたP代替率は,過石P(炭カル併用)の40%程度とみられ,石灰系汚泥コンポストより低く,かつ肥効の持続性でも劣った。
(3)高分子系消化汚泥の施用が士壌の理化学性に及ぽす影響
①汚泥施用により土壌pH(H20)は低下した。とくに1,2t/10aでその影響が大きい。
②汚泥の連用によって置換性石灰は高まったが,同苦土,同カリでは減少して土壌の塩基バランスが乱れた。とくに1,2t/10a連用で顕著であった。
③汚泥の連用によって熱抽−N,トルオーグP205は施用量に比例して高まった。
④汚泥の連用が土壌三相に及ぽす影響は土壌によって判然としない場合もあるが,孔隙率の増加,固相率,容積童が減少する傾向であった。しかし汚泥施用量間の差は明らかでなかった。
(4)作物の生育,収量反応と施用法
①Kのみを施肥した条件で汚泥を連用(0.5,1,2t/10a)した試験では,8年目でも生育異常はなかった。施用効果ではN要求度の高い春コムギ,スィートコーンとダイズの反応は異なった。
②春コムギ,スィートコーンでは,汚泥0.5t/10aの場合,汚泥から供給されるN,P量が不足し,化学肥料区より減収したが,1t/10aでは化学肥料区を上廻り,2t/10aではさらに増収した。
③しかしダイズでは汚泥0.5t/10a区の減収割合は春コムギ等より小さく,また2t/10a区
では1t/10a区ほど増収せず,とくに連用8年目でその傾向は強かった。
④現地試験で汚泥から供給されるN,P量を減肥して春コムギ,スィートコーン等を栽培した結果では,0.5t/10aでは化学肥料区に遜色ない結果であったが,1t/10a区ではやや安定性に欠け,収量的にも0.5t/10a区よりやや劣った。
⑤ある量の汚泥(この試験では4t/10a)を一括施用し,あとは無施用とした場合と,少量分割施用(2年毎2tあるいは毎年1t/10a)では,毎年少量施用した場合が効果的であった。
⑥各試験のN,P吸収量をみると,N吸収量比(対化学肥料区)は収量比およびP吸収量比を上廻り,Nの影響が大きいことがみられた。
⑦施用汚泥の残効は多量施用区ほど高いことがみられた(⑤の試験から)。
(5)亜鉛を対象とした簡易モニタリング法の検討
①各種畑作物の亜鉛過剰耐性はマメ類,ダイコン,テン菜はコムギ,スィートコーンに比べて弱く,普遍的に栽培され,かつ耐性の弱いダイズで簡易モニタリングの指標を求めることが好適であると判断された。
②2,3の抽出液による可溶性亜鉛含量とダイズ体内の亜鉛濃度の相関は水およびN−酢安(pH7)液が高い。水可溶量は極少なく分析上困難で,実用的には後者が妥当と考えられた。またダイズの対象とする分析部位は,年次,土壌や環境によるフレが小さい子実を対象とすることにした。
③ダイズの収量に及ぼす許容限界濃度を硫酸亜鉛施用条件下で検討すると、子実中亜鉛濃度が70ppmであることがみられ,その時の土壌中のN−酢安(pH7)可溶亜鉛は3.3ppmであった。
④高分子系汚泥亜鉛を8年間連用した土壌では,この3.3ppmを超える土壌も多いが,ダイス収量は減収せず,硫酸亜鉛と汚泥施用土壌のN−酢安可溶亜鉛の質的差がみられた。
⑤そこで,土壌に施用した硫酸亜鉛と汚泥亜鉛(施用量50ppm)からの亜鉛吸収量をみると汚泥亜鉛は硫酸亜鉛の40%であった。この値を硫酸亜鉛で求めた許容限界値3.3ppmに置換えると8.3ppmと評価された。
⑥しかしながら,土壌管理基準を遵守する立場から、このモニタリング法の適用を2.5ppmまでとし、この段階で強酸分解亜鉛量をチェックする。
10.成果の具体的数字
表1 下水汚泥のpHおよび各成分含量
区分 | n | 項目 | pH (H2O) |
C | N | P2O5 | Ca | Zn | Cd | Hg | As | Cu |
% | ppm | |||||||||||
高分子系 汚泥 |
7 | _ χ |
6.05 | 23.7 | 3.0 | 3.69 | 1.26 | 1139 | 1.6 | 1.49 | 18.8 | 203 |
CV | 7 | 36 | 36 | 48 | 68 | 36 | 50 | 88 | 120 | 34 | ||
石灰系 汚泥 |
14 | _ χ |
9.92 | 19.1 | 2.3 | 2.53 | 14.12 | 777 | 0.8 | 1.27 | 11.1 | 125 |
CV | 15 | 24 | 39 | 30 | 37 | 40 | 88 | 98 | 90 | 34 |
表2 各種野菜可食部重金属含量比
に及ぼす汚泥の影響
(11種の野菜可食部の平均)
無施用 | 石灰系 コンポスト |
高分子系 消化汚泥 |
|
Zu | 1.00 | 0.96 | 1.16 |
Cu | 1.00 | 0.89 | 1.06 |
Cd | 1.00 | 0.58 | 0.82 |
図1 N利用率(コマツナ)
図2 Pの利用率(コマツナ)
表3 高分子系消化汚泥連用による年次別平均収量比
(黒色火山性土、褐色火山性土、灰色台地土、細粒褐低土、中粒褐低土の平均)
連用年次/ 区別 |
55年 (春コムギ) |
56年 (ダイズ) |
57年 (春コムギ) |
58年 (春コムギ) |
59年 (スィート コーン) |
60年 (スィート コーン) |
61年 (ダイズ) |
62年 (ダイズ) |
汚泥0.5t/10a | 94 | 110 | 96 | 75 | 92 | 92 | 148 | 119 |
〃 1t/10a | 106 | 114 | 140 | 113 | 115 | 123 | 161 | 131 |
〃 2t/10a | 128 | 118 | 189 | 139 | 187 | 164 | 168 | 116 |
図3 高分子消化汚泥連用による収量推移(春コムギ、スィートコーン)
図6 ダイズ収量比と強酸分解亜鉛の関係
○黒色火山性土 ●褐色火山性土 ×灰色台地土
△細粒褐色低地土 ▲中粒褐色低地土
表4 ダイズ体内亜鉛濃度と土壌の可溶性
亜鉛の関係(n=106)
部位/ 抽出液 |
子実 | 本葉2葉期の | |
茎 | 葉 | ||
水 | 0.774** | 0.891** | 0.900** |
N-酢安(pH7) | 0.852** | 0.911** | 0.897** |
0.1N-塩酸 | 0.674** | 0.519** | 0.549** |
図7 ダイズ子実亜鉛濃度と可溶性亜鉛の関係
図8 ダイズの収量比と可溶性亜鉛の関係
図9 可溶性亜鉛と強酸分解亜鉛の関係
11.成果の活用面と留意点
(1)高分子系消化汚泥の施用量;10a当0.5t以下とする。
多量条件ではpHの低下,塩基バランスの乱れが多い。また作物収量は高まるが安定性に欠ける。
(2)化学肥料施用量の調整;N,Pの減肥をする。
汚泥中のKは低含量で考慮する要はないが,Nの化学肥料代替率30%,Pでは40%とし,それに見合う化学肥料を減肥する。施用に当って含有率を確認する要がある。N3%,P2053.7%の汚泥の場合,10a当O.5tではN4.5,P2057.4kgの化学肥料に相当する。
(3)土壌pHの管理;施用土壌が酸性の場合pH(H2O)を6〜6.5に中和する。汚泥の施用によってpHは低下し,重金属吸収を促進するので,土壌pHの管理に留意する。
(4)簡易モニタリングの活用;従来の管理基準を基本とし,汚泥施用地で適用従来法(強酸分解法)によるモニクリングの実施状況は必ずしも高い密度でないので,これを補う立場で活用する。なお,この簡易モニタリング法は汚泥施用前歴のない圃場では適用しないこと。
(5)土壌の重金属過剰蓄積防止;既往の指導事項を守る環境庁の指導する土壌管理基準や道が定める下水汚泥の農地施用に係る当面する留意事項を遵守すること。
12.残された問題点とその対応
(1)コンポスト化技術の確立;高分子系消化汚泥は高水分,粘塊で,取扱い性に欠け圃場散布ムラを生じやすい。コンポスト化技術の確立が望ましいが,当面の対応として凍結乾燥等により低水分化したものを用いる。
(2)地帯別,土地利用別土壌の重金属賦存量の把握