試験研究成績

【指導参考事項】

(作成昭和62年12月)

1.課題の分類
総合農業 作業技術 根釧農試
北海道 農業物理

2.研究課題名  搾乳設備の圧力変動防止に関する試験(乳質改善のための搾乳システム改良開発)

3.予算区分 道 単

4.担当 根釧農試酪農施設科、酪農第二科

5.研究実施年度・研究期間 昭59年〜62年

6.協力・分担関係  なし

7.目  的
 パイブライン搾乳設備における搾乳真空度の変動と乳頭へ逆流の関係を究明するとともに搾乳真空度の変動防止対策を検討し、乳質改善に寄与する。

8.試験研究方法
 1)現地実態調査及び整備・更新効果(昭和59年)
 調査数:根室管内14戸、主な調査項目:真空ポンプ排気量、真空漏れ、余裕排気量
搾乳時の牛乳配管内真空度。更新・改善効果 調査数:整備6戸、更新3戸
 2)模擬搾乳実験①(搾乳真空度の急激な低下時における乳頭先端の真空度測定、昭和60年)
   実験装置:模擬乳房からの吸引、パイプライン搾乳機:牛乳配管内径32㎜、長さ4.6m(片引き)、真空ポンプ排気量728リットル/min、ミルククロー容積230ml。搾乳真空度の低下方法:空気流入位置:牛乳配管末端、手段:25A用電磁弁
  模擬搾乳実験②(搾乳真空度の急激な低下時における乳頭先端への逆流による衝撃、昭和61年〉
   実験装置:空気流入位置とライナ部を除き、②)に同じ。空気流入位置:ライナロ部(4本の内1本)。
   ライナ部:脈動の無い連続吸引の改造ライナ、ライナ・チューブ内径:9㎜、14㎜。逆流衝撃感知トランスデューサ(改造ライナ内に装填)
  模擬搾乳実験③(逆流時における、細菌の模擬乳頭への付着、昭和62年)
   実験装置:実験②に同じ。要因:細菌注入位置:ライナ・チューブ下部、ミルククロー内。空気流入位置:ミルククロー出ロ、牛乳配管(ミルクタップ)。注入細菌:大腸菌
 3)搾乳実験 バケットミルカ(バケット入りロニップル高さ:牛床から1.8m)、細菌注入位置:ライナ・チューブ下部。供試2頭。空気流入位置:ミルククロー出口、注入細菌:β溶血型ブドウ球菌、2ml/min

9.詰果の概要・要約
 1)実態調査と整備・更新効果調査結果
 (1)余裕排気量が大きいほど、搾乳中の牛乳配管内の真空度低下(10㎝Hg以上)の頻度が少なくなり、余裕排気量が70Ol/min以上では0.2回/頭以下であった。
 (2〉真空漏れは13戸平均で161l/minであったが、主な漏れ位置はミルクタップ部と受乳装置の配管接合部であり、これを簡易に整備することにより、顕著な場合には余裕排気量を388l/minから5782l/minに増加させた。
 2)模擬搾乳実験結果
 (1)実験①:ショート・ミルク・チューブ内径9㎜の場合、模擬乳頭先端の真空度はミルククロー内よりも一時的に高くなり、その真空度差のピーク値は、吸水流量が3.2l/minの時7㎝Hgにも達した。
 (2)実験②:改造ライナ上端部へ向けて逆流が発生したが、逆流による衝撃はライナ1本当たりの吸水流量が約0.75l/minの時、最大を示し、1.5l/minでは半減した。この逆流による衝撃は改造ライナ内の真空度が空気流入の際、約8㎝Hg以下に低下する場合に見られた。ライナ・チューブ内径が14㎜φの場合には流量が1.52/min/ライナ1本までは衝撃が感知されなかった。
 (3)実験③:吸水流量3.2l/min/4本で、ライナ・チューブ(内径9㎜)の下端から大腸菌を注入しながら、ミルククロー内真空度を約30㎝Hgから21.3㎝Hgに瞬間的に低下させると(低下所要時間約O.018秒)、吸水模擬乳頭先端に細菌が認められ、牛乳配管およびミルククロー出ロのいずれから空気を流入させても、ミルククロー内真空度をO㎝Hg近くまで低下させると、ミルククロー内に注入した大腸菌が模擬乳頭先端に付着した。ライナからミルククローへ至る内径が14㎜の場合には付着数、頻度共に少なかった。
 3)搾乳実験結果
 搾乳流量4.1l/minで、ミルククロー内真空度を28.5㎝Hgから19.5㎝Hgに低下させると、ライナ・チューブ下部から注入した細菌が乳頭先端部に付着し、他の乳頭1本にも付着した。

 以上のことから、搾乳機の精造上から見た、乳頭への細菌の付着・侵入の対策としては次のような対策が有効と判断される。
(1)真空漏れを防ぐと共に、真空ポンプ俳気量を増加させることによって余裕排気量を増すこと。
(2)ライナからミルククローへ至る内径とミルククロー容積を大きくすること。

10.主要成果の具体的数字


図1 余裕排気量と真空度10cmHg以上低下頻度


図2 模擬乳頭先端とミルククロー内真空度差ピーク値


図3 吸水流量と逆流衝撃

表1 供試ミルカ仕様
真空ポンプ 排気量 728 l/min
牛乳配管 内 径 32㎜φ
全 長 4.6m
(タップまでの長さ) 2.8m
ミルククロー 容 積 230ml
呼気量 9 l/min
牛乳配管との落差 1.6m
調圧器 形 式 スプリング式
乳頭部とライナ内の空間容積 200ml(4組合計)

表2 模擬搾乳による逆流実験4
(ライナ・ミルククローの種類と逆流の発生の差)
ライナ
セット
細菌
注入
位置
ミルククロー内真空度 模擬乳頭付着細菌数
低下前
㎝Hg
低下後
㎝Hg
差平均
㎝Hg
低下有/低下無
№1 №2 №3 №4 №5
A クロー
ライナ
29.1〜31.0 −3.0〜4.3 30.7 104</0 104</0 860/0 14/0 102</0
-2.5〜0.5 31.1 103</0 104</0 104</17 104</1 104</0
C クロー
ライナ
30.5〜31.2 1.0〜1.5 29.6 0/0 0/0 2/0 0/0 14/0
0.8〜1.1 29.9 0/0 0/0 0/1 0/0 102</0

表3 搾乳時における逆流実験
牛№ 採材時期 乳頭 搾乳真空度
(低下値)
搾乳流量
l/min
左前 左後 右前 右後
49 搾乳開始時 -/-(-) -/-(-) -/-(-) -/-(-) 33.0cmHg
(24.0cmHg)
1.3
(開始約2分後)
低下 直後 -/-(-) -/-(-) -/-(-) -/-(-)
搾乳終了後 -/-(-) -/-(-) -/-(-) -/-(-)
22 搾乳開始時 -/-(-) -/-(-) -/-(-) -/-(-) 28.5cmHg
(19.5cmHg)
4.1
(開始約2分後)
低下 直後 -/-(-) 103</3(+) -/-(-) 19/-(-)
搾乳終了後 -/-(-) -/-(-) -/-(-) -/-(-)
注1)β溶血型黄色ブドウ球菌を用い、左後乳区ライナのショートミルクチューブ(ミルククロー・ニップル先端部)から注入した。
 2)表中の±/±は(拭き取り試料の培養結果)/(乳汁試料の培養結果)で、数字はβ溶血型黄色ブドウ球菌の数を示す。
( )内は乳汁の保温培養結果である。

11.普及上の留意点