完了試験研究成績

【指導参考事項】

1.課題の分類
総合農業 作業技術 調製・牧草5-(5)
草 地 飼料生産 作業技術 B-10
北海道 物 理

2.研究課題名 牧草の収穫調製作業法に関する研究
        -プロピオン酸系薬液添加による半乾草の調製・貯蔵試験-

3.予算区分 経常

4.研究実施年度・研究期間  昭62年(昭56〜62年)

5.担当 北農試機械化第1研究室

6.協力・分担関係  北農試畑作部家畜導入研究室

7.目的
 圃場乾草生産時の天候条件に対応し、含水率20〜30%前後の半乾牧草に化学薬液を添加し、長期間安全に貯蔵できる技術を開発する。

8.試験研究方法
 1)使用薬液:プロピオン酸の濃度10%(乳酸等各種有機酸混合)、70%(プロピオン酸アンモニウム)と50%(10%と70%とを用い調合)の3水準。
 2)添加及びペール貯蔵方法:オーチャードグラス主体の牧草、含水率30%及び20%を目標に圃場乾燥し、ウインドロー草をトラクタ直装のミニロールペーラ(型式:スターMRB0800)で拾い上げ直前、2本のノズルで所定量添加。トラクタに搭載した添加装置は薬液タンク、ポンプ、フローメータ、散布ノズル等からなり、12Vでポンプを駆動。1試験区のペール個数3〜6個とし、風通しの良好な屋内に試験区毎俵積みし貯蔵。
 3)測定項目:①添加割合、②貯蔵前後のペールの大きさ、含水率、質量、乾物損失、③貯蔵中のペール中央部温度・外気温度、④貯蔵終了時のカビ、臭いの調査、化学分析等。
 4)試験日・貯蔵期問:昭和62年6月10日〜16日、8月27日貯蔵終了。

9.結果の概要・要約
 1)目標の含水率、均一なウインドロー草量に調整し、薬液を設定添加割合で添加することは困難であった。含水率は36.8、32.7、23.3%の3水準、添加割合0〜4%間で数段階とした。ペールは直径50cm、幅70cm、乾物換算質量17.4±1.5kg・DM、見掛け密度129±11kg・DM/m3であった。
 2)各濃度での添加割合をプロピオン酸量添加割合に換算して結果を整理すると、ペール発熱温度等に一定の傾向を認めた。これより、貯蔵期間中のペールの最高発熱温度、平均温度は添加割合が多くなるほど低く、一定以上では発熱を認めなかった。ただし、添加割合が少ないと長期に発熱が続き、無添加より平均温度は高くなる傾向にあった(図1、2)。
 3)貯蔵後のペール含水率は、添加割合が多くなるほど水分蒸発が少なく、低下の程度は小さかった(図3)。又、貯蔵に伴う乾物損失も少なくなる傾向にあったが、最低1〜6%を認めた。この場合には、発熱、カビの発生は認められず、プロピオン酸臭があったが、乾草特有の芳香は少なかった。
4)発熱、カビの発生を認めなかった区ではNDF、ADF含量が低く、又、ADINは発熱温度が高かった区は明らかに高く、発熱温度の程度が低かった区では、ヒートダメージによる蛋白質の熱変性は考えられず、無添加・添加区毎の差は認められなかった(表1)。
 5)以上からプロピオン酸添加で、半乾牧草の発熱やカビの発生が抑圧できれば、飼料価値も高く保持できることが判明した。このことから、発現効果の高かったプロピオン酸アンモニウムの添加による場合について整理すると、安全貯蔵のための添加割合は、含水率が多くなるほど指数曲線的に増加させる必要があった(図4)。

10.成果の具体的数字


図1 プロピオン酸添加割合 (%)


図2 貯蔵経過日数 (日)


図3 プロピオン酸添加割合 (%)


図4

表1 (畑作部家畜導入研分析)
貯蔵開始
時含水率
添加
割合
DM中 %
有機物 NDF ADF ADIN
36.8% 0 % 92.5 70.5 43.8 0.49
36.8 0.19 92.3 72.2 44.1 0.36
36.8 2.19 92.8 67.5 38.7 0.22
32.7 0 92.5 76.3 43.7 0.27
32.7 0.04 92.0 74.2 43.9 0.26
32.7 0.28 91.3 68.1 42.2 0.33
32.7 1.47 92.6 66.3 39.7 0.18
23.3 0 92.1 69.8 41.0 0.22
23.3 0.03 92.6 66.7 39.5 0.25
23.3 0.53 93.6 62.8 38.6 0.22
NDF=総繊維(ヘミセルロース+セルロース+リグニン)
ADF=NDF-ヘミセルロース=セルロース+リグニン
ADIN=AD(酸性洗剤)不溶性窒素
 乾草のヒートダメージが大きいとADINが増加し、これは難消化性なので乾草のN消化率が低下する。
ヒートダメージの指標として用いられる。又、NDF、ADFが高い乾草は、貯蔵中の養分損失量が多く、飼料価値が低下している。

11.成果の活用面と留意点
 1)半乾牧草(含水率20〜30%前後)ベールの、安全貯蔵のためのプロピオン酸アンモニウム薬液の添加は、緊急避難的対応とするのが望ましい。
 2)含水率に応じた添加割合以上とする。少ない場合、返って発熱が長期に続き、品質低下をまねく恐れがあるので注意を要する。

12.残された問題とその対応
 正確な添加のためには、材料草の迅速な含水率測定、ベール質量測定技術等の開発が必要である。