完了試験研究成績

【指導参考事項】

(作成 63年1月)

1.課題の分類
家畜衛生 牛 栄養代謝障害 新得畜試 北海道

2.研究課題名 繁殖経営における肉牛のマグネシウムおよびセレン欠乏症防止に関する試験
          (飼料給与不均衡による無機栄養障害防止に関する試験)

3.予算区分 道   単

4.研究期間 (昭57〜61年)

5.担   当 新得畜試 衛生科

6.協力・分担関係 な し

7. 目 的
 繁殖経営における肉牛のミネラル欠乏症(成雌牛の低Mg血症、子牛のSe、ビタミンE欠乏による白筋症)の発症要因を明らかにし、予防法を策定する。

8.試験研究方法
 Ⅰ 成雌牛における低Mg血症について
  1.給与飼料とMg利用性
  2.血清Mg濃度低下における個体差の発現要因
   1)消化管におけるMg吸収について
   2)腎臓におけるMg排泄能について
  3.個体差を利用した低Mg血症予防法
 Ⅱ 子牛における白筋症について
  1.血清Se測定法の検討
  2.白筋症発生地域における血清Se濃度の実態
  3.子牛白筋症予防法の検討
   1)母牛および子牛に対するSe、ビタミンE合剤注射液投与による予防効果
   2)子牛に対するSe、ビタミンE合剤注射液の1および2回投与による予防効果

9.結果の概要・要約
Ⅰ.1.1)食塩の摂取不足は、みかけのMg吸収率を低下させる傾向にあった。
   2)高蛋白質飼料の給与は、Mgの吸収を低下させる傾向にあったが、蛋白質の第一胃内分解率を低下させると、わずかながら改善される傾向がみられた。
  2.1)血清Mgの低下しやすい牛(低Mg牛)と低下しにくい牛(対照牛)とのMg吸収を比較した結果、低Mg牛は対照牛に比べて消化管におけるみかけのMg吸収率が低く、このことが個体差発現の一要因となっているものと考えられた(表1)。
   2)Mg給与量により、血清Mg濃度(血清Mg)を変化させ、その時の尿中Mg排泄量との関係について検討した結果、低Mg牛は腎臓におけるMg排泄の閥値が低く、これが個体差発現の一要因となっているものと考えられた(図1)。
  3.血清Mgの低下しやすい時期(放牧開始時、放牧末期)に数回血清Mgを測定することにより、低Mg血症になりやすい牛を選び出し、この牛群にのみ酸化マグネシウム(MgO)を1頭当たり30〜40g投与することにより、効率的な低Mg血症の予防ができた(図2)。
Ⅱ.1.水素化物発生を利用した原子吸光法にて、精度、再現性の極めて良い(回収率99.9±2.2%、変動係数1.02%)血清Seの定量が可能となった。
  2.子牛白筋症の発生があった牧場における子牛血清Se濃度(血清Se)は、極端な低値を示した(表2)。
 白筋症発生地域においては、粗飼料のみにて牛を飼養すると血清Seは著しい低値を示し、配合飼料の補給により上昇する傾向があった。
 3.1)Se、ビタミンE合剤注射液(1ml中Se2.5㎎、ビタミンE681U)を生後1日の子牛に体重45㎏当り1ml注射することにより、3週後まで血清Seの低下を抑えた。
 母牛への分娩1か月前1回注射(体重45kg当り1ml)では、予防効果が期待できなかった(図3、表3)。
  2)同注射液の子牛に対する生後2日と3週間の2回注射(各々1ml)は、8週後まで血清Seの低下を抑え、白筋症予防に有効な方法と考えられた(図4、表3)。

10.成果の具体的数字

表1 Mgの出納(g/1日1頭)
Mg摂取量 糞中Mg排泄量 Mg吸収量 尿中Mg排泄量 Mg残留量
低Mg牛 10.47 11.03 -0.57a(-5.4a) 1.01 -1.58a
対照牛 11.34 9.76 1.58b(13.9b) 2.03 -0.45b
( )内は吸収率
a,b:異文字間に有意差あり(P<0.01)


図1 血清Mgと尿中Mg排泄量との関係


図2 血清Mgの推移

表2 子牛白筋症の発生があった牧場における子牛の血清Se
牧 場 品 種 血清Se
平均値
血清Se(ppb)
0〜5.0 5.1〜10.0 10.1〜15.0 15.1〜20.0 20.1〜
十勝S H,A,B 11.1ppb 2 17 12 6 1頭
〃 T H,A,B,R 5.7 4 1 1 0 0
渡島K N 5.0 4 1 0 0 0
〃 Y R,N 9.4 0 3 1 0 0
H:ヘレフォード、A:アバディーンアンガス、B:黒毛和種
N:日本短角、R:褐毛和種


図3.子牛血清Seの推移


図4.子牛血清Seの推移

表3.潜在的な筋肉障害が疑われた子牛
処 理 供試頭数 発生頭数
母牛投与群 16 4(25)
子牛投与群 15 0(0)
対照群 12 3(25)
1回投与群 11 0(0)
2回投与群 11 0(0)
対照群 17 4(24)
( )内に発生率(%)を示す。

11.成果の活用面と留意点
 1.血清Mgの最も低下しやすい時期(春分娩の場合、分娩後〜放牧開始時、放牧末期)に2回以上採血し、血清Mgが一度でも1.5mg/dl以下に低下した牛を低Mg牛と判定する。
 なお、個体差を利用した予防法は、多頭数飼育の場合にメリットがある。
 2.Se、ビタミンE合剤注射液の対象動物は、現在のところ馬のみとなっているため、その使用にあたっては薬事法83条の2の規程に基づくことが必要である。
 なお、白筋症予防法については、現在試験継続中であり、本法は、当面の対応策と考える。

12.残された問題とその対応
 1.血清Mg低下の個体差における遺伝の関与
 2.道内におけるSe欠乏の実態
 3.子牛における血清Se低下の要因
 4.子牛白筋症予防プログラムの策定