【指導参考事項】
作成(63年1月)

1.課題の分類
草地 飼料生産・利用 舎飼飼養 B-9
畜産 乳牛 栄養飼料 北農試
北海道 畜草合同

2.研究課題名 ルーメンバランスと血液代謝像に基づいた高泌乳牛の飼料給与診断法
         (トウモロコシサイレージと牧草類の合理的組合せ利用方式の確立)

3.予算区分 経常

4.研究期間 継(昭和54年−65年)

5.担当 北農試畑作部家畜導入研究室

6.協力・分担関係 十勝農協連酪農経営課

7.目的
 乳牛の生産活動の中心的基盤はルーメン機能である。乳牛の健康は正常なルーメン機能を維持することによって達成される。飼料給与診断事業の普及によって飼養標準に基づいた乳牛飼養が実施されるようになったが、併せてルーメン発酵の情報が得られれば、乳牛の健康保持や乳成分の改善を図る上で極めて有効である。本研究では健康で正常な乳生産が行われている高泌乳牛のルーメンバランスの標準値を作成し、様々な飼料給与がなされている牛群のルーメンバランスを標準値と比較することによって飼料給与上の改善点を見いだす手法を開発し、その有用性を検討する。

8.試験研究方法
 十勝の高泌乳牛飼養農家26戸から健康な高泌乳牛263頭を選定し、乳期6区分のルーメン液性状と血液代謝像の標準値を作成した。さらに平均日乳量40kgの乳牛117頭について検定成績(乳量、乳成分、飼料中養分濃度など)とルーメン液性状および血液代謝像との関連性を検討した。次に、疾病が多発したり、乳成分値に異常を示す牛群に対して実際に本法を適用し、飼料給与上の問題点の把握と改善対策をたてる上で有効であるかどうかを検討した。

9.結果の概要・要約
 1)泌乳サイクルを考慮して、乾乳期、分娩前、分娩後、泌乳前期、中期、後期の6期のルーメン液性状及び血液代謝像の標準値を作成した(表1)。
 2)乳量及び飼料中粗飼料率とルーメンVFA組成との関係では、乳量が高まると酢酸比が低下し、プロピオン酸比が増加し、粗飼科率が高まるとプロピオン酸比が低下する有意の関係を確認した。
 3)非糖原性物質率(NGR)及び発酵効率と乳量、祖飼料率、飼料中養分濃度との関係では、乳量が高まるとNGRが低下し、粗飼料率が高まるとNGRが上昇し、飼料中のTDN濃度及びCP濃度が高まるとNGRが低下する有意の関係を確認した。発酵効率はNGRと逆の関係を示した。
 4)ルーメンアンモニア濃度と血液尿素窒素濃度に密接な関係があり、両濃度は乳量および飼料中CP率が高まると上昇する関係を確認した。以上2-4)の結果は現行の飼科給与診断情報とルーメン液性状及び血液代謝像には有意な関係があることを示しており、本法の有用性の根拠が得られた。
 5)飼料構造の異なる各地域の高泌乳牛群のうち、代謝病や低脂肪乳の発生率の高い牛群について本法で診断した結果、飼養管理上の問題点の発見と、改善対策をたてる上で、本法が有効であることを確認した。

10成果の具体的数字

表1.高泌乳牛の乳期別ルーメン液性状と血液代謝像
乳 期 乾乳期 分娩前 分娩後 前 期 中 期 後 期
分娩後日数 -33±14 -6±4 9±4 50±19 128±45 283±36
ルーメン液性状 pH 6.9±0.2 6.9±0.2 6.8±0.3 6.7±0.3 6.8±0.3 6.8±0.3
Ammonia-N mg/dl 6.0±2.9 6.3±3.6 8.2±3.1 8.9±2.8 7.7±2.4 7.2±3.7
VFA % C2 67.5±2.4 66.1±1.9 63.9±2.4 63.9±3.1 64.8±2.8 66.0±3.4
C3 18.4±1.5 19.6±1.4 19.9±1.3 20.6±2.3 19.6±2.0 19.0±2.6
i-C4 1.0±0.2 0.7±0.2 0.8±0.6 0.8±0.3 0.9±0.3 0.9±0.2
n-C4 10.3±1.5 10.5±1.9 12.4±1.7 11.6±1.7 11.3±1.5 10.7±1.1
i-C5 1.2±0.3 1.3±0.3 1.1±0.3 1.3±0.3 1.4±0.4 1.4±0.3
n-C5 1.1±0.3 1.1±0.2 1.3±0.2 1.2±0.3 1.2±0.3 1.3±0.3
n-C6 0.6±0.2 0.6±0.3 0.7±0.3 0.7±0.5 0.8±0.6 0.6±0.2
Total VFA mM/dl 7.1±1.2 7.8±1.3 8.2±1.2 8.5±1.5 7.8±2.0 7.6±1.3
NGR1 4.50±0.44 4.16±0.41 4.18±0.35 4.01±0.47 4.19±0.51 4.28±0.57
FE2 72.7±0.8 73.4±0.5 73.8±0.7 74.0±1.2 73.6±1.0 73.2±1.4
Protozoa×104/ml 14.6±7.7 19.0±13.4 25.7±15.6 27.2±13.7 31.3±15.6 26.8±11.4
(Index of diversity) 0.15±0.07 0.09±0.06 0.10±0.07 0.11±0.08 0.13±0.08 0.10±0.06
血液代謝像 Glucose mg/dl 57.8±3.2 53.5±6.0 49.9±8.5 54.6±7.0 57.9±9.2 54.8±4.0
NEFA μEq/l 200±115 303±103 369±99 290±106 233±64 168±30
HCT % 33.8±2.5 35.9±3.9 32.9±2.4 32.2±3.0 34.4±3.0 34.2±2.8
Albumin g/dl 3.7±0.2 3.7±0.4 3.6±0.4 3.9±0.4 4.2±0.4 3.7±0.3
Globulin g/dl 3.6±0.4 2.8±0.6 3.3±0.7 3.6±0.8 3.7±0.6 4.1±0.7
BUN mg/dl 13.8±4.7 11.7±2.3 15.4±3.4 16.7±4.2 16.6±4.0 16.6±2.8
Na mEq/l 142±2 145±3 142±3 141±3 141±3 141±3
K mEq/l 4.3±0.3 4.5±0.6 4.4±0.5 4.5±0.5 4.5±0.8 4.3±0.4
Cl mEq/l 101±3 104±3 98±2 98±4 98±4 98±2
Ca mg/dl 10.2±0.5 10.2±0.5 10.1±0.6 9.9±0.5 9.8±0.7 10.3±0.8
i-P mg/dl 5.6±0.9 5.9±0.8 5.7±0.9 5.6±1.0 5.7±0.8 6.3±1.1
Mg mg/dl 2.6±0.4 2.9±0.6 2.6±0.4 2.7±0.5 2.9±0.5 2.9±0.5
Fe μg/dl 122±15 147±39 130±40 124±28 107±18 102±15
Cu μg/dl 55±20 70±29 79±20 74±27 72±15 77±23
GOT K.U. 55±14 57±16 75±18 74±12 74±15 71±16
GPT K.U. 21±4 16±4 18±3 22±6 27±6 25±5
T-cholesterol mg/dl 110±31 82±23 116±34 213±58 216±67 197±40
Ketone bodies mf/dl 7.4±2.2 7.7±2.2 10.1±3.5 8.0±3.1 7.3±2.6 9.0±2.7
Acetoacetate 0.7±0.3 0.6±0.2 0.9±0.4 0.8±0.5 0.7±0.3 0.7±0.3
3-hydroxybutyrate 6.7±2.1 7.1±2.1 9.2±3.1 7.2±2.8 6.6±2.5 8.3±2.6
1 Non glucogenic ratio=(C2+2C4+C5)/(C3+C5)
2 Fermentation efficiency(%)=(0.62C2+1.09C3+0.78C4)/(C2+C3+C4)×100>

11.成果の活用面と留意点
 本法は飼料給与・ルーメン発酵・血液代謝像・乳量・乳成分の一連の関係を把握することを目的としており、現行の飼料給与診断事業を補完するものである。また、本法は先進的な農家が工夫した飼料給与技術を乳牛生理面から科学的に裏づけ、その技術を普遍化する手法としても活用できる。ルーメン液の採取は飼料給与後おおむね3-4時間後とする。唾液が混入するとpH、VFA、プロトゾア数の測定値に影響するので、採取器の選定と採取法に配慮する。

12.残された問題とその対応
 本法は先進的農家におげる高泌乳牛の標準値であって、現時点における十勝の飼養管理技術の到達点を示すものである。今後、飼養管理技術が高度化するにつれて標準値が変化するかどうか、理想的な管理と飼料給与技術のもとに高泌乳牛を用いて実験的に検討する必要がある。