完了試験研究成績
【指導参考事項】
(作成 昭和63年1月)

1.課題の分類  草地 草地 草地管理 新得畜試
           北海道 合 同

2.研究課題 トールフェスクの有効利用法に関する試験
          (肉牛用放牧地におけるトールフェスクの有効利用法)
          (草種の組合せ配置と良質粗飼料の調製)

3.予算区分 道 単

4.研究期間 昭和57〜62年

5.担   当 新得畜試 草地飼料作物科

6.協力分担

7.目   的
 トールフェスク「ホクリョウ」草地について,放牧方法や草地管理の面から家畜生産性を検討し、特性を活かした有効利用法を確立する。

8.試験研究方法
 1)放牧条件下におけるトールフェスク「ホクリョウ」草地の収量,栄養価および採食性。
 (1) トールフェスク「ホクリョウ」の放牧適性の検討
 (2) 施肥法が放牧地の植生、季節生産性および採食性に及ぼす影響
 2)トールフェスク「ホクリョウ」草地の家畜生産性
 (1) 放牧圧の違いが草生および家畜生産性に及ぼす影響
 (2) 肉用牛の品種の違いが放牧地の家畜生産性の評価に及ぼす影響
 3)トールフェスク「ホクリョウ」の採草利用
 (1) ホクリョウとチモシー「センポク」の生産力の比較
 (2) ホクリョウとマメ科との混播草地の生産力と栄養価の検討

9.結果の概要・要約
 (1)ホクリョウはシロクローバとの混播によって,栄養価および採食性が高まった(表1)。
 (2)ホクリョウはケンタッキー31に比べて,明らかに放牧適性が高く,オーチャードグラス「キタミドリ」とほぼ同等の栄養価および採食性を示した(表1)。
 (3)混播の場合,季節生産性,栄養価および採食性は3回施肥と2回施肥で大差なかった(表2)。
 (4)ha当たりのヘレフォード去勢雄育成牛の増体量は2年目までは6頭区が大きかったが,3年目では6頭区が5頭区,4頭区より低くなった。3年間の放牧で,5頭区が最も安定した増体成績を示した(表3)。
 (5)日増体竃はヘレフォードが0.73kg,アバディーンアンガスが0.56kgで0.17kgの差があり,草地の家畜生炭性評価のためには,牛の品種を考虚する必要がある(図1)。
 (6)ホクリョウは出穂期刈りで,10a当たり1番草は乾物400kg以上、年合計で約1tの収量があった。1番草はチモシー「センポク」より少なかったが,年合計ではほぼ同程度であった。乾物消化率,CP含有量およびミネラル含有量はセンポクより高かった(表4,表5)。
 (7)サイレージの採食性はホクリョウとアカクローバ混播草がセンポクとアカクローバ混播草より高かったが,めん羊の増体量に差は認められなかった(図2)。

10.成果の具体的数字

表1.採食利用性と栄養価(利用年次ごとの平均)
  採食利用性(0〜10良) NDF(%) CP(%) DMD(%)
年次 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2
HO 混播 6.2a 8.4a 7.4 39 41 44 26 25 28 80 78
単播 4.8a 7.3a 7.1 53 54 46 20 23 28 77 74
K31 混播 5.3a 7.0b 5.6 42 48 46 25 23 26 79 74
単播 2.7b 5.9b 5.7 55 56 48 20 22 29 74 70
TF 混播 5.6a 7.9 6.3b 42 45 45 25 25 28 79 79
単播 4.2ab 7.1 6.0b 54 56 50 20 22 28 77 75
OG 混播 5.5ab 7.1 8.3a 44 52 47 26 23 31 79 76
単播 4.5b 6.9 8.2a 56 57 48 21 22 31 75 73
a、bは異文字間に5%水準で有意差あり。
HoとK31はそれぞれ「ホクリュウ」と「ケンタッキー31」を示す。
NDF、CP、DMDはそれぞれ、中性デタージェント繊維、粗蛋白質、in vitro乾物消化率を示す。

表2.採食利用性と栄養価(利用年次ごとの平均)
  採食利用性(0〜10良) NDF(%) CP(%) DMD(%)
年次 1 2 3 2 3 2 3 2
TF 混播3回施肥 6.4a 7.7a 7.2ab 40 43 25 20 78
混播2回施肥 6.2a 7.6a 7.3a 40 44 25 20 78
単播3回施肥 4.8b 6.7b 6.9ab 54 48 22 19 74
単播2回施肥 5.0b 6.4b 6.2b 52 49 22 18 74
a、bは異文字間に5%水準で有意差あり。
NDF、CP、DMDはそれぞれ、中性デタージャント繊維、粗蛋白質、inVitro乾物消化率を示す。

表3.延べ放牧頭数および増体量
利用
年次
区分 放牧
日数
延べ放牧
頭  数
体 重 日増体重 増体量
ha当たり
開始 終了
  頭/ha
1年目 4頭区 136 552 284 426 1.01±0.07 558± 6
5頭区 136 700 280 409 0.95±0.13 665±91
6頭区 122 752 290 407 0.95±0.09 714±68
7頭区 122 834 287 403 0.95±0.23 792±191
2年目 4頭区 161 662 280 419 0.86±0.12 569±79
5頭区 161 829 277 393 0.70±0.04 582±30
6頭区 122 938 277 380 0.67±0.21 628±197
3年目 4頭区 161 662 292 426 0.83±0.07 549±46
5頭区 161 829 295 418 0.76±0.07 630±58
6頭区 122 938 295 384 0.59±0.16 542±150


図1.体 重 推 移


図2.めん羊の可消化乾物摂取量と日増体重
(各年の(TY+RC)区を100とした指数)

表4.乾物収量(㎏/10a)と栄養価(乾物%)散播区
  2年次 3年次 2年次1番草
草種 1番草 年合計 1番草 年合計 NDF CP DMD
TF 411 1,193 458 984 61.1 14.0 69.4
TY 627 852 773 1,350 70.0 10.7 64.8

表5.ミネラル含量(乾物%)
  (2年次1番草)散播区
草種 P K Ca Mg
TF 0.47 3.48 0.50 0.17
TY 0.43 2.21 0.34 0.07

11.成果の活用面と留意点
 (1) トールフェスク「ホクリョウ」は放牧利用および採草利用が可能である。
 (2) トールフェスク「ホクリョウ」草地の家畜生産性を維持しつつ高い増体量を得るためには,肉用牛の放牧圧をha当たり3.5頭(成牛500kg換算)とする。
 (3)放牧地では春の余剰草は採草し,草地の効率的利用に努める。

12.残された問題とその対応
 トールフェスク草地におけるマメ科草の維持。