完了試験研究成績

【指導参考事項】

(作成63年1月)

1.課題の分類
総合農業 営農 経営 めん羊 3-7-11
北海道 経営

2.研究課題名 主要稲作地帯におけるめん羊の生産・流通構造に関する研究 〜めん羊飼養経営の成立条件と経営指標の作成〜

3.予算区分 道 費

5.担当 中央農業試験場経営部経営科

4.研究期間 (昭60年〜62年)

6.協力・分担関係 な し

7.日的
 北海道の主要稲作地帯で、転作を契機にめん羊飼養を開始した農家を対象として、第一にめん羊の飼養形懸・経営構造および市場流通の実態を明かにし、第二に収益性を規定する地域的・経営的要因とめん羊・羊肉の価格形成要因を分析し、第三にめん羊飼養経営の成立条件を究明する。

8.試験研究方法
 1)めん羊・羊肉の需要動向の把握。
 2)めん羊・羊肉流通の地域対応と価格形成の関係の解明。
 3)めん羊飼養の経営構造と収益性の検討。
 4)めん羊飼養経営の成立条件の解明と経営指標の作成。

9.結果の概要・要約
 1)道内の主要な肉めん羊生産地域(秩父別町、雨竜町、新篠津村、士別市、羽幌町、計根別農協管内)において実施した道産羊肉の流通と消費に関する調査では、道産羊肉は生体流通が主流であり良家庭先販売価格は生体1㎏当たり550〜650円であること、現在のところ生産される羊肉の量が少ないために、生産地域内における流通・消費が主体であることなどを明らかにした。また、上述の販売価格を前提にすると、輸入が完全に自由化されている現状においても、チルドラムに限っては、輸入ラムに対して道産ラムが価格競争力を有することを明らかにした。
 2)羊肉の消費形態に関して、統計資料による分析と食肉流通業者に対する聞き取り調査を実施した。その結果、日本の羊肉消費量のほぼ100%が輸入によって賄われており、その消費形態はハム・ソーセージなどの食肉加工原料主体から生食主体へと移り変わっていることを明らかにした。また、近年、生食としては最も質の良い輸入チルドラムの消費量が増加傾向にあり、今後とも大幅に増加することが予測されていることを明かにし、このことから輸入チルドラムと消費特性が類似している道産ラムの今後の消費量も増加すると考えられることを示した。
 3)羊肉以外の生産物の価格の調査では、羊毛が1kg当たり350円程度、繁殖素畜としての雌子牛の1頭当たりの価格が7〜8万円であることを明かにした。ただし、素畜については素畜供給量が過剰傾向にあることから、今後は素畜の販売が困難になるとともに価格が一層下がることが予測される。
 4)新篠津村、士別市、恵庭市の3地域において、稲作複合型で肉めん羊飼養を行っている15戸の農家を対象に、経営実態調査を実施した。その結果、肉めん羊飼養の第一の意義は地力維持のための厩肥生産であることを明かにするとともに、肉めん羊飼養においては経営内に存在する圃場副産物、遊休施設、余剰労働力などを有効に活用していることを明らかにした。
 5)実態調査を実施した15戸の肉めん羊飼養における収益性の分析では、全戸において肉めん羊飼養による所得増効果を確認した。同時に、これまでの肉めん羊詞養が素畜販売価格の高値と素畜需要の豊富さとに誘導された素畜生産主体の経営構造であったが、今後、素畜価格が下落するとともに素畜供給も減少することが予測されることから、ラム生産主体の経営構造に転換すべきことを指摘した。
 6)調査農家の繁殖成績を検討した結果、子羊生産率がサフォーク種本来の成績と比較してかなり低いことがわかった。また、飼養体系(通年舎飼い体系と夏期放牧・冬期舎飼い体系)の違いより繁殖成績に差が生じることを明かにした。(交配雌羊当たりの育成子羊頭数が、通年舎飼い体系の場合は1.39、夏期放牧・冬期舎飼い体系の場合は1.30)
 7)以上のことから、飼養体系の違いにより繁殖成績に差があることに着目して、生産物の流通実態調査で得た価格条件と経営実態調査で明らかにした肉めん羊飼養の経営条件を前提にラム生産を主体とした4つの肉めん羊飼養類型を想定したモデルを作成し、収益性の比較検討を行った(表-1)。その結果、素畜生産主体からラム生産主体の経営構造に転換しても、経営条件に応じた3つのモデルについては肉めん羊飼養の所得増大効果があることを確認するとともに、なかでも安い公共草地(モデルでは調査事例から1日1頭当たり30円を前提にしている〉の利用を前提にした場合、収益性が最も高まることを明らかにした。

10.主要成果の具体的数字
表-1 稲作複合型肉めん羊飼養モデルの収益性
飼養類型 通年舎
飼い型
経営外草地
舎飼い型
公共草地
放牧型
経営外草地
放牧型
年間飼料
必要
合計量
大豆がら(㎏) 27,950 27,950 16,916 16,916
乾草(〃) 7,699 7,699 5,289 5,289
配合飼料(子羊以外)(〃) 560 560 560 560
配合飼料(子羊用)(〃) 685 685 77 77
大豆粕(〃) 728 728 439 439
人工乳(〃) 813 813 783 783
ルーサンペレット(〃) 408 408 393 393
自給飼料内訳 自作地大豆がら生産量(〃) 5,868 5,868 5,868 5,863
自作地以外の大豆がら収集量(〃) 22,082 22,082 11,048 11,048
経営外草地必要面積(a) - 91 - 234
生産物の量 ラム生産量(生体重)(㎏) 1,072.6 1,072.6 962.3 962.3
マトン生産量(生体重)(〃) 280 280 280 280
素畜販売頭数(頭) 3 3 3 3
羊毛生産量(㎏) 72 72 72 72
厩肥生産量(〃) 21,720 21,720 13,480 13,480
粗収益(円) 羊肉販売収入(〃) 697,190 697,190 625,495 625,495
素畜販売収入(〃) 180,000 180,000 180,000 180,000
副産物販売収入(〃) 25,200 25,200 25,200 25,200
成羊販売損益(〃) 68,000 68,000 68,000 68,000
合計a(〃) 970,390 970,390 898,695 898,695
経営費の内訳 種付け料(〃) 60,000 60,000 60,000 60,000
血統登録料(〃) 17,500 17,500 17,500 17,500
飼料費(〃) 794,695 798,014 517,776 1,080,242
放牧料(〃) - - 112,260 -
獣医師及び医薬品費(〃) 38,500 38,500 38,500 38,500
建物・農機具費(〃) 39,528 39,528 39,528 39,528
成羊償却費(〃) 168,000 168,000 168,000 168,000
その他費用(〃) 32,000 32,000 32,000 32,000
合計b(〃) 1,150,223 1,153,542 985,564 1,435,770
期内成雌羊繰入れ評価額c(〃) 240,000 240,000 240,000 240,000
所得①a−b+c(〃) 60,167 56,848 153,131 ▲297,075
厩肥評価額d(〃) 76,020 76,020 47,180 47,180
所得②a−b+c+d(〃) 136,187 132,868 200,311 ▲249,895
繁殖雌羊1頭当たりの所得①(〃) 3,008 2,842 7,657 ▲14,854
繁殖雌羊1頭当たりの所得②(〃) 6,809 6,643 10,016 ▲12,495

11.成果の活用面と留意点
 肉めん羊飼養経営の育成に当たっては、生産面と流通面における組織作りを行う必要がある。

12.残された問題とその対応
 飼養農家において、子羊生産率がサフォーク種本来の成績と比較して低くなっている要因を明かにする必要がある。