完了試験研究成績 (昭和64年1月)
1.課題の分類 食品 ハスカップ−流通利用技術 北海道 2.研究課題名 特産果実・野菜の加工用素材開発 (3)ハスカップの利用方法 3.予算区分 道−民間 4.研究期間 (昭和61年〜63年) 5.担当 中央農試園芸部流通加工科 6.協力・分担関係 ホクレン農業総合研究所・北海製缶(株) |
7.目的
ハスカップの利用拡大を図るため、新たな利用法、加工法について検討する。
8.試験研究方法
(1)乾燥粉末化
供試材料 千歳産ハスカップ
乾燥方法 熱風乾燥、真空凍結乾燥
乾燥形態 果実、果汁、破砕果実、果汁搾りかす
乾燥助剤 デキストリン
(2)粉末利用…果汁、ジャム原料としての利用を目的に乾燥助剤を添加した果汁の真空凍結乾燥粉末について加水、加糖時の性質を調査した。(粉末:糖:水=1:1:5)
乾燥助剤 デキストリン、サイクロデキストリン
調査項目 吸湿性、溶解性、食味
(3)ハスカップ酢の製造
《…ハスカップ果汁中での酢酸発酵について検討した。》
果汁希釈倍率 10倍
炭素源、窒素源、等 グルコース1%、ペプトン0.3%、エタノール5%
酢酸菌 Acetobacter aceti
発酵温度 30℃
《…発酵液の通気状態を調節しエタノール、酢酸並行発酵について検討した。》
果汁希釈倍率 10倍
グルコース添加量 12%
種酢添加量 12.5%
酢酸菌 上記と同じ
酵母 Saccharomycodes ludwigii
発酵液量:発酵液表面積 1:0.11,1:0.13,1:0.16,1:0.2
発酵温度 30℃
(4)糖液処理…菓子利用等を目的に果実を数種の方法で糖液処理し、品質を調査した。
糖液処理 果実を糖液中にて加熱放冷し、脱気等の後処理を行い、24時間放置した。
調査項目 みくずれ、色調、酸度、甘味度、総合品質
9.結果の概要・要約
(1)乾燥粉末化
【熱風乾燥】
45℃、48時間で乾燥可能だったのは果汁搾りかすのみだったが、乾燥助剤としてデキストリンを5%以上添加すると果汁、破砕果実とも乾燥粉末化が可能であった(表1、2)。
【真空凍結乾燥】
-40℃凍結、棚温15℃、24時間で乾燥可能だったのは果汁搾りかすのみであったが、デキストリンを10%添加すると果汁、破砕果実とも乾燥可能であった(表3、4)。
(2)粉末利用
乾燥助剤としてデキストリンの比率を高めると粉末の苦味が少なくなり、またサイクロデキストリンの比率を高めると生臭が弱まった。助剤添加量が10%では粉末の溶解性は良いが、吸湿性が強くなった。また、15%では吸湿性は弱いが、溶解性がやや悪化した。果汁の煮沸放置は、酸味および苦味除去に効果があった。
総合的には果汁煮沸放置後、助剤としてデキストリン5〜7.5%、サイクロデキストリン7.5〜10%、合計15%程度添加し、製造した粉末が最も優れていた。
(3)ハスカップ酢の製造
ハスカップ果汁を10倍に希釈し、グルコース1%、ペプトン0.3%、エタノール5%を添加した培地に酢酸菌を接種し、30℃で培養すると酢酸菌の増殖、酢酸発酵が進行し、2週間で約5%の酢酸が生成された。発酵液量に対する発酵液の表面積の比率を0.2にすると嫌気性菌のエタノール発酵酵母と好気性菌の酢酸菌が同時に機能し、同一系内でエタノール発酵と酢酸発酵を並行させることが可能で、2週間でグルコース12%から酢酸濃度3%以上の醸造酢が製造できる。
(4)糖液処理
加熱温度が100℃ではみくずれが著しく、酸味減少、退色が目立った。加熱温度75℃ではみくずれが少なく、酸味、色が比較的良く保持された。また、加熱後の減圧脱気および高濃度糖液への再浸漬はみくずれを促進した。前処理として真空凍結乾燥はみくずれを抑制し、果実中への甘味浸透を促進した。
総合的には真空凍結乾燥後75℃、50%糖液中で2分程度加熱したものが最も優れていた。
10.成果の具体的数字
原料形態 | 乾燥歩留り(%) | 粉末化可否 | 吸湿性・粘性 | 色 |
果 実 | 18.9 | 不可 | 粘性・吸湿性有 | 深紅色 |
果 汁 | 14.7 | 〃 | 粘性強 | 〃 |
破砕果実 | 18.4 | 〃 | 粘性強 | 〃 |
果汁搾りかす | 31.6 | 可 | 粘性・吸湿性無 | 〃 |
原料形態 | 乾燥助剤添加率 | 乾燥歩留り(%) | 粉末化可否 | 吸湿性・粘性 | 色 |
果 汁 | デキストリン5% | 19.4 | 可 | 粘性・吸湿性無 | 深紅色 |
デキストリン10% | 24.6 | 〃 | 〃 | 〃 | |
デキストリン20% | 35.5 | 〃 | 〃 | 〃 | |
デキストリン30% | 47.9 | 〃 | 〃 | 〃 |
原料形態 | 乾燥歩留り(%) | 粉末化可否 | 吸湿性・粘性 | 色 |
果 実 | 19.0 | 不可 | 吸湿性有 | 深紅色 |
果 汁 | 10.8 | 〃 | 粘性強 | 〃 |
破砕果実 | 13.4 | 〃 | 粘性強 | 〃 |
果汁搾りかす | 30.0 | 可 | 粘性・吸湿性無 | 〃 |
原料形態 | 乾燥助剤添加率 | 乾燥歩留り(%) | 粉末化可否 | 吸湿性・粘性 | 色 |
果 汁 | デキストリン0% | 107 | 不可 | 粘性強 | 深紅色 |
デキストリン2% | 13.3 | 〃 | 粘性・吸湿性強 | 鮮紅色 | |
デキストリン5% | 15.9 | 〃 | 〃 | 〃 | |
デキストリン10% | 20.4 | 可 | 吸湿性やや強 | 弱淡紅色 | |
デキストリン20% | 30.4 | 〃 | 吸湿性無 | 淡紅色 | |
デキストリン30% | 40.5 | 〃 | 〃 | 〃 |
![]() |
![]() |
|
図1 発酵経過(種酢) | 図2 発酵経過(並行発酵) |
処理 | 果汁 前処理 |
乾燥助剤(対果汁 %) | 粉末の 吸湿性 |
粉末の 溶解性 |
加水・加糖時食味 | 総合 評価 |
||||
デキストリン | サイクロ デキストリン |
計 | 酸味 | 苦味 | 生臭 | |||||
1 | - | 10 | 0 | 10 | + | + | + | − | + | − |
0 | 10 | 10 | + | + | + | + | − | − | ||
5 | 5 | 10 | + | + | + | +− | +− | − | ||
2 | - | 3 | 7 | 10 | + | + | + | + | +− | − |
2 | 8 | 10 | + | + | + | + | +− | − | ||
3 | - | 5 | 10 | 15 | +− | +− | + | +− | − | +− |
7.5 | 7.5 | 15 | +− | +− | + | +− | +− | +− | ||
4 | 煮沸後 2〜3日 放置、 ろ過 |
5 | 5 | 10 | + | + | +− | +− | +− | − |
3 | 7 | 10 | + | + | +− | +− | +− | − | ||
5 | 10 | 15 | +− | +− | +− | − | − | + | ||
7.5 | 7.5 | 15 | +− | +− | +− | − | − | + |
+ | ←→ | − | + | ←→ | − | |||
・吸湿性 | 強 | ←→ | 弱 | ・食 味 | 強 | ←→ | 弱 | |
・溶解性 | 良 | ←→ | 悪 | ・総合評価 | 良 | ←→ | 悪 |
処理 | 前 処 理 | 加熱溶液 糖濃度(%) |
加温温度 (℃) |
加温時間 (分) |
後 処 理 | 浸漬時間 (時間) |
A | - | 50 | 100 | 1 | - | 24 |
B | - | 50 | 100 | 1 | 減圧下 30分脱気 | 24 |
C | - | 50 | 75 | 2 | - | 24 |
D | - | 50 | 75 | 2 | 減圧下 30分脱気 | 24 |
E | 真空凍結乾燥 | 50 | 75 | 2 | 24 | |
F | - | 10 | 100 | 1 | 50%糖溶液に再浸漬 | 24 |
処理 | みくずれ | 色調 | 酸度 | 甘味度 | 総合品質 | 備考 |
A | + | +− | +− | ++ | +− | |
B | ++ | +− | − | ++ | − | |
C | − | ++ | + | +− | + | グラニュー糖をまぶし、 乾燥したものは良食味 |
D | +− | + | + | + | + | 〃 |
E | −− | ++ | + | + | ++ | 〃 |
F | ++ | − | +− | + | −− |
+ | ←→ | − | + | ←→ | − | |||
・みくずれ | 着 | ←→ | 無 | ・酸・甘味度 | 強 | ←→ | 弱 | |
・色調 | 濃 | ←→ | 淡 | ・総合品質 | 良 | ←→ | 悪 |
11.成果の活用面と留意点
乾燥粉末は加水、加糖して菓子原料、ジャム、ジュースとして利用する。ハスカップ酢は鮮やかな色とさわやかな酸味があり、そのまま酢として利用するか、サラダ油等と混合し、ドレッシングとして利用する。糖液処理果実は、菓子または菓子原料として利用する。果実の苦味、生臭は製品に移行する場合があるので苦味のある果実、青臭みの強い果実は避ける必要がある。
12.残された問題とその対応
ハスカップは酸味が著しく強いため、生食用としては利用しにくく、また、加工過程で減酸もしくは甘味付与する場合には加工コストが増加する。従って酸味が弱く、甘味の多い果実の育種、および甘味を増加させる栽培条件の確立が必要である。また、収穫が手作業で生産コストが高く、加工上採算性が悪いので効率的な収穫期の早期開発が必要である。