1.課題の分類 草地 草地 草地土壌 C-1 総合農業 生産環境 土壌肥料 3-3-1 北海道 土肥・環 家畜・草地合同 2.研究課題名 天北地方イネ科主体採草地の経年化に伴う収量変動要因と窒素施肥対応 (老化草地の生産力回復〜経年草地の有機物動態) 3.予算区分指定試験 4.研究期間 昭和56年〜平成1年 5.担当 道立天北農試・土壌肥料科 6.協力・分担 なし |
7.日的
天北地方におけるイネ科主体採草地の経年化に伴う収量変動とその要因について施肥および土壌窒素の動態を中心に検討し、経年化草地の窒素施肥対応を明らかにする。
8.試験方法
主試験:同一気象条件における経年草地の収量変化とその要因(昭和52〜平成1年)〜昭和52、54および56〜63年の毎年造成したオーチャードグラス単播草地、窒素12、18kg/10a年で昭和58〜平成1年の7ヶ年間、同一気象条件で経年数の異なる草地の収量性、越冬前生育量、蓄積有機物と含有窒素量、土壌窒素量、降水量と蓄積有機物の分解などを調査。
解析試験:経年数の異なる草地の収量と施肥窒素、土壌窒素吸収量の関係(昭和60年)−昭和52〜59年造成の5草地を用いて検討。
現地適応性試験:経年草地の施肥窒素増肥反応(昭和62〜63年)〜経年数および立地土壌の異なるオーチャードグラス主体草地(20〜21ヶ所、宗谷、留萌北部、網走西部)を用い窒素9、18kg/10a年で検討。
9.結果の概要と要約
1)毎年、順次草地造成を行い、同一気象条件で経年数の異なる草地の収量を比較した結果、以上のことが明らかとなった(表1、図1)。
① 窒素施肥が十分供給(18kg/10a年)される条件では、草地の経年化に伴う収量低下は極めて小さく、かつ変動巾も小さかった。
② 窒素施肥量が少ない(12kg/10a年)条件では、造成6〜7年目以降で収量低下が起こった。
③ ②の主要因は1番草収量が明らかに劣ることであった。
2)③で得られた現象を解析した結果、以下の①、②に原因していた(表2、図2)。
①草地の経年化に伴う1番草時の収量低下は施肥窒素利用率の低下および土壌窒素供給量の減少に起因していた。
②3番草刈取り後、越冬時までの生育量は草地の経年化に伴い土壌窒素供給量が低下するため古い経年草地で劣り、これが翌春1番草収量に継承されていた。
③従って、早春窒素施肥量の増肥効果は草地の経年化に伴い明らかに増大した。
3)1番草収量は前年の降水最の影響を受け、降水不足で経過した翌春1番草収量は、3年目草地の79%(65〜90%)と明らかに劣った。逆に降水量が多い翌春1番草収量は3年目草地の90%(79〜109%)を示した(図3)。
4)2、3番草収量は7月〜8月の降水量に支配され、150mm(2.5mm/日)程度では造成3年目草地》4〜6年目≧7年目以上草地、250mm(4.2mm/日)程度では造成7年目以上草地》4〜6年同≧
3年目草地の順であった(図3)。
5)3)、4)で得られた現象は下記の①、②に起因していた(図4、5)。
①作土層全体の易分解性土壌窒素水準は草地が経年化しても一定であった。しかし、経年化に伴い土壌窒素の主要供給土層を表層(0〜5㎝)に集中させ、5㎝以下作土層のそれは経年的に減少した。
②蓄積有機物の分解は降水量に支配され、降水量が多い条件では蓄積有機物の旺盛な分解により土壌窒素供給が高まった。この結果、牧草の越冬形質は極めて良好であった。
6)以上の結果から、目標収量3.5t/10a年程度の条件では経年化草地はそうでない草地に比べ増肥しなければ同等の1番草収量が得られない。従って経年化草地の1番草収量確保のためには早春窒素施肥量を30%程度増肥する必要がある。また7〜8月が降水不足条件(7〜8月降水量200㎜以下)にあった場合は翌春の1番草収量が平常降水年(7〜8月降水量250㎜以上)に比べ明らかに低収となるので、早春窒素施肥量の増肥率を上げる(50%程度)必要がある。
10.主要成果の具体的数字
表1 草地の経年化に伴う収量変化と年次変動
草地 N 番草 |
2年目(n=7) | 3年目(n=7) | 4〜6年目(n=15) | 7〜9年目(n=9) | 10年目以上(n=4) | |||||||
平均 | CV | 平均 | CV | 平均 | CV | 平均 | CV | 平均 | CV | |||
N12 | 1 | 番草 | 298 | 15 | 239 | 12 | 229 | 15 | 206 | 15 | 188 | 17 |
2 | 261 | 15 | 231 | 11 | 217 | 9 | 232 | 11 | 219 | 12 | ||
3 | 211 | 26 | 190 | 24 | 187 | 28 | 199 | 24 | 205 | 33 | ||
合計 | 768 | 8 | 659 | 4 | 632 | 5 | 637 | 6 | 613 | 8 | ||
N18 | 1 | 番草 | 358 | 15 | 305 | 14 | 293 | 12 | 283 | 10 | 275 | 17 |
2 | 335 | 8 | 291 | 6 | 276 | 8 | 299 | 6 | 287 | 12 | ||
3 | 277 | 21 | 250 | 20 | 241 | 20 | 258 | 16 | 261 | 30 | ||
合計 | 968 | 7 | 846 | 6 | 811 | 5 | 840 | 5 | 823 | 8 |
図1 草地の経年化に伴う1番草収量の変化*(3年目実収量kg/10a)
表2 経年数の異なる草地の施肥および土壌窒素吸収量(kg/10a)
生育 N給源 草地 |
1番草 | 2番草 | 3番草 | 越冬前 | 年間合計 | 越冬前形質 | 翌春 1番草 収量 |
||||||
施肥 | * 土壌 |
施肥 | * 土壌 |
施肥 | * 土壌 |
* 土壌 |
施肥 | ** 利用率 |
* 土壌 |
分げつ /主茎比 |
|||
2 | 年目 | 2.1 | 2.0 | 1.9 | 2.2 | 2.0 | 2.3 | 0.8 | 6.0 | 49 | 7.3 | 0.34 | 283 |
3 | 1.7 | 1.5 | 1.8 | 1.7 | 2.0 | 2.4 | 0.8 | 5.5 | 45 | 6.4 | 0.30 | 263 | |
4 | 1.8 | 1.4 | 1.6 | 1.7 | 1.6 | 2.5 | 0.9 | 5.0 | 42 | 6.5 | 0.29 | 290 | |
5 | 1.7 | 1.9 | 1.6 | 2.6 | 1.6 | 3.3 | 0.7 | 4.9 | 41 | 8.5 | 0.25 | 258 | |
9 | 1.3 | 1.0 | 1.7 | 2.4 | 1.5 | 3.1 | 0.6 | 4.5 | 37 | 7.1 | 0.21 | 224 |
表3 前年降水量が経年草地の1番草収量に及ぼす影響(kg/10a)
年次 草地 項目 |
前年降水平常年 | 前年降水不足年 | |||||||
2年目 | 3年目 | 4〜6年目 | 7年目以上 | 2年目 | 3年目 | 4〜6年目 | 7年目以上 | ||
N12 | 合計 | 297 | 245 | 253 | 223 | 297 | 234 | 206 | 186 |
出穂茎 | - | 135 | 149 | 137 | - | 123 | 128 | 108 | |
伸長茎 | - | 111 | 105 | 85 | - | 111 | 78 | 77 | |
N18 | 合計 | 351 | 318 | 329 | 305 | 362 | 296 | 267 | 268 |
出穂茎 | - | 182 | 198 | 181 | - | 168 | 163 | 160 | |
伸長茎 | - | 136 | 131 | 124 | - | 128 | 103 | 106 | |
N18/N12* | 合計 | 118 | 130 | 130 | 137 | 122 | 126 | 130 | 144 |
図2 早春窒素施肥量の増肥に対する
経年草地の収量反応(昭和63年)
図3 降水量の変動に伴う経年草地の2+3
番草合計の収量性(対3年目指数)
図4 降水量と還元有機物の分解率(昭和59〜平成1年)
図5 草地の経年化に伴う易分解性土壌窒素量の変化(昭和63年11月)
11.成果の活用面と留意点
1)イネ科主体採草地で造成6〜7年目以上の経年草地に適用する。
2)窒素増肥はオーチャードグラスでは秋施肥、チモシーでは早春施肥が効率的である。なお、窒素の増肥は秋の堆厩肥表面施用で代替できる。
3)主にオホーツク海沿岸の鉱質土草地に適用し、降水量の多少の判定は最寄のアメダスデーターで対応する。