完了試験研究成績 (作成 平成2年1月)
1.課題の分類 総合農業 営農 経営 7-1 北海道 経営 2.研究課題名 酪農経営における乳牛更新の実態と情報の機能 〜地域農業診断にもとずく農業経営情報の評価およびシステム化〜 3.予算区分 道単 4.研究実施年度・研究期間 継・中・【完】 平成元年(昭60年〜平元年) 5.担当 十勝農試経営科 6.協力・分担関係 中央農試経営科、根釧農試経営科 |
7.目的
農業生産に対する効率化、高品質化の要求により、技術改善とともに経営内外の情報活用による経営効率の向上が重要課題となってきている。情報処理機器の発達も情報化を促進し農業分野でも電算処理によるデータ提供の試みが拡大しつつある。本研究では、農業生産性及ぴ農業所得の向上のための農業情報の合理的処理、有効活用の方策を検討する。
8.試験研究方法
アンケート調査・実態調査により、十勝地域における農業情報需給、酪農経営の情報利用実態について把握した。また、酪農経営における乳牛更新について、実態と経済性を検討し、個体管理情報を活用した合理的更新計画を策定した。
9.結果の概要・要約
1)十勝地域における農業情報の需給実態
十勝では農協連を中心に農業情報の総合的なシステム化が進んでいる。特に酪農経営情報システムは経営の内部情報の処理・分析に係わるもので、乳検情報と諸分析をつないだ酪農技術情報の総合的提供を目指すものである。利用農家自身が情報生成機能を分担するため、個々の農家の利用姿勢により入出力データの精度や利用価値に差がある。
2)酪農経営における情報需要構造と利用実態
酪農経営は飼料生産、個体の繁殖管理、搾乳と複合的部門構成を持つ。経営計画期間にまたがる個体毎の生理的サイクルに基づく個体管理が必要であり、個体の状態把握のためのデータも膨大である。道内では乳検、十勝管内では酪農経営情報システムが普及し酪農家の個体管理情報の整備に貢献しているが、認知情報にとどまっている段階のものも多く、農家が経営上の意志決定に用いるには、活用のための指導が必要である。
3)乳牛更新と情報利用実態
乳検情報等の中心的活用場面のひとつである乳牛の更新について、酪農家で行われている実態とその要因、乳検情報等の効率的利用による経済的な更新方法を検討した。
経済・技術的諸要因を考慮したシミュレーションによれば個体の経済的供用年数は9年前後と、実態(平均産次3.0産、初産牛率27.5%;63年十勝)よりはるかに長い。更新要因の実態は病傷等による処分が多く、経済的更新のネックとなっている。また、農家の意識は乳質に対する基準に敏感であり、改良情報の充実とともに供用年数を引き下げる要因となっている。
収益性で判断すべき個体処分要因〜繁殖障害、低乳量、老齢〜については乳検等で提供される個体情報が利用されているものの、経営実態に基づく経済指標はなく、農家の判断基準もまちまちである。
モデル農家の半群構成に基いて更新率を検討したところ、乳量面では25〜26%、収入面では20〜22%が最適な更新率となった。変動要因を動かしても更新率の上限は乳量で28%、収入では24%くらいであった。
10.主要成果の具体的数字
更 新 率 (%) |
繰入牛(初産) | 残留牛(2産以上) | 牛群平均 | 個体販売頭数 | 1頭当たり収入 | ||||||||||||
頭 数 (頭) |
選抜 圧 (%) |
選抜 差* (kg) |
平均 乳量 (kg) |
頭 数 (頭) |
選抜 圧 (%) |
選抜 差* (kg) |
平均 乳量 (kg) |
乳量 (kg) |
同左 差分 (kg) |
廃 用 (頭) |
経産 乳用 (頭) |
初 妊 (頭) |
乳代 (千円) |
個体 販売 (千円) |
収入計 (千円) |
同左 差額 (千円) |
|
34 | 34 | 85 | 329 | 6279 | 66 | 75 | 635 | 7635 | 7174 | 12 | 22 | 6 | 573.9 | 162.8 | 736.7 | ||
32 | 32 | 80 | 431 | 6381 | 68 | 77 | 581 | 7581 | 7197 | 23 | 12 | 20 | 8 | 575.7 | 164.0 | 739.7 | 3.0 |
30 | 30 | 75 | 532 | 6482 | 70 | 80 | 527 | 7527 | 7213 | 17 | 12 | 18 | 10 | 577.1 | 165.2 | 742.2 | 2.5 |
28 | 28 | 70 | 633 | 6583 | 72 | 82 | 473 | 7473 | 7224 | 10 | 12 | 16 | 12 | 577.9 | 166.4 | 744.3 | 2.0 |
26 | 26 | 65 | 734 | 6684 | 74 | 84 | 419 | 7419 | 7228 | 4 | 12 | 14 | 14 | 578.2 | 167.6 | 745.8 | 1.5 |
24 | 24 | 60 | 836 | 6786 | 76 | 86 | 365 | 7365 | 7226 | -2 | 12 | 12 | 16 | 578.1 | 168.8 | 746.9 | 1.0 |
22 | 22 | 55 | 937 | 6887 | 78 | 89 | 311 | 7311 | 7218 | -8 | 12 | 10 | 18 | 577.4 | 170.0 | 747.4 | 0.5 |
20 | 20 | 50 | 1038 | 6988 | 80 | 91 | 257 | 7257 | 7204 | -14 | 12 | 8 | 20 | 576.3 | 171.2 | 747.5 | 0.1 |
18 | 18 | 45 | 1139 | 7089 | 82 | 93 | 204 | 7204 | 7183 | -21 | 12 | 6 | 22 | 574.6 | 172.4 | 747.0 | -0.4 |
16 | 16 | 40 | 1240 | 7190 | 84 | 95 | 150 | 7150 | 7156 | -27 | 12 | 4 | 24 | 572.5 | 173.6 | 746.1 | -0.9 |
14 | 14 | 35 | 1342 | 7292 | 86 | 98 | 96 | 7096 | 7123 | -33 | 12 | 2 | 26 | 569.9 | 174.8 | 744.6 | -1.4 |
12 | 12 | 30 | 1443 | 7393 | 88 | 100 | 0 | 7000 | 7047 | -76 | 12 | 0 | 28 | 563.8 | 176.0 | 739.7 | -4.9 |
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図1 更新率と期待乳量/頭・年) −初産能力割合を変化させた場合− |
図2 更新率と期待収入/頭・年 −初産能力割合を変化させた場合− |
《最適更新率計算のための設定条件》
成牛100頭、初妊牛40頭(100頭×産子率0.923×♀率0.49×残存率0.88(事故率12%))の牛群計140頭の中から次の産次に期待される乳量順に次期の供用牛を100頭残すと考える。現在の成牛群の次産予測乳量(M)と、そのばらつきの大きさ(SD)、現成牛群に対する初妊牛群の能力水準(Mに対する初妊牛群の初産期待乳量比;s%)、病傷等故障による廃用(更新)率(実績を基に設定;H%)、個体評価額等から、期待乳量、期待収入を最大にする更新率を求める。
表1はモデル農家のデータを基に、M=7,000kg、SD=1,500kg、S%=85%、H%=12%、乳代収入=平均乳量×@80円、個体販売収入=((廃用28万円、経産乳用45万円、初妊51万円、初生トク13万円)×各販売頭数)として計算した基本型である。
図1、2は変動要因(SD、S%、H%)のうちS%について80%、85%(基本型)、90%の3段階を示したものである。
11.成果の活用面と留意点
農家個々の牛群データを用いることにより、更新計画の策定の指標として、生乳生産、経営計画の助けとなる。更新計画中の廃用価値は、老廃牛と故障廃用牛の評価額を同額にしているので、故障発生による損失額の推計には廃用価値の再検討が必要である。
12.残された問題とその対応
乳量基準を用いているので、乳成分、乳質等についても考慮する必要がある。