1.課題の分類 畜産 鶏 繁殖 北海道 畜産 2.研究課題名 鶏凍結精液の実用化に関する試験 (地域動物資源の利用による特産鶏肉・鶏卵の開発) 3.予算区分 地域新技術 4.研究期間 昭63〜平2年 5.担当 滝川畜試研究部家きん科、衛生科 6.協力・分担関係 福島鶏試、青森畜試、 秋田畜試 |
7.目的
鶏の地域の遺伝子資源を有効に利用し、効率的に改良を進めるために凍結精液を用いた人工授精技術の実用化を図る。
8.試験研究方法
(1)鶏精液の凍結用希釈液の検討
(2)鶏凍結精液の効率的利用技術の検討
(3)鶏凍結精液の育種への応用
(4)鶏凍結精液配布技術の検討
(5)鶏凍結精液を利用した人工授精による孵化と性比の検討
9.結果の概要・要約
(1)レーク液を用いたストロー法と広島希釈液を用いたペレット法で凍結した精液の融解後の運動精子は40.2%と85.0%であり、受精率はそれぞれ42.1%と97.4%であった。いずれの点でも広島希釈液で凍結した時の成績が良好であったので、以後の実験は広島希釈液を用いたペレット法で行なった。
(2)①注入精液量が受精亭に及ぼす影響をみると、0.05mLから0.2mLの範囲での受精率は90.4%から96.4%の範囲であったが、0.025mLでは60.9%に低下した。実用化の時は0.05mL以上が適当である。
②融解・遠心分離後の希釈(再々希釈)が受精率に及ぼす影響をみると、再々希釈で採取時の精子濃度にした1倍から4倍の範囲で受精率は80.0〜94.6%の範囲であったが、8倍では39.7%と大きく低下したため、8倍まで希釈するのは実用上適当でない。(表2)
(3)①雄鶏の個体別凍結精液の受精率をみると、平均71.8%(n=5)であった。(表3)
②週1回の人工授精を4週間続けた時の受精率は1週目69.2%、2週目51.5%、3週日86.0%及び4週目75.0%で、1〜4週間の平均は70.6%であった。従来みられた人工授精を繰り返すことによる受精率の低下はなく、実用上必要な同一雌鶏に対する人工授精の繰り返しができた。(表4)
③卵用種と肉用種の凍結精液による受精率を比較したところ、それぞれ、97.7%,97.4%の受精率を示し、品種による相違は認められなかった。
(4)滝川畜試と福島鶏試との間で凍結精液を輸送し、人工授精を実施したところ、滝川畜試から福島鶏試へ輸送した精液で受精率は73.9%〜89.6%、福島鶏試から滝川畜試へ輸送した時では89.5%であった。輸送による受精率の低下は認められず、実際に輸送・利用できることが示された。(表5)
(5)福島鶏試から滝川畜試へ輸送した精液と滝川畜試に保管した精液を授精した時の孵化率は、それぞれ対入卵孵化率で81.6%、74.0%、対受精卵孵化率で91.7%、98.3%てあり、輸送による房化率の低下は認められなかった(表6)。この孵化率と新鮮精液を用いた人工授精による孵化率と比較しても、大きな差はなかった。
発生雛の性比は1であリ凍結・輸送による変化はなかった。
以上の結果から、鶏凍結精液の利用技術は実用化の域に達したものと考えられた。
10.成果の具体的数字
表1 注入精液量と受精率
注入精液量 (mL) |
受精率 (%) |
0.025 | 60.9 |
0.05 | 90.4 |
0.1 | 96.9 |
0.2 | 94.6 |
表2 再々希釈倍率と受精率
再々希釈 倍率 |
受精率 (%) |
1 | 94.6 |
2 | 80.0 |
4 | 82.7 |
8 | 39.7 |
表3 雄鶏個体別凍結精液の
人工授精後2〜8日間の受精率
雄鶏 番号 |
受精率 (雌鶏) |
受精率 (卵) |
5621 | 100%(4/4)1) | 75.0%(18/24)2) |
5622 | 100%(4/4) | 90.0%(18/20) |
5624 | 100%(4/4) | 64.0%(16/25) |
5625 | 100%(4/4) | 69.2%(18/26) |
5627 | 100%(3/3) | 61.1%(11/18) |
平均 | 100%±0 | 71.8%±10.3 |
表4 週1回の人工授精を4週間反復した時の受精率
人工受精 開始後 |
1週間 | 2週間 | 3週間 | 4週間 | 1〜4週間 |
受精率(%) | 69.2 | 51.5 | 86.0 | 75.0 | 70.6 |
65/941) | 50/97 | 86/100 | 78/104 | 279/395 |
表5 輸送した凍結精液の注入精液量と受精率
注入精液量 (mL) |
受精率 (%) |
|
滝川畜試→福島鶏試 | 0.05 | 73.9(34/46)1) |
0.1 | 84.1(37/44) | |
0.2 | 89.6(43/48) | |
福島鶏試→滝川畜試 | 0.1 | 89.5(68/76) |
表6 鶏凍結精液で人工授精した時の孵化率及び良雛率
孵化率 (対入卵) |
孵化率 (対受精卵) |
良雛率 | |
輸送した凍結精液1) | 81.6%(62/76)3) | 91.7%(62/68)4) | 100.0%(62/62)5) |
保管した凍結精液2) | 74.0%(57/77) | 98.3%(57/59) | 98.3%(56/57) |
11.成果の活用面と留意点
(1)凍結精液の作成はマニュアルを参考に正確に行なうこと。
(2)人工授精で病原体を広げることのないよう、健康な雄から精液を採取する。
12.残された問題とその対応
(1)鶏凍結精液のシステム化:牛の人工授精のように器具を含めてシステム化し、全国的共通技術とする必要がある。
(2)融解操作の簡便化・迅速化:操作を簡略化し、作業時間を短縮する必要がある。