1.課題の分類  総合農業 作物生産 夏作物
          北海道 畑作 ばれいしょ
2.課題名  ばれいしょ輸入品種「P892」(食品加工用)に関する試験成績
3.場所名  北海道立中央、上川、十勝、北見、根釧、道南農業試験場、北海道農試
       <協力>カルピーポテト株式会社

4.来歴及び試験経過
1)来歴
 ばれいしよ輸入品種「P892」は、カルピーポテト株式会杜が米国から輸入したものである。米軍メリーランド州ベルツビルにあるUSDA Plant Genetics and Germplasm Instituteにおいて、R.E.Webbらが昭和44年に耐病、多収、加工品質に優れた品種の育成を目標に、多収で、肌が良く、そうか病及びジャガイモシストセンチュウに抵抗性の「Wauseon」を母、でん粉価が高く、ポテトチップの品質の優れた「Lenape」を父として交配し、以後選抜を加え育成し、昭和51年「Atlantic」の名で公開したものである。
2)系譜
USDA Seedling
43108
 
 
USDA seedling
44043
S.chacoence
 
Menominee
 





 



 
 
Earlaine
 
USDA Seedling
45208
 
 
Hybrid(USDA)
 
Cherokee
 



 
 
 


 
 
USDA Seedling
47156
 
 
 
 
USDA Seedling
B3672-3
 
 







 
Wauseon
 
 
 
 
USDA Seedling
B5141-6
(Lenape)
 
 






 
 
 
 
 
 
「P892」
(Atlantic)
 
 
 
 
 
 
3)導入と試験経過
 ①カルビーポテト株式会社は北海道農業試験場作物第一部畑作物第二研究室に「Atlantic」の導入を依
  頼した。同研究室では、昭和54年カルピーアメリカを通じノースダコタ州立大学から同品種の塊茎を取
  寄せ、検疫輸入した。
 ②その後、カルピーポテト株式会社では、昭和59年に北海道農業試験場から同品種の塊茎の分譲を受
  け、試験用種いもの増殖を開始した。
 ③同社では昭和63年に同品種を「C2」の系統名で、輸入品種検定予備試験を行った。
 ④平成元年から平成3年まで、北海道立中央、十勝、根釧、北見、上川農業試験場において、同品種を
  「P892」の系統名で、輸入品種等選定試験及び北農試において生産力検定試験を行った。
 ⑤更に平成2年〜平成3年には、同品種を道内各地における現地試験に供試するとともに、中央農試にお
  いてジャガイモシストセンチュウ抵抗性検定試験(真狩村)、ウイルス病抵抗性検定試験、十勝農試にお
  いて塊茎腐敗抵抗性検定試験、栽培特性検定試験、根釧農試においてそうか病抵抗性検定試験、北
  農試において品質検定試験、疫病抵抗性検定試験を実施した。

5.特性概要
(1)形態的特性
 そう性は直立型で、茎長は「トヨシロ」より数㎝短いやや短茎、分枝数はやや少ない。茎は緑色、一部に淡赤紫色を帯ている。葉色は緑、小葉は大きく、幅がやや広い。花色は、ごく薄い淡青紫、花は大きく、花数がやや多い。自然結果は認められない。
塊茎の着生はやや疎であり、塊茎は球形で、大きく、揃いが良い。皮色は黄褐色、表皮はややざらざらしている。目は少なく、浅い。外見は良い。肉色は白である。
(2)生態的特性
 萌芽期は、「農林1号」より遅いが「トヨシロ」並である。開花期は「トヨシロ」に比べ少し早い。
熟期は中生に属し、「トヨシロ」より10日程度遅い。
上いも収量は「トヨシロ」と同程度であるが、株当り上いも数がやや少なく上いも平均一個重では勝っている。中いも以上収量は「トヨシロ」にやや勝り、でん粉価は1%ほど高い。
施肥量及ぴ栽植密度に対する反応は「トヨシロ」と同様で、疎植で大粒化し、中いも以上収量が低下する。
疫病低抗性遺伝子R1を保有しているが、茎葉の罹病度は「トヨシロ」並ないしそれ以上で推移する。疫病菌による塊茎腐敗の発生は、「農林1号」より少ないが、中と判定される。
ジャガイモシストセンチュウ抵抗性遺伝子H1を有し寄生型Rolに抵抗性である。本線虫発生国では感受性品種と同様にジャガイモシストセンチュウの幼虫が根に浸入するため減収するが、本品種の根ではシストを形成することができないため、土壌中の線虫密度は低下する。
 Yウイルスの汁液接種により、エソ反応が強く現れ、罹病株の判定は容易である。
そうか病には、高密度圃場では「トヨシロ」程度罹病し抵抗性は認められないが、網走管内の現地試験のうちそうか病少〜中発生の圃場では被害いもの発生が少なかった。
3)加工適性
肉質は粉質であり、煮くずれは「トヨシロ」並であり、「ホッカイコガネ」より多い。水煮後黒変はわずかである。ポテトチップカラーは、年内処理では「トヨシロ」に比べやや劣る傾向にあるが、低温貯蔵後及びリコンデショニング後では、「トヨシロ」「農林1号」より優れている。用途はポテトチップ用である。

表1  地上部特性
品種名 そう性 茎の長さ 分枝数 茎色
(1次色)
葉色 小葉の
大きさ
花色
(1次色)
花の数 結果数
P892 直立 やや短 やや少 緑(淡赤) 淡青紫 やや多
トヨシロ やや開 淡緑 やや小
農林1号 やや直 やや長 緑(赤紫)

表2  塊茎特性
品種名 ふく枝
の長さ
いもの形 粒大 皮色 表皮

粗滑
目の数 目の深浅 肉色
(1次色)
外観 休眠
期間
P892 やや長 黄褐 やや良
トヨシロ やや短 偏球 やや大 黄褐 やや良
農林1号 偏球 やや大 白黄 やや良 やや短

6.主要成果の具体的数字
表1  輸入品種等選定試験における成績(平成1〜3年の平均)


品種名 萌芽期
(月日)
枯凋期
(月日)
茎長
(cm)
株当り
上いも
数(個)
上いも
平均
一個
重(g)
上いも
収量
(kg/10a)
中以上
いも収量
(kg/10a)
標準比
(%)
でん
粉価
(%)
総合
評価
11月上旬
ポテトチップ
アグトロン値



P892 5.27 9.5 47 8.5 123 3964 3683 117 16.5 ○〜 28.3
トヨシロ 5.28 8.25 51 10.7 95 3803 3159 100 16.9 36.3



P892 5.29 9.14 45 9.5 109 3458 3236 110 19.7 〜○ 30.3
トヨシロ 5.31 9.6 47 9.8 103 3285 2938 100 17.5 33.8



P892 5.23 9.8 55 8.9 110 4310 3967 100 17.4 ○〜 34.8
トヨシロ 5.24 9.2 65 9.3 109 4433 3971 100 16.8 34.5



P892 6.1 9.28 53 8.0 134 3995 3828 97 16.4 ○〜△ 35.3
トヨシロ 6.1 9.6 60 9.9 116 4307 3964 100 15.6 32.0



P892 6.12 10.4 52 8.2 117 3666 3413 103 17.9 〜○ 27.0
トヨシロ 6.11 9.14 49 8.5 111 3572 3314 100 15.9 29.7


P892 5.28 9.23 39 6.8 165 3783 3696 97 17.3 △〜× 29.2
トヨシロ 6.1 9.12 47 9.0 130 4017 3807 100 16.7 35.0
注)アグトロン値は各場の試料を北農試で10℃に貯蔵後チップをあげ粗砕後測定。数字は多い方が明るい。

7.配布しうる種子量 200kg

8.普及対象地域及ぴ普及見込み面積
 道東、道北、道央北部及びこれに準ずる地帯。100ha

9.栽培上の注意
(1)褐色心腐が発生しやすいため、乾燥地を避け、十分な培土を行う。
(2)栽培に当たっては、窒素の多用や疎植を避ける。