| 1.課題の分類 分類番号 整理番号 2.場所名 北海道立中央農業試験場 3.品種名 ブドウ「ノースブラック」 |
4.来歴及ぴ試験経過
農林水産省果樹試験場安芸津支場において、寒冷地に適する優良品種の育成を目的として交配した「セネカ」×「キャンベルアーリー」の組合せによる品種である。交配は昭和51年に行い、昭和53年に個体番号を「80-24」として選抜ほ場に定植した。早熟で結実性が優れ、食味も比較的良いことから昭和59年に選抜し、昭和60年に「安芸津5号」の系統名を付けて第4回(寒地向き)系統適応性検定試験に供試された。その結果寒冷地で有望と認められ、平成3年に農林水産省果樹試験場が「ノースブラック」として命名登録を行い、種苗登録を申請した。
北海道立中央農業試験場では、昭和60年に水品種の配布を受け、昭和61年から場内及び現地で本道における適応性を検討してきた。
5.特性の概要
(1)樹性…樹勢は幼木時にはやや弱いが、樹齢が増すと中程度になる。幹周、樹冠占有面積、新梢数から
みた樹体生育は「ポートランド」と同程度である。新梢の登熟度は「キャンベルアーリー」(以下「キャンベル」
と略す)に比べやや劣るが、寒害による枯死芽率は同程度であり、耐寒性は強い。
現地(仁木)で接木苗を使用した場合は、幼木時の樹勢が強く、樹冠の拡大、新梢数の増加も早い。耐寒
性は「キャンベル」と同等である。
(2)生育相…発芽期及ぴ展葉期は「キャンベル」と同時期で「ポートランド」よリ早い。開花期は「キャンベル」
と同時期で「ポートランド」よリ遅い。
(3)熟期…熟期は中央農試では9月中旬〜10月上旬、仁木では9月中旬〜下旬である。これは「ポートランド」
及び「ノースレッド」と同時期で、「キャンベル」よリ1〜2週間早い。
(4)生産性…1樹当たリ収量は「ポートランド」と同等で、生産性は中程度である。中央農試では樹冠の拡大
が遅れたことによリ「キャンベル」よリかなリ低収であったが、現地で接木苗を使用した場合は樹冠の拡大
が早く「キャンベル」より収量が多かったことからみて、接木苗を使用することによリ初期収量の増大が可
能である。
(5)果実特性…果房は円筒形で、粒着はやや密から密となる。果房長は16㎝、果房重は270g程度で「キャン
ベル」よリ小さいが、「ポートランド」、「ノースレッド」よりやや大きい。果粒は円形で5〜6gになる。果皮色は
黒色で「キャンベル」に似るが、熟期の近い「ポートランド」(黄緑色)、「ノースレッド」(赤紫色)とは異なる。
はく皮は容易で、果肉は塊状と崩壊性の中間であり、種子離れが良い。糖度は16〜18%で「ポートランド」
よりやや高い。酸は「キャンベル」よリ低く、特に種子周リの酸味が少ないため食味は良い。フォクシー香
があり、渋味はない。裂果は少なく、収穫期の脱粒はない。
現地において接木苗を使用した場合は、果房が大きく、果粒が密着し、果房重は全収穫果の平均で
360g程度になる。調査果房では着粒数が多いため果粒重はやや小さいが、糖度は「ポートランド」よリ高
く、酸は「キャンベル」よリ低く、食味は良い。裂果及ぴ脱粒は特に問題ではない。
(6)耐病虫性…これまで目立った病害虫の発生は認められていない。
ウイルス検定の結果、リーフロール、フレック、ファンリーフの3ウイルスを保毒していないことが確認されて
いる(農水省果樹試安芸津支場)。
6.試験成績概要
第1表 樹体生育及ぴ収量
| 場所 | 品種名 | 台木 | 調査 年次 |
樹 勢 |
登 熟 度 |
枯死 芽率 (%) |
幹周 (cm) |
樹冠占 有面積 (㎡) |
枝数 (本) |
1樹当り収量 | |
| 果房数 | 重量(kg) | ||||||||||
| 中央農試 | ノースブラック | 自根 | 62〜H3 | 2.6 | 4.2 | 28.1 | 9.9 | 14.5 | 30 | 57 | 9.3 |
| キャンベルアーリー | 5BB | 62〜H3 | 3.1 | 4.9 | 24.6 | 13.0 | 28.6 | 56 | 135 | 24.4 | |
| ポートランド | 自根 | 62〜H3 | 2.7 | 4.5 | 49.0 | 9.8 | 17.4 | 35 | 53 | 10.0 | |
| ノースレッド | 自根 | 62〜H3 | 3.8 | 4.5 | 35.1 | 16.2 | 22.7 | 63 | 100 | 15.3 | |
| 仁木 | ノースブラック | 5BB | 62〜H3 | 3.6 | 4.0 | 19.6 | 13.3 | 36.0 | 58 | 127 | 45.8 |
| キャンベルアーリー | 5BB | 62〜H3 | 3.6 | 4.3 | 20.4 | 16.8 | 59.0 | 54 | 56 | 31.6 | |
| ポートランド | 自根 | 62〜H3 | 3.4 | 4.3 | 20.7 | 15.1 | 47.4 | 64 | 58 | 23.9 | |
| ノースレッド | 自根 | 62〜H3 | 4.0 | 4.1 | 11.2 | 20.6 | 67.5 | 129 | 300 | 95.7 | |
第2表 果実特性(平成3年)
| 場所 | 品種名 | 台木 | 収穫 月日 |
花振い | 果房形 | 粒着 | 果房長 (cm) |
果房重 (g) |
果粒形 | 果粒重 (g) |
果皮色 |
| 中央農試 | ノースブラック | 自根 | 9.19 | 少 | 円筒 | ヤ密 | 16.3 | 274 | 円 | 5.9 | 黒 |
| キャンベルアーリー | 5BB | 9.26 | 僅 | 円筒 | 密 | 16.7 | 309 | 円 | 5.9 | 黒 | |
| ポートランド | 自根 | 9.19 | 僅 | 円筒 | 密 | 13.7 | 257 | 円 | 5.8 | 黄緑 | |
| ノースレッド | 自根 | 9.19 | 少 | 円筒 | ヤ密 | 15.5 | 253 | 円 | 5.3 | 赤紫 | |
| 仁木 | ノースブラック | 5BB | 9.13 | 僅 | 円筒 | 密 | 20.7 | 482 | 円 | 4.7 | 黒 |
| キャンベルアーリー | 5BB | 9.25 | 僅 | 円筒 | 極密 | 19.2 | 589 | 円 | 6.8 | 黒 | |
| ポートランド | 自根 | 9.13 | なし | 円錐 | 極密 | 17.2 | 482 | 円 | 5.5 | 黄緑 | |
| ノースレッド | 自根 | 9.13 | なし | 有岐円筒 | 密 | 21.0 | 457 | 円 | 5.3 | 紫赤 |
| 場所 | 品種名 | はく皮 | 果肉 特性 |
果肉 硬度 |
糖度 (Brix) |
酸 (g/100ml) |
香気 | 渋味 | 裂果性 | 脱粒性 | 含核数 |
| 中央農試 | ノースブラック | 易 | 中間 | ヤ軟 | 17.3 | 0.52 | フォクシー | なし | 少 | 中 | 3.4 |
| キャンベルアーリー | ヤ易 | 塊状 | 軟 | 18.0 | 0.82 | フォクシー | なし | なし | ヤ易 | 3.0 | |
| ポートランド | 易 | 塊状 | 軟 | 15.8 | 0.47 | フォクシー | なし | なし | 易 | 3.9 | |
| ノースレッド | 場 | 塊状 | 軟 | 17.5 | 0.71 | 特殊 | なし | なし | 中 | 2.7 | |
| 仁木 | ノースブラック | 易 | 中間 | ヤ軟 | 15.3 | 0.34 | フォクシー | なし | なし | 中 | 3.1 |
| キャンベルアーリー | 場 | 塊状 | 軟 | 15.9 | 0.53 | フォクシー | なし | 僅 | 易 | ||
| ポートランド | 易 | 塊状 | 軟 | 14.2 | 0.37 | フォクシー | なし | なし | 易 | 4.2 | |
| ノースレッド | 易 | 塊状 | 軟 | 15.6 | 0.47 | 特殊 | なし | 僅 | ヤ易 | 3.1 |
7.普及対象地域および普及見込み面積
道央以南の生食用ブドウ栽培地帯。栽培面積の10%、約100ha
8.栽培上の注意
(1)樹冠の拡大を促進するため接木苗を使用する。
(2)寒害を防ぐため、冬期の枝下ろし・枝伏せを行なう。その際樹体の折損がないよう注意する。
(3)着果過多に注意し、着果量を1新梢2果房程度とし、果房重が400gを越えないようにする。