(作成 平成4年1月)
1.課題の分類  分類番号 整理番号
2.場所名  農林水産省北海道農業試験場
3.品種名  キイチゴ(ラズベリー)「チルコチン」

4.来歴
 本品種は、カナダ農務省農業研究所において「サムナー(Sumner)」×「ニューバーグ(New-burgh)」の交配実生より選抜・育成され、1978年に発表された。1980年に恵泉女学園短期大学の松井仁氏により日本へ導入され、1983年に北海道農業試業場へ配布された。

5.特性の概要
(1)樹性…樹姿は直立開張性であり、樹勢は強く、耐寒性も強い。樹の大きさは、中型の「ラーザム」とほぼ
 同等であり、休眠枝は「カスバート」と同程度で太い。
(2)生育相…札幌における発芽期は4月19日前後で、展葉期は4月29日前後であり、早生種の「セプテン
 パー」より2〜4日遅く、晩生種の「カスバート」より1〜2日早い。開花始めは6月19日前後であり、
 「セプテンバー」より10日遅く、「ゴールデン・クィーン」より約1週間早い。
(3)熟期…果実の成熟始めは7月21日前後で、「セプテンバー」より11日遅く、「ゴールデン・クィーン」より9日
 早い。収穫期は対照品種の「ラーザム」「カスバート」「ゴールデン・クィーン」とほぼ同じ7月下旬〜8月下旬
 である。
(4)生産性…1株当たりの年平均収量は3.5Kgで、二季成りの「セプテンバー」の合計収量と同等、その他の
 対照品種に比べ多収である。
(5)果実品質…果実の形は長円錐形で、果色は成熟すると鮮紅色になる。
 果実の大きさは、1果平均重で3.4g、最大粒平均重6.5gであり、いずれの対照品種より大きく、優っている。
 果粒の揃いも良好である。
 果実の硬度は「カスバート」並であり、その他の対照品種より硬く、収穫後の果形が崩れにくい。
 Brixは10%前後、クエン酸含量は多く2.0g/100mL以上であり、食味は酸味が強い。

6.試験成績概要
第1表  北海道農試における樹の特性、生態及び収量
品種名 樹姿 樹勢 耐寒性 発芽期
(月日)
展葉期
(月日)
開花始
(月日)
着色始
(月日)
成熟始
(月日)
収穫期間
(月日)
収量
(㎏)
チルコチン 直立開帳 4.19 4.29 6.19 7.18 7.21 7.19〜8.26 3.5
セプテンバー
(二季成り)
直立開帳 4.17
-
4.25
-
6.9
8.11
7.7
9.4
7.10
9.7
7.10〜8.22
9.8〜11.1
2.3
1.3
ラーザム 直立開帳 4.20 5.1 6.24 7.23 7.26 7.25〜8.25 2.3
フレミング・ジャイアント 直立開帳 4.17 4.26 6.14 7.9 7.12 7.11〜8.18 1.5
カスバート 直立開帳 4.21 5.1 6.25 7.25 7.28 7.24〜8.24 1.6
ゴールデン・クィーン 直立開帳 4.20 5.1 6.26 7.27 7.30 7.26〜8.28 2.8

第2表  北海道農試における果実形質
品種名 果形 果色 平均
果重
(g)
最大
果重
(g)
果実の
揃い
果実の
香り
果実の
硬さ
Brix
(%)
クエン酸*
チルコチン 長円錐 鮮紅 3.4 6.5 10.0 2.33
セプテンバー
(二季成り)
半円 鮮紅 2.4
2.3
4.5
4.8
9.7
11.1
2.26
-
ラーザム 半円 暗紅 2.1 4.1 9.5 1.55
フレミング・ジャイアント 半円 暗紅 1.8 3.8 9.1 1.58
カスバート 短円錐 暗紅 1.8 3.4 極多 12.1 1.46
ゴールデン・クィーン 短円錐 1.8 3.5 極多 12.0 1.31
注)第1表及び第2表ともに、昭和60年〜平成1年の5年間平均、但し、着色始及び成熟始は昭和61年〜平成1年の4年間平均、収穫期間は昭和60年〜平成3年の3年間平均を示す。
*:g/100mL
収量:1株(親茎数7本)当たり。

第3表  現地における収量及び果実品質
品種名 士別 余市
収量
(kg)
平均果重
(g)
Brix
(%)
収量
(kg)
平均果重
(g)
Brix
(%)
チルコチン 3.5 2.8 9.9 2.1 2.7 11.8
セプテンバー 2.1 1.9 9.6 1.0 2.0 10.9
ラーザム 3.0 1.9 10.7 2.2 2.3 11.3
フレミング・ジャイアント 2.7 1.8 8.6 2.5 2.4 8.9
カスバート 2.1 1.8 12.4 2.2 1.9 13.0
ゴールデン・クィーン 1.8 1.6 11.0 1.9 1.6 12.4
注)士別:平成1〜3年の3年間平均、収量は1株(親茎数10本)当たり。
 余市:平成3年の単年、収量は1株(親茎数10本)中の親茎数5本当たり。

7.普及対象地域
 北海道の果樹栽培地帯全域

8.保有種苗
 士別、余市の現地を含めて100株

9.栽培上の留意点
(1)キイチゴは前年に地際から伸長した新梢に結実し、結実した枝は収穫後に枯死するため、翌年の結果
 母校(親茎)を確保する必要がある。
(2)整枝・せん定は融雪直後に行い、地上80〜100㎝で切りつめ、株仕立ては1株に強い結果母校(親茎)を
 7〜10本とする。
(3)ナミハダニの発生に注意する。