成績概要書(作成 平成4年1月)
1.課題の分類  総合農業 生産環境 土壌肥料 2-1-2-b
          野菜 野菜 土壌肥料
          北海道
2.研究課題名  ダイコン赤心症の発生原因解明と軽減対策
          (ダイコン赤心症・ブロッコリー空洞症の栄養生理的解明と対策試験)
3.予算区分  道費
4.研究期間  (昭和63年〜平成3年)
5.担当  道南農試 土壌肥料科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
 初夏及び豆まきダイコンに発生する生理障害である赤心症の発生原因を解明し、その発生防止策を確立する。

8.試験研究方法
1)赤心症の発生に及ぼす高地温とBの影響
 ・環境制御温室及び露地の栽培で高地温とB施用量を組み合わせた試験を行い、赤心症に及ぼす両要
 因の影響を検討した。
2)赤心症の発生に及ぼす各種栽培条件の影響
 ・N、P、水分、肥大速度、栽培日数、マルチ、品種について、赤心症の発生との関係を検討した。
3)赤心症の発生と体内成分との関係
 ・発生株と未発生株の無機及び有機成分について比較検討を行い、発生原因の解明を行った。
4)ダイコンに対するB施肥法
 ・ダイコン栽培に対応した効果的なB施肥法を検討した。
5)現地における発生防止対策試験(美瑛町、北檜山町、大野町)
 ・これまで得られた試験結果をもとに、現地5ヶ所で対策区と農家慣行区の比較試験を行った。

9.結果の概要・要約
1)生育後半の高地温処理の有無により赤心症の発生に顕著な差がみられ、高地温が赤心症の発生に及
 ぼす影響は大きかった(表1)。
2)高地温条件下での栽培でも、Bの施用により赤心症の発生は明らかに抑制されたが、発症率を完全に
 ゼロにするととはできない場合もあった。時期的には、は種後40〜50日の期間に高地温に遭遇した場合
 がもっとも発症率が高かった(表2)。
3)土壌B含量だけが異なる栽培条件下での発生株と未発生株の体内無機成分含有率を比較すると、発生
 部位である地下根でもB以外の成分については過不足や不均衡は認められなかった。Bについては水溶
 性画分のB含有率に明らかな違いがみられた(表3)。
4)品種によってBの要求量は異なり、体内のB含有率だけが赤心症の発生を支配する要因ではないことが
 明らかとなった(表4)。
5)品種や栽培条件によって、赤心症が発生する時期には違いがあるが、早い場合は、は種後40日以前で
 も発生し、以後は日数の経過とともに症状も進行する。このとき、発生部位である地下根では全フェノー
 ル含有率の増加が認められた。
6)赤心症に対する品種間差がきわめて大きいのは、発生の直接の原因であるフェノール代謝活性が遺伝
 的な要因で異なるためと思われる。したがって、抵抗性品種を栽培することが発生防止策の第一条件と
 なる。本試験で供試した涼太、献夏、福味2号、快進2号では赤心症の発生は軽微であった(表4)。
7)赤心症発生の軽減には、土壌B含量は0.5〜1ppmを確保することが適当であった。そのためには、土壌B
 含量が0.5ppm以下の圃場ではB2O3として480g/10a、0.5ppmを越える圃場では施肥標準のB施用
 量(B2O3として200〜300g/10a)を遵守する(図2)。
8)根の肥大が始まる頃には、茎葉の繁茂によって直根の付近は日陰となり、マルチの使用が地温を上昇
 させることはほとんどない。したがって、肥料成分の溶脱防止と土壌水分の確保の意味からシルバーマ
 ルチを収穫時まで使用する(表5、図1)。

10.成果の具体的数字

表1  生育後半の高地温が赤心症の完全に及ぼす影響
試験区 葉重(g/株) 根重(g/株) 発症率(%) B含有率(ppm)
地下根
高温 +B 243 681 10 59.6 16.7
−B 248 698 64 21.5 11.2
低温 +B 220 710 0 62.1 16.3
−B 234 743 0 19.7 12.1
1)品種:耐病総太り、試験場所:環境制御温室
2)栽培期間中(1990年7/20〜9/18)の温度条件
  高温区平均気温:28.6℃、平均地温:0〜45日目、21.2℃、46〜60日目29.4℃
  低温区平均気温:26.8℃、平均地温:22.3℃。
3)跡地のB含量:+B区0.85ppm、−B区0.19ppm。

表2  生育時期別の高地温と土壌B含量が赤心症の発生に及ぼす影響
試験区 葉重(g/株) 根重(g/株) 発症率発症 B含有率(ppm)
(%) 程度 地下根
+B 30〜40日目 332 565 0 0 85.6 19.9
40〜50日目 317 475 0 0 87.1 19.6
50〜60日目 329 430 0 0 75.3 18.3
−B 30〜40日目 334 504 29 7 24.8 13.3
40〜50日目 311 476 56 25 23.5 11.8
50〜60日目 309 446 23 8 25.5 11.3
1)品種:関白、栽培期間:1988年8/11〜10/14(環境制御温室)。
2)地温は各区とも高地温処理期間中が30℃とし、その他の期間は24℃とした。
3)跡地のB含量:+B区0.77ppm、−B区0.33ppm。
4)発症程度: Σ(発症指数×同株数)
  5×全調査株数
×100

表3  赤心症の発生株と未発生株の地下根無機成分含有率の比較
試験区 発症率(%) B(ppm) N(%) P(%) Ca(%)
水溶性 水不溶性 合計
+B 45% 0 12.7 14.1 26.8 2.10 0.47 0.23
55% 0 13.3 13.4 26.7 2.06 0.47 0.21
65% 0 16.7 16.5 33.2 2.02 0.51 0.25
−B 45% 100 2.5 12.9 15.4 2.23 0.47 0.24
55% 100 2.9 13.8 16.7 2.01 0.46 0.26
65% 75 3.4 13.4 16.8 2.06 0.45 0.29
1)品種:早太り聖護院。
2)試験区の+BはB施用区、−BはB無施用区を示し、%は供試土壌の最大容水量に対する水分量を示す。

表4  赤心症の発生に対する品種間差異
品種 根重(g/株) 発症率(%) 発症程度 地下根のB含有率(ppm)
−B +B −B +B −B +B −B +B
早太り聖護院 505 627 100 65 62 21 13.3 13.8
T-340 957 1038 100 25 35 9 15.4 17.4
夏みの早生3号 823 672 80 2 34 8 14.6 19.7
耐病総太り 828 858 40 5 18 1 12.8 16.6
涼太 660 825 55 0 18 0 13.3 17.2
献夏 661 671 55 0 14 0 13.4 18.1
おはる 874 785 40 0 13 0 13.2 18.8
福味2号 680 667 20 0 9 0 12.9 17.8
快進2号 803 888 15 0 6 0 13.8 17.0
幸太 778 817 10 10 3 2 14.1 18.4
1)栽培期間:1991年5/2〜7/1(環境制御温室)。
2)跡地土壌のB含量:+B区0.56ppm、−B区0.25ppm。
3)は種優45日目から30℃の高地温処理を行った。
4)発症程度: Σ(発症指数×同株数)
  5×全調査株数
×100

表5  マルチの処理とB施用が赤心症の発生に及ぼす影響
品種 試験区 根重(g/株) 発症率(%) 発症程度 B含有率(ppm)   跡地のB含量
地下根
聖護院 +B マルチ 1029 0 0 53.0 20.2 1.8
マルチ除去 1038 0 0 44.7 17.1 1.0
−B マルチ 1090 100 45 20.8 13.1 0.2
マルチ除去 1027 100 37 19.5 13.7 0.2
夏みの3号 +B マルチ 1203 62 17 89.8 25.0 1.8
マルチ除去 1225 50 15 80.6 22.7 1.3
−B マルチ 1164 54 14 75.9 18.2 0.3
マルチ除去 1152 77 20 65.6 16.8 0.2
1)栽培期間:1991年6/29〜8/23(農試ほ場)
2)シルバーマルチの除去:は種後24日目に行った。
3)発症程度: Σ(発症指数×同株数)
  5×全調査株数
×100

図1  シルバーマルチが地温に及ぼす影響(13時)
 注1)地温の測定は株間の地表下10cmとした。
   2)8/23に、ほ場からダイコンをすべて搬出した。

図2  環境制御温室での高地温処理(30℃、10日以上)区における青首系夏どりダイコンの跡地B含量と発症率との関係
 注)供試品種は耐病総太り、関白、涼太、献夏、福味2号、快進2号である。

11.成果の活用面と留意点
 後作を考慮し、Bは過剰施用しないこと。

12.残された問題点とその対応
 赤心症抵抗性の簡易判定法の開発