7.目的
　リンの施肥時期が牧草生育に与える影響を解析し、それに基づく効率的なリン施肥時期を設定する。

8.試験研究方法
Ⅰ.火山性土(根釧農試)
　1)オーチャードグラスに対する効率的なリン施肥時期
　2)チモシーに対する効率的なリン施肥時期
　3)チモシー・シロクローバ混播草地における効率的リン施肥時期
　4)経年的土壌酸性化とリン施肥時期
Ⅱ.鉱質土(天北農試)
　1)オーチャードグラスに対する効率的なリン施肥時期
　2)チモシーに対する効率的なリン施肥時期
　3)経年的土壌酸性化とリン施肥時期

リン施肥処理の概要

OG	TY
-P	-P
3回分施	2回分施
4月(早春)全量	4月全量
6月(1番後)全量	6月全量
8月(2番後)全量	9月全量
10月(3番後)全量

9.結果の概要・要約
Ⅰ.火山性土(根釧農試)
1)オーチャードグラス:乾物収量は3回分施が高く、リン含有率の差は小さかったが、リン吸収量は3回分
　施が高く2回分施、5月全量がそれに次ぎ、8月全量が最低であった。その結果リン吸収量と施肥リン利用
　率は3回分施＞2回分施＞5月全量であった。
2)チモシー:乾物収量は2回分施が高く、リン含有率は2回分施と5月全量が高く、リン吸収量と施肥リン利
　用率は2回分施が最大で5月全量がそれに次いだ。
3)チモシー・シロクローバ混播草地:マメ科率および合計収量に対するリン施肥時期の影響は不明瞭であ
　ったがリン含有率はTY・WCともに2回分施が高く、リン吸収量はTYでは2回分施が高くWCでは5月全量が
　高かった。その結果TYとWCの合計リン吸収量および施肥リン利用率は2回分施が最高となった。
4)土壌酸性化の影響:酸性化によって分施区の有利性が高まった。
・以上の結果から、火山性土に立地する草地における効率的なリン施肥方法は早春と各番草刈取り後(最終番草を除く)の分施である。酸性化条件では分施の有利性がさらに高まる。

Ⅱ.鉱質土(天北農試)
1)オーチャードグラス:乾物収量の差は小さいが4月全量が最高、8月全量が最低であり、リン含有率は4月
　全量と3回分施が高く、その結果リン吸収量と施肥リン利用率は4月全量が最高で8月全量が最低であ
　った。
2)チモシー:乾物収量の差は不明瞭であったがリン含有率は4月全量が高く、リン吸収量および施肥リン利
　用率も4月全量が最高で9月全量が最低であった。
3)酸性化の影響:経年的酸性化に伴い分施のリン吸収量が相対的に高まった。
4)土壌リン肥沃度の影響:リン肥沃度が高い場合やリン施肥量が少ない場合にはリン施肥時期の影響は不
　明瞭であった。
・以上の結果から、鉱質土に立地する草地における効率的なリン施肥方法は早春に全量施用することである。ただし、乾物収量に対する影響は小さく、土壌のリン肥沃度が高い場合、またはリン施肥量が少ない場合にはリン施肥時期の影響は不明瞭となる。これらの結果は「りん酸の施肥時期は早春全量が望ましいが刈取り毎の分施でもよい」とした昭和63年度指導参考事項(鉱質上草地のりん酸肥沃度に対応した施肥法)を追認したものである。

<結論>
火山性土
　・効率的な施肥時期は早春と刈取り後(最終番草は除く)の分権である。したがって分施を推奨する。
鉱質土
　・チモシーについて昭和63年度指導参考事項を追認した。

10.主要成果の具体的数字

草地におけるリンの効率的施肥法総括表(1)火山性土(根釧農試)

草種	オーチャードグラス	チモシー	TY・WC混播
乾物収量 ㎏/10a	3分＞2分≒5月＞8月≧6月 819　 801　792　 779　 761 (100)　(98)　(97)　(95)　(93)	分施＞5月＞6月≒9月 788　753　 731　 723 (100)　(96)　(93)　(92)	分施≒5月 896　 891 (100)　(99)
P2O5 含有率 %	2分≒6月≒3分≒5月＞8月 0.859　0.855　0.852　0.844　0.801 (100)　(100)　(99)　(98)　(93)	5月≒分施≧9月≧6月 0.563　0.559　0.549　0.544 (100)　(100)　(97)　(97)	分施＞5月 0.71　0.69 (100)　(97)
P2O5 吸収量 ㎏/10a	3分≧2分＞5月＞6月＞8月 6.98　6.88　6.69　6.51　6.24 (100)　(99)　(96)　(93)　(89)	分施＞5月＞6月≒9月 4.40　4.24　3.98　3.97 (100)　(96)　(90)　(90)	分施＞5月 6.33　6.12 (100)　(97)
施肥リン 利用率 %	3分＞2分＞5月＞6月＞8月 20.6　19.6　17.7　15.9　13.3	分施＞5月＞6月≒9月 12.1　10.5　16.9　14.5	分施＞5月 8.5　6.5
酸性化 条件での 施肥リン 利用率%	+Ca　　　　　-Ca 3分＞5月→→3分＞5月 20.6　17.7　　 17.9　14.1	+Ca　　　　　-Ca 分施＞5月→→分施＞5月 12.1　10.5　　 　16.9　　14.5

草地におけるリンの効率的施肥法総括表(2)鉱質土(天北農試)

草種	オーチャードグラス	チモシー
乾物収量 ㎏/10a	4月≧6月≒10月＞分施＞8月 825　　820　　815　　783　　762　 　(100)　(99)　　(99)　　(95)　　(92)	6月≧9月≒4月≧分施 701　685　　685　　674 (100)　(98)　　(98)　　(96)
P2O5 含有率 %	4月≒分施＞6月≧10月≒8月 0.994　0.986　0.949　0.926　0.923 (100)　(99)　　(96)　(93)　(93)	4月≧分施≒6月≧9月 0.536　0.520　0.516　0.506 (100)　(97)　(96)　(94)
P2O5 吸収量 ㎏/10a	4月＞6月≒分施≧10月＞8月 8.10　7.78　7.71　7.54　7.03 (100)　(95)　(94)　(92)　(86)	4月≧6月≧分施≧9月 3.67　3.61　3.51　3.47 (100)　(98)　(96)　(95)
施肥リン 利用率 %	4月＞6月＞分施＞10月＞8月 21.2　17.1　16.4　14.7　　9.5	4月≧6月＞分施＞9月 19.6　19.0　17.5　17.0
酸性化 条件での 施肥リン 利用率%	+Ca　　　　　-Ca 4月＞分施→→4月＞分施 31.1　22.0　38.9　29.9

(注)2分、3分は2回分施、3回分施を示す。単に分施とある場合はOGでは3回分施、
　TYでは2回分施を示す。4月、5月・・はその時期の全量施肥を示す。

11.成果の活用面と留意点
　牧草のリン吸収は草地土壌の経年的な酸性化に伴い低下するので、酸性化防止対策を優先的に講じる。

12.残された問題とその対応
　(1)干ばつ・越冬条件など気象ストレスの影響とリン施肥法の関係解明
　(2)他草種への適応性

13.研究成果の区分　　①普及