【指導参考事項】                (作成 平成4年1月)
1.課題の分類  総合農業 作業技術 防除・4
          北海道    物理   病虫
2.研究課題名  水稲に対する無人ヘリコプタによる薬剤散布実用化技術
3.予算区分  受託
4.研究期間  平成2年〜平成3年
5.担当  中央農業試験場 農業機械部 機械科
      中央農業試験場 稲作部 栽培第二科
6.協力・分担関係  なし

7.目的
水稲に対する無人ヘリコプタの薬剤散布精度、防除効果及び作業能率等を明らかにし、導入上の参考に供する。

8.試験研究方法
1)静止時の散布特性:
(1)供試機 R機、K機
(2)調査項目 機体調査、ロータ回転数、ダウンウォッシュ風速、散布吐出量、散布分布、付着性能
2)防除効果の確認:
(1)実施場所及び期日 稲作部圃場、平成2年7月27日、8月3、17日
                      平成3年7月22、29日、8月3日
(2)対象病害虫 いもち病、紋枯病、カメムシ類、ヒメトビウンカ
(3)調査項目 気象条件、薬剤付着状況、対象病害虫の発生状況
3)現地における利用技術の実証:
(1)実施場所及び期日 千歳市、南幌町、平成2年7月27日、8月9日、平成3年7月26日、8月9日
(2)対象病害虫 いもち病、カメムシ類、ヒメトビウンカ
(3)使用機種 有人ヘリ B種、無人ヘリ R機
(4)調査項目 ①有人ヘリ散布除外区へ飛散調査、②経済性調査

9.成果の概要・要約
1)R機、K機の2機種について静止時の散布特性を明らかにした。R機は散布装置がブームスプレ方式で、K機はアトマイザー方式である。ノズルからの薬液吐出量は一定で、飛行速度で散布量の調整が可能である。メインロータによるダウンウォッシュが散布のばらつきを軽減する効果があることが確認された(図1)。
2)防除効果は平成2年は紋枯病の発生がなく、効果確認はできなかったが、葉いもち病、カメムシについては、慣行防除に比べ同等かわずかに劣る程度と判断された。ヒメトビウンカに対しては、防効果が低く有効性が認められなかったが、丁寧に散布した3回目に関しては防除効果が高かった。平成3年はいもち病の発生がなく効果確認はできなかった。カメムシ類については慣行防除に比べて同等の効果はあった。ヒメトビウンカに関しては高い防除効果が認められた(表2)。
以上より、無人ヘリによる防除効果は慣行防除に比べて、同等の効果があることが確認された。
3)現地において散布作業性を検討した結果、両年通じて風速が3m/s以下の条件下で散布を行った場合、水平、垂直分布ともに均一であった。しかし、風速は高まると垂直分布は下部に少ない傾向があった。風速3m/s以上になると農薬飛散が増加した(表1)。
4)作業能率は、圃場区画の形状、大きさによって異なるが、3〜4ha/hであった。散布効率は2年間を通じて50%程度あり、薬液補給等ロスタイムを減らすことにより散布効率を高めることは可能である(表3)。
5)有人ヘリに対する補完性について検討した結果、有人ヘリ散布除外区の幅は100m必要と判断された(図2)。無人ヘリによる除外区の散布精度はほぼ満足すべき結果であった。垂直分布に若干むらが生じたが、風による影響が主たる原因であると判断された。ドリフトは風下側で100mまで達したが、これも風が原因であった。

10.成果の具体的数字
表1 散布作業精度
年次 場所 日時 風速(m/s) 水平分布 垂直分布 ドリフト(個/c㎡)
草冠 中位 下部 25 50 75 100m
平成2年 千歳 7/27 2.3〜3.0 B6.6 B6.0 B5.8 B4.5 2.8 0.4 0.5 0
均一 ほぼ均一
8/09 1.0〜1.5 B〜A6.7 A〜B6.0 A〜B5.3 A〜B4.8 0.4 0.4 0.4 0.2
均一 ほぼ均一
平成3年 南幌 7/26 3.0〜7.0 B4.6 B4.3 B2.8 B2.8 4.7 3.7 3.7 0.7
ほぼ均一 株内中位から付着性を劣る
8/09 0.0〜2.5 A5.0 A5.3 A4.5 A3.3 1.7 0 0 0
ほぼ均一 株内下部の付着性がやや劣る
恵庭 8/01 1.0〜4.0 A〜B6.2 A〜B5.0 A〜B3.8 A〜B2.8 3.0 4.7 5.0 3.7
ほぼ均一 株内中位から付着性を劣る
注)水平分布、垂直分布の数値は平均値、ドリフトは1c㎡当りの付着粒子数の統計である。

表2 防除効果
年次 対象病害虫 効果
平成
2年
ウンカ類
カメムシ類
いもち病
平成
3年
ウンカ類
カメムシ類
いもち病
注)効果覧 慣行防除に比べて
 △:同等がやや劣る
 ○:同等がやや優る
 ?:効果判別不能

表3 散布作業能率
年次 場所 日時 供試機 圃場
面積
(ha)
圃場
作業量
(ha/h)
作業
効率
(%)
圃場間
移動の
有無
平成
2年
千歳 7/27 R機 9.5 3.6 54.5
8/09 K機 4.7 2.6 81.3
平成
3年
南幌 7/26 R機 5.3 3.9 47.6
8/09 R機 5.3 4.1 53.9


図1 散布分布特性


図2 散布除外区への農薬飛散程度
(数字は付着紙1c㎡当りの粒子数)

11.成果の活用面と留意点
1)無人ヘリ散布にあたっては、操縦可能距離が150mであるため、長い圃場では途中で区切るなど圃場の大きさ、形状を考慮し、均一かつ能率的な散布に努める。
2)散布精度を高め、農薬飛散を少なくし、防除効果を安定させるため、風速3m/s以下で散布を行う。
3)散布作業者は農薬被曝を避けるため、防具を着ける他、散布圃場から離れるなど十分注意する。
4)薬剤散布にあたっては農水協により出されている「病害虫防除の手引き」等の指導要領に従って行う。

12.残された問題点とその対応