1.課題の分類 総合農業 作業技術 乾燥、麦-5-(1) 北海道 農業物理 2.研究課題名 高水分小麦の乾燥技術開発 3.予算区分 受託 4.研究期間 (平成元年〜3年) 5.担 当 道立十勝農試 農業機械科 6.協力・分担関係 道立中央農試 農産化学科 道立北見農試 小麦科 |
7.目的
子実水分が45%前後の高水分小麦をコンバインで収穫し、人工乾燥した場合の乾燥条件が小麦の品質に及ぼす影響を明らかにするとともに、品質を低下させないための高水分小麦の取扱法や乾燥法などを検討して、高品質小麦を安定生産するための収穫・乾燥技術開発の基礎資料を得る。
8.試験研究方法
1)試験期日 平成元年〜3年、成熟期以降2〜3日間隔でコンバイン収穫試験を実施。
2)試験場所 十勝農試圃場及び農業機械科実験室
3)供試小麦 秋播小麦 品種「チホクコムギ」、播種量:10㎏/10a(条間13㎝のドリル播種)
施肥量:N施用量4㎏/10a,麦類4号:100㎏/10a
4)供試コンバイン 普通型(汎用軸流)コンバイン、刈幅2m〜2.6m級
5)調査項目及び方法
(1)収穫試験: | 刈高さ、水分、損失調査、穀粒口組成、容積重、風乾品質、発芽率、アミロ値 |
(2)乾燥試験: | 加熱送風型の多段式乾燥装置にて子実乾燥および穂乾燥試験を実施した。 |
①穀物条件: | 子実、穂、稈10㎝付き穂、稈20㎝付き穂 |
②乾燥条件: | 風量比(1,2,3,4m3/s-t)、送風温度(外気温度+10,+20,+30℃) |
③調査項目: | 気温、湿度、雨量、各部温度、湿度、風量、静圧、蒸発量、穂・稈・子実別含水率 (105℃-24時間絶乾法)、粉色・粒色、粒度、容積重、発芽率、α-アミラーゼ活性値、 アミログラム粘度(道立中央農試農産化学科に分析依頼)、堆積高さ別通風抵抗 |
9.結果の概要
1)コンバイン収穫特性:成熟期に達した小麦子実の水分は45%前後で、稈水分は60〜65%であった。子実水分45%の高水分小麦を普通型コンバインで収穫した場合、損傷粒を含めた総損失は2.5%以内で、損傷粒を除く収穫損失は2%以内であった。子実水分が42%以上でコンバイン収穫を行うと、組成は包皮粒とふの混入が急激に増加する傾向が認められた。さらに子実水分が45%(稈水分65%以上)では包皮粒の混入率は50%になり、収穫の限界と考えられる(図1)。
2)高水分小麦の乾燥特性:子実の容積重は子実水分が30%以上の水分域ではO.62㎏/Lで、穂の容積重は子実の1/3程度、稈が10㎝付いた穂、20㎝付いた穂は、ともに子実のほぼ1/5程度であった。子実の乾燥速度は、熱風温度が40〜60℃で1.8〜4.5%/hとなり、穂の乾燥では同一温度・風星条件で約1/2程度であることが認められた(表1)。穂首と稈を10㎝、20㎝付けた穂の乾燥結果に大差はなかった。
3)発芽率:高水分小麦の発芽率は、はさ架乾燥小麦>子実(常温通風≧加熱通風)の順に高く、この傾向は熱風温度が高く乾燥速度大きいほど顕著であった。子実乾燥の場合、発芽率を90%以上にとどめるには乾燥速度を2%/h程度で行うのが限界と考えられるが、穂乾燥の場合は、はさ架乾燥とほぼ同程度の発芽率を示すことが明かとなった。
4)緑粒率:成熟期に達した子実水分が40%以下の小麦をコンバインで収穫し乾燥した場合、緑粒の割合は少ないことが明かとなった。子実水分40%以上の小麦では、穂のまま加熱通風乾燥した場合でも緑粒の発生はほとんど認められなかった(図2)。
5)粉の色調:乾燥方法とCGV(カラーパリュウ)値との関係を調査した結果、子実乾燥の場合は、常温通風処理でもプラス値が多く、+2に近い数値もあった。穂の場合は常温、加熱通風乾燥とも極めて良好で穂乾燥の有利性が確認された(図3)。
以上の結果から高水分小麦の品質を損なわずに収穫する方法として、緑粒の発生防止と夾雑物の混入を少なくするには子実水分が40%以下で収穫することが好ましく、子実乾燥法では、熱風温度は50℃程度とし、仕上がりまでの乾減率が2%/h程度の乾燥速度で行うのが望ましい。
10.成果の具体的数値
図1 刈取り子実水分を収穫損失との関係
図2 原料水分と乾燥処理後の緑粒割合
図3 乾燥方法とCGV(カラーバリュー)値との関係
表1 乾燥結果一覧(温度・風量比別)
期日 | 区分 | 風量比 (m/s-t) |
初期水分 (%w.b) |
乾減率 (%/h) |
発芽率 (%) |
緑粒率 (%) |
アミラーゼ Ln Avd |
カラーバリュー CGV |
7/15収穫 | はさ架乾燥 | 64.4(全体) | 99.0 | 0.14 | 1.04 | -0.40 | ||
17収穫 | 〃 | 67.3(全体) | 98.5 | 0.16 | 0.88 | -0.75 | ||
19収穫 | 〃 | 60.8(全体) | 99.0 | 0.88 | 1.77 | -0.77 | ||
22収穫 | 〃 | 64.9(全体) | 99.0 | 0.00 | 1.78 | 0.20 | ||
7/15収穫 | 子実-常温 | 44.8 | 0.57 | 81.5 | 5.07 | 1.50 | 0.70 | |
17収穫 | 〃 | 44.0 | 0.80 | 69.0 | 1.41 | 1.00 | 1.80 | |
19収穫 | 〃 | 33.2 | 0.34 | 84.0 | 1.31 | 1.77 | 1.49 | |
8/2収穫 | 〃 | 雨避けハウス | 17.2 | 0.12 | 100.0 | 0.00 | 1.55 | 0.02 |
7/17収穫 | 子実-45℃ | 1 | 44.8 | 2.08 | 68.5 | 2.75 | 1.32 | 1.08 |
〃 | 〃 | 3 | 45.0 | 3.71 | 68.5 | 2.12 | 0.96 | 0.23 |
7/19収穫 | 子実-50℃ | 1 | 37.7 | 3.09 | 79.0 | 0.15 | 1.37 | 1.00 |
〃 | 〃 | 4 | 38.6 | 4.25 | 77.5 | 0.50 | 1.34 | 0.91 |
7/22収穫 | 〃 | 1 | 37.3 | 2.96 | 78.5 | 0.00 | 1.28 | 1.90 |
〃 | 〃 | 4 | 37.5 | 4.74 | 81.0 | 0.00 | 1.49 | 1.65 |
〃 | 子実-60℃ | 3 | 30.6 | 2.23 | 78.5 | 0.00 | 1.36 | 2.30 |
〃 | 子実-70℃ | 3 | 34.5 | 7.06 | 55.0 | 0.00 | 1.33 | 1.77 |
8/2収穫 | 子実-50℃ | 2 | 31.7 | 8.06 | 90.0 | 0.00 | 4.59 | -1.73 |
7/17収穫 | 穂 | 常温 | 47.4 | 0.60 | 97.5 | 0.00 | 0.91 | -0.86 |
〃 | 穂+10cm稈 | 〃 | 50.1 | 0.66 | 98.5 | 0.00 | 0.74 | -0.99 |
〃 | 穂+20cm稈 | 〃 | 50.9 | 0.73 | 99.0 | 0.03 | 0.86 | -1.07 |
7/15収穫 | 穂-40℃ | 1 | 47.5 | 1.20 | 99.0 | 0.17 | 0.66 | -1.15 |
〃 | 〃 | 3 | 45.8 | 1.22 | 99.0 | 0.03 | 0.88 | -1.58 |
17収穫 | 穂-45℃ | 1 | 50.6 | 1.74 | 96.5 | 0.00 | 0.74 | -0.96 |
〃 | 〃 | 4 | 53.8 | 2.45 | 99.5 | 0.00 | 1.39 | -1.28 |
22収穫 | 穂-50℃ | 1 | 30.5 | 2.00 | 99.5 | 0.04 | 1.13 | -0.65 |
〃 | 〃 | 4 | 30.2 | 3.49 | 98.5 | 0.00 | 1.23 | -0.80 |
〃 | 穂-60℃ | 3 | 28.0 | 3.53 | 97.5 | 0.81 | 2.11 | -0.45 |
〃 | 穂-70℃ | 3 | 30.2 | 4.59 | 95.0 | 0.00 | 1.88 | -0.58 |
11.成果の活用面と留意点
1)子実水分が35〜40%の高水分小麦収穫は、普通型(汎用軸流)コンバインで行った。
2)収穫穀粒の組成が悪いと乾燥機処理時に支障の原因となり易いので、粒選にすること。
12.残された問題とその対応
1)本研究は普通型(汎用軸流)コンバインを用いたもので、他の脱穀方式の普通コンバインで適応確認
2)穂収穫・運搬・穂乾燥技術体系の確立
3)発芽率低下、粉色・粒色の退色及ぴ劣化原因の究明とコンバイン収穫条件の解明