1.課題の分類 総合農業 生産環境 病害虫 V-1 野菜茶業 野菜 作物病害 トマト 病害虫防除 病害 北海道 病理昆虫 2.研究課題名 野菜ウイルス病の生態制御技術の開発 CMV弱毒ウイルスによるトマト条斑病の防除 3.予算区分 経常 4.研究期間 (昭61年〜平3年) 5.担当 北海道農試 生産環境・ウイルス病研 6.協力・分担関係 道南農試・病虫予察科 |
7.目的
CMVによるトマト条斑病に対する弱毒ウイルスの実用化
8.試験研究方法
1)13種の非えそ性C型サテライトRNAをCMV-P(No.7)に置換して弱毒株を作出し、トマトに汁液接種後、温室及ぴ圃場においてえそ症状発現等のトマト生育阻害の有無を調査し、安定性の高い非えそ性サテライトRNAを選抜した。
2)選抜した安定性の高い非えそ性C型サテライトRNAの(55-1)RNA5及び(11)RNA5をそれぞれ置換したCMV弱毒株をトマトに予防接種した。北海道農試露地圃場に定植後、CMV-O(n2)強毒株を2次接種して干渉効果を検討した。同様に両CMV弱毒株を予防接種したトマトを道南農試露地圃場に定植後、CMV自然感染に対する干渉効果を調査した。
9.結果の概要・要約
1)13種のC型サテライトRNAのうち(55-1)及び(11)RNA5を置換したCMV弱毒株は、昭和63年、平成1、2、3年の北海道農試温室及び圃場試験でトマトにえそやモザイク症状を生じなかった(一部:表1)。供試15品種(福寿2号:+/+,桃太郎:Tm-1/+,ハウス桃太郎:Tm-2a/+,強力改良秀光:Tm-2a/+,ミニキャロル:Tm-2/+等)はいずれも無病徴であった。
2)平成2年5月14日、一次ウイルスとして2種類のCMV弱毒株をそれぞれ予防接種して北海道農試圃場に定植後、二次ウイルスとしてCMV強毒株を接種したトマト’ハウス桃太郎’はいずれも無症状で果実のえそ症状も見られず、高い干渉効果が確認された(表1)。
3)上記北海道農試露地栽培試験において、CMV弱毒株予防接種区のトマトは草丈、茎径ともに無接種区トマトと大差なく、果実収量は無接種区に比べ若干低下したが、CMV強毒株単独接種区に比べ、上物果実の収量の減収を大幅に抑制した(表2)。
4)道南農試露地栽培試験において、(55-1)及ぴ(11)RNA5を置換したCMV弱毒株を予防接種したトマト’強力改良秀光’は、いずれも生育後期の9月12日以降に2株ずつ(6.7%)えそ症状が見られたに過ぎなかった。2種類のCMV弱毒株接種区はいずれも無接種区と比較して発病株数、発病度ともに低く、高い干渉効果が確認された(表3)。
5)北海道農試及び道南農試におけるトマト露地栽培試験の結果、非えそ性C型サテライトRNA置換CMV弱毒株の予防接種によるトマト条斑病防除の有効性が確かめられた。
10.成果の具体的数字
表1 サテライトRNA置換CMV弱毒株によるトマト条斑病の防除(北海道農試圃場試験)
一次ウイルス (CMV弱毒株) 接種平成2年5月14日 |
二次ウイルス (CMV強毒株) 接種7月2日 |
9月26日 | 果実の えそ症状 発病株数c) |
|
発病株数a) | 発病度b) | |||
な し | CMV-O(n2) | 30 | 3 | 18 |
CMV-P(No.7)+(55-1)RNA5 | CMV-O(n2) | 0 | 0 | 0 |
CMV-P(No.7)+(11)RNA5 | CMV-O(n2) | 0 | 0 | 0 |
な し | な し | 0 | 0 | 0 |
CMV-P(No.7)+(55-1)RNA5 | な し | 0 | 0 | 0 |
CMV-P(No.7)+(11)RNA5 | な し | 0 | 0 | 0 |
表2 サテライトRNA置換CMV弱毒株接種によるトマトの生育及び収量に及ぼす影響
一次ウイルス (CMV弱毒株) 接種平成2年5月14日 |
二次ウイルス (CMV強毒株) 接種7月2日 |
8月2日 | 果実収量(kg)c) | ||
草丈(cm) | 茎径(mm) | 上物 | 規格外 | ||
なし | CMV-O(n2) | 132.4a) | 16.1b) | 49.7 | 24.6 |
CMV-P(No.7)+(55-1)RNA5 | CMV-O(n2) | 137.8 | 16.3 | 78.4 | 2.2 |
CMV-P(No.7)+(11)RNA5 | CMV-O(n2) | 141.0 | 16.4 | 84.3 | 5.6 |
なし | なし | 140.0 | 16.9 | 91.1 | 6.0 |
CMV-P(No.7)+(55-1)RNA5 | なし | 141.6 | 15.9 | 84.8 | 3.7 |
CMV-P(No.7)+(11)RNA5 | なし | 140.8 | 16.7 | 84.3 | 5.6 |
表3 サテライトRNA置換CMV弱毒株によるトマト条斑病の防除(道南農試圃場試験)
弱毒ウイルス | 調査 株数a) |
発病 株数 |
茎えそ 症状株数 |
発病度 |
CMV-P(No.7)+(55-1)RNA5 | 30 | 2 | 2 | 5.0 |
CMV-P(No.7)+(11)RNA5 | 30 | 2 | 2 | 3.3 |
無接種区 | 30 | 30 | 30 | 85.0 |
11.成果の活用面と留意点
1)非えそ性C型サテライトRNAを置換して作出したキュウリモザイクウイルス(CMV)弱毒株のトマト幼苗予防接種は、CMVによるトマト条斑病防除効果が極めて高い。
2)抑制栽培トマトの条斑病防除に、CMV弱毒株予防接種とアブラムシ忌避資材(ハウス被覆用紫外線カットビニール,シルバーマルチ,シルバーテープの使用:昭和63年度指導参考,道南農試病虫予察科)の併用が望ましい。
12.残された問題とその対応
サテライトRNA置換CMV弱毒株接種源の安定的保存法及ぴ大量接種法の確立。