【指導参考事項】
成績概要書                    (作成平成4年1月)
1.課題の分類  家畜衛生 豚 微生物感染共通
          北海道  畜産
2.研究課題名  優良道産系統豚「ハマナスW1」のSPF化
         (寒地におけるプライマリーSPF豚生産方式の確立)
3.予算区分  共同研究(民間)
4.研究期間  平成2〜3年
5.担当  滝川畜試研究部 衛生科・養豚科
6.協力・分担関係  ホクレン

7.目的
豚の慢性感染症は飼料効率,商品化率の低下及び衛生費の増大を招くなど、今日の養豚経営を圧迫している。この問題の解決には、在来の非健康豚をオールアウトし健康な満浄豚を常に導入・飼育する体系を築くことが最も効果的であり、本道においても清浄種豚の 生産と供給が強く求められている。こうした二ーズに応えるべくホクレンは、優良道産系統豚「ハマナスW1」のSPF状態での維持・増殖に着手した。清浄種豚生産のためにはその第一段階として、妊娠末期の母豚から手術によって摘出した子豚を人工哺育・育成することが必要である(プライマリーSPF豚の生産)。そこで本試験では、プライマリーSPF豚作出法について検討しつつ、「ハマナスW1」の維持群のSPF化を行った。

8.試験研究方法
1)子宮切断法による子豚の摘出・蘇生法の検討
2)摘出子豚の人工哺育・育成法の検討
3)SPF化されたハマナスW1の発育・繁殖成績の調査
4)プライマリーSPF豚の清浄度の調査

9.結果の概要・要約
1)手術予定母豚54頭中7頭が手術前に分娩したため、手術実施率ほ87.0%(47/54)であった。手術時に腸内容物による子宮の汚染のあった子豚は全頭廃棄としたため、手術成功率は89.4%(42/47)となった。手術成功母豚の手術時の妊娠日齢は113.9±1.0日であった。子宮から摘出され蘇生の対象となった子豚は、黒子等を除く357頭でうち291頭が蘇生し、蘇生率ほ81.5%,一腹当たりの蘇生子豚頭数は6.9頭となった(表1)。ハマナスW1の維持群形成にはこの程度の成績でも支障はなかったが、さらに蘇生技術の改善をはかる必要性が示された。蘇生子豚のうち他の目的に供した2腹18頭および体重過小等による淘汰子豚3頭を除く40腹270頭をSPF施設へ輸送したが(平均輸送時間13.6分)、途中死亡したのは蘇生時から虚弱であった1頭のみであった。
2)シムコ社製段ポールアイソレータを用いた人工哺育の育成率は、98.4%(245/253、平成3年11月末現在離乳成績)と極めて高く、生時体重500gの子豚でも育成可能だった。人工哺育作業の効率化のためにその条件を検討したところ、栄養水準100%・1目3回・14日齢離乳を標準法とするのが代用乳消費量・総哺乳回教・離乳後60日齢までの発育の面で最も妥当と考えられた(図1・2および表2)。
3)繁殖群を形成したプライマリーSPFのハマナスW1について90kg到達日齢および90kg時の背脂肪厚(1/2部位)を調査したところ、雄・雌それぞれ平均136.9日(24頭)、1.31cm(15頭)および142.7日(53頭)、1.24cm(36頭)と滝川畜試における成績とよく一致した(表3)。またそれらの繁殖成績は、初回交配日齢が平均227.5日(183〜268日)、初回交配受胎率が83.9%(26/31,ノンリターン法)と良好だった。
4)マイコプラズマ性肺炎・萎縮性鼻炎・アクチノバシラス症・豚赤痢・トキソプラズマ病・オーエスキー病の有無を調査豚18頭について検査したところ、これらの疾病は全く認められず、極めて高い清浄状態を維持していると考えられた。一方離乳後の死亡豚20頭の死因調査では上記6疾病は全く認められず、胃潰瘍が8頭,臍ヘルニアが6頭とプライマリーSPF豚であることに起因すると考えられる疾病が多かった。

10.主要成果の具体的数字

表1 摘出子豚の蘇生率
 
一腹子豚
頭数
蘇生対象
頭数
蘇生
頭数
蘇生
合計 42 394 357 291 81.50%
一腹平均   9.4 8.5 6.9  
参考:新鮮胚10個以上移植の実績(滝川畜試)
受胎率73%(8/11),平均産子数7.6頭

表2 人工哺育中の代用乳給与量
日齢 給与水準(g/頭/日)
100% 75% 50%
0〜3 60 45 30
4〜7 90 66 45
8〜14 120 90 60
15〜21 - 120 90
注:100%区は14日で離乳
1日の給与回数は7日目まで3回
8日以降2または3回(2回区・3回区)

表3 ハマナスW1の90kg到達成績
頭数 90kg到達日齢 90kg時体重 背脂肪(cm)*1
24 136.9±8.3 90.8±1.8 1.31±0.24*2
53 142.7±9.9 90.0±1.6 1.24±0.22*3
54 135.4±9.5 91.0±1.3 1.31±0.21 滝川畜試
検定成績
74 143.7±9.4 90.8±1.2 1.28±0.22
*11/2部位,*215頭の値,*336頭の値


図1 人工哺育装置


図2 60日齢までのハマナスW1の発育
  (人工哺育は1日3回給与の成績)

11.成果の活用面と留意点
1)プライマリーSPF豚の作出は一般的な技術ではないが、段ボールアイソレータを用いた人工哺育法は、プライマリーSPF豚の作出法として極めて有効である。
2)SPF化されたハマナスW1は、同様にSPF化された系統豚と組み合わせて利用することにより、著しい生産性の改善が期待できる。

12.残された問題とその対応
1)子豚蘇生技術の向上
2)清浄状態に適した飼料の開発
3)清浄化したハマナスW1の普及促進